第623話

 太陽がゆっくりと沈んで王都が茜色に染まり始めてきた頃、俺達は手にした地図の案内に従って特別なイベントが開催される会場の前までやって来ていた。


「九条さん、どうやらここが目的地の様ですね。」


「あぁ、そうみたいだが……コレってもしかして……」


「聖堂、だと思いますよ。うふふ、建物としては小さく見えますが歴史を感じさせる何かがありますね。」


「……だな……」


 それこそ神様が宿っていてもおかしくない荘厳なオーラを放ってる聖堂……いや、教会っぽい建物をしばらく眺めていると、扉が開いて斡旋所の制服を着た女性が姿を現した。


 そして俺達が居る事に気が付くと、パァッと笑顔を浮かべて小走りでこっちの方に駆け寄って来た。


「もしかして、イベントのご予約をされている九条様とイリス様でしょうか?」


「あっ、はい。すみません、時間に遅れてしまいましたか?」


「いえいえ、もう少しでご予約の時間になるのでお出迎えをと思いまして。」


「うふふ、どうもありがとうございます。それと今日はよろしくお願いしますね。」


「はい、かしこまりました。それではお2人共、どうぞこちらへ。」


 女性に促されるままに教会の中へと足を踏み入れていった俺達は、差し込んでくる夕陽に照らされた巨大なステンドグラスや瞳を閉じて静かに祈りを捧げているらしい聖女の石像を目の当たりにして2人揃って感嘆の声を漏らしていた。


「おぉ……こりゃまた凄いな……」


「えぇ、本当に……こんなに素敵な場所があったなんて知りませんでした……」


「ふふっ、ここを訪れた方々もそう仰って下さいました。しかし、ご存じでないのも無理はありません。もっと立派な聖堂が大通りの方にありますからね。多くの方達はそちらの方をご利用しているんです。」


「なるほど……それなら、どうして今回のイベントはこちらでやる事に?」


「そうですねぇ……理由としては幾つかあるんですけど、やはり一番の理由はここが誰にも知られずにあるのは勿体ないと思ったからでしょうか。このままではいずれ、廃墟となってしまい壊されてしまうのが見えていますからね。」


「うふふ、確かにそれは勿体ないですね。こんなにも心奪われる光景があるのに。」


「えぇ、そう言って頂けると私達も嬉しい限りです。さて、それではイベントを開始したいと思いますが……九条様、イリス様、よろしいでしょうか?」


「はい。お願いします。」


「かしこまりました。それでは九条様は右手側にある扉へ、イリス様は左手側にある扉へお進み下さい。」


「えっ、別々の扉に……ですか?」


「はい。その奥にある部屋に職員の者がおりますので、詳しいご説明はそちらで。」


「は、はぁ……それじゃあイリス、また……後でな?」


「うふふ、はい。また後でお会いしましょう。」


 指示されるがままイリスと別れて扉の奥にある部屋に向かって行った俺は、そこで待っていた職員さんからまさかの説明をされて……


「い、いやいや……冗談だろ……?」

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