第20章 雪神の帰郷
第633話
これまで体験してきた冒険譚を聞かせるという何とも不思議な依頼をこなしてからあっと言う間に数週間が過ぎ、トリアルに訪れていた冬の季節は雪解けが始まるのと同時にゆっくりと終わりを迎えようとしていた。
そんなある日の事、ロイドと本屋に寄った帰りに久々に顔を出してみた俺は雑談のつもりで王都の件をシーナと親父さんに話してみたんだが……どうやらこの選択は完全に失敗だったみたいだな……!
「もう!信じられないよ九条さん!私と言う者がありながら浮気をしてくるなんて!しかも相手は男の子って……九条さんって可愛ければ誰でも良いの!?」
「ちょ、だから声がデカいっての!つーか浮気って何だよ!?俺達は別に特別な関係でも何でも無いだろうが!親父さん!違いますからね!誤解しないで下さいよ!」
「お、おう……だがしかし、今の話が本当だとすると九条さんは凄い人だなぁ……」
「いや、そこで関心をされても困るんですけど……おいロイド!お前、こうなる事が分かってたんじゃないだろうなぁ?!」
「ふふっ、そんな訳ないだろう?私はただ、九条さんがどうしてキスをされたと言う事を黙っているのかなと思っただけさ。」
「こ、こんにゃろうめぇ……!」
満面の笑みを浮かべながらそんな事を言って来やがったロイドを見つめながら眉をヒクヒクさせていると、何故かプンスカと怒っているシーナが両頬を膨らませながら小さな唸り声を上げながらこっちを睨みつけてきた。
「むぅ~!九条さんには私と結婚してこのお店を継いでもらうっていう大切な役目があるのを忘れちゃったの!」
「アホかっ!そんな約束をした覚えはねぇっつうの!って言うか、結婚する相手ならもっと年齢の近い奴を選べよ!俺とお前でどんだけ離れてると思ってんだ!」
「ふん!分かってないなぁ九条さんは!大事なのは年齢じゃなくて相性!ずっと一緒だったとしても楽しいなって思えるのが重要なんだよ!ね、ロイドさん!」
「ふふっ、まぁそうだね。私も結婚相手を選ぶのなら年齢では無くて九条さんの様に隣に居続けても苦じゃない相手が良いな。」
「そういう事!これだから九条さんはダメダメなんだよ!」
「くっ……!どうしてこの流れで俺が責められる事に……!」
「すいません九条さん、娘には後でキツく言って聞かせますので……」
後頭部を触りながら申し訳なさそうな表情になっている親父さんとほとんど同時にため息を零した俺は、視線を下げた先にあった本の入った紙袋の事を思い出した。
「っと、そうだった。何時までもここでお喋りしてる場合じゃなかったな。」
「ちょっと九条さん!それってどういう事?私との事はお遊びだったっていたっ!」
「いい加減にしろってんだこのバカ!九条さんに文句を言いたきゃ、そういう関係になってからにしやがれ!あっ、だからって付き合っても良いって訳じゃないからな!勘違いするんじゃねぇぞ!」
「えぇー!何それ何それ!言ってる事がおかしくない?!」
「うるせぇい!お前にはまだ愛だの恋だのは早いってんだよ!」
「そんな事無いもん!私だって年頃の乙女だよ?恋愛の1つや2つ経験した……事は無いけど、勢いだけなら誰にも負けないんだから!」
「ハッ!だったらその勢いとやらは職人としての腕を磨く事に使いやがれ!皆さんに貰った素材を使ってな!」
「いや、腕を磨けったって肝心の素材なんてほぼ残ってないじゃん!……あっ。」
「……ロイド、そろそろ帰るぞ。何時までも仕事の邪魔をする訳にはい……シーナ、肩から腕を離すんだ。」
「えへへ~……九条さぁん?私ねぇ……実は欲しい素材があるんだけどぉ……くっ、逃がすかぁ!」
「えぇい!離せ!絶対に嫌だぞ!素材集めをしてくるなんて!そもそもの話、俺達はしばらくトリアルから離れる予定は無いっ!」
「そこを何とか!もしアレならダンジョンのボスの素材とかでも良いよ?」
「良いよ?じゃねぇよ!ボスだって倒すのに一苦労……なんだああああっ!」
「あぁっ!待ってよ!九条さあああああああん!!」
職人として鍛え上げられていた両手を何とか振り解いて加工屋を逃げ出した俺は、やれやれと言った感じで合流したロイドと一緒に我が家に帰って行くのだった。
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