第603話
……別行動を取ると宣言した通り一足先に宿屋を出て行きやがったマホ達を見送る事になってしまった俺は、何度目か分からないため息を零しながら身支度を整えると何故だかソワソワとしてる心を落ち着けつつ待ち合わせ場所へと向かって行った。
「ねぇねぇ、こんな朝早くからこんな所で何やってんの?」
「もし良かったらさ、俺達と一緒に何処か遊びに行かねぇ?ほら、今って王都の中ですげぇ面白そうなイベントをやってるじゃん!それに俺達と参加しようぜ!」
「すみません。僕、待ち合わせをしている人が居ますので貴方達と一緒に行く訳には行かないんです。」
「えー!そんな事言わないでさ!あっ、もしかして待ち合わせしてる子って女の子?だったらその子も一緒に俺達とイベントを楽しんじゃおうぜ!」
「そうそう!それなら人数的にも良い感じじゃん?」
「はぁ……アイツ、朝っぱらから変な奴らに絡まれてんなぁ……まぁ、あのバカ共が声を掛けたくなる気持ちも分からんでも無いけどな……」
女性物の可愛らしい服を当然の様に着こなしている美少女にしか見えない美少年と何とも哀れなチャラ男共の姿を遠目に発見したその直後の事、俺に気が付いたらしいイリスが満面の笑みを浮かべながらバカ達を素通りしてこっちに駆け寄って来た。
「おはようございます、九条さん。今日はよろしくお願いします。あれ、そう言えば皆さんはどうなさったんですか?お姿が見えませんが。」
「あぁ、実は色々とあってな……あいつ等は……」
「ちょいちょいちょい!おっさん、その子は俺達が先に声を掛けてたんだけど?何を急に横からかっさらってくれちゃってる訳?」
「そうそう!後から来て何をしてくれてんの?」
「……えっと、お前等には悪いんだけどコイツの待ち合わせしてた相手は俺なんだ。そんな訳だから声を掛けるなら別の奴をあたってくれ。」
「ハァ?いやいやいや、こんなにイケてる子はおっさんには勿体ないっしょ!」
「そうそう!アンタよりも俺達の方がよっぽど良いに決まってるって……ひっ!?」
「ん?どうしたんだ……うぇっ!?」
チャラ男達の標的が俺に切り替わってから数秒後……奴らの目の前にはドロドロとした殺気を放ちまくるイリスの笑顔があった訳でして……
「うふ、うふふ……貴方達……もしかして、九条さんの悪口を……イイマシタカ?」
「ぁ……っ……!」
「しょ!そ、れは……そのぉ……」
「もしそんな事を一言でも……たった一言でも口にしたのなら……僕は貴方達を……コロ」
「「し、失礼しましたああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!」」
「おぉ、あっと言う間に姿が消えちまったな……」
「……九条さぁん……僕、とっても怖かったですぅ……」
「うおっ!?おまっ、分かりやすい嘘を吐きながらいきなり抱き着くんじゃない!!つーかマジで止めて!人!人が見てるからぁ!」
さっきのやり取りのせいで周りに居る人達から変な注目を集めたまま俺にガシッと抱きついて胸の辺りに顔をうずめていやがるイリスを必死こいて引き剥がした俺は、荒くなった呼吸を鎮めながらあいつ等が今どうしているのかを伝えた。
「つまり、今日からイベントの間だけは九条さんと2人きり……という事ですか?」
「はぁ……はぁ……そ、そういう事だな……先に言っとくけど、だからって変に暴走したりするんじゃねぇぞ?今はイベントの影響で街中には大勢の人が……イリス?」
「……………………」
「お、おい?どうしたんだ?もしかしてさっきの奴らに何か………っ!?」
ちょっ!イ、イリスさんの表情が何だかヤバい感じになってるんですけどもっ!?えっ、コレって笑顔?笑顔で正解なんだよな!?
「うふふふ……うふふふふふ………そうですか……そうですかぁ……」
「イ、イリス?大丈夫か?もしかして何かんぐぅっ!?ど、どうして俺の両腕を……そんなに……力強く握り締めていらっしゃるので……?」
「……九条さーん……」
「な、何でしょう……か?」
「……僕……」
「ぼ、ぼく……?ひぅっ!!?」
「……この機会……絶対に無駄にはしませんからねぇ……うふふふふふ……」
……マホ……ロイド……ソフィ……お前達の気遣い……イリスは凄く喜んでくれたみたいだぞ……でもその代わり……俺、ビックリするぐらいにピンチでーーすっ!!
なんて事を思いながらヘビに睨まれたカエル状態になってしまった俺は、目の前で笑い続けているイリスと強制的に視線を交わし続けるのであった……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます