第574話

 幸運な事にモンスターと一度も遭遇しないまま目的地まで走り抜けられた俺達は、腰にぶら下げていたランタンの小さな明かりを消して不気味な闇の中にポツンと姿を現した古びた屋敷を草陰に潜みながら遠目に観察していた。


「……どうやらポーラの手帳に書かれていたのは正確な情報だったみたいだな。」


「あぁ、それに彼女が連れ去られたのもここで間違い無いだろうね。」


「うん、あの怪しい連中が何よりの証拠。」


 3人でジッと目を凝らして見つめた先には、武装した2人組がランタンを手にして両開きのデカい扉を護る様にして背を向けながら立っていた。


「九条さん、どうする?このまま一気に制圧するかい?」


「いや、まずはあの連中がどれぐらい居るのか建物をグルっと回って調べるぞ。俺は外に居る奴らを確認するから、2人は目視で構わないから建物内にどれだけの人数が居るのか確かめてみてくれ。」


「了解。」


「分かった。」


 ロイドとソフィの返事を聞いて小さく頷き返した直後、俺は身を屈めて足音を立てない様に気を付けながら武装した連中の人数を確認していった。


 その後、無事に建物の正面まで戻って来れた俺達は自分達が確認した事についての報告を始めるのだった。


「とりあえずザッと見た感じだと正面側はさっきと変わらず2人、両側面にはペアになってるのが2組ずつ、そんでもって裏手側は3人組が1つだな。ロイド、ソフィ、建物の中はどんな様子だった?」


「正確な事は分からないが……1階と2階に居るのは6人ずつだね。そして2人組となって決まった場所を巡回しているといった感じかな。」


「私にもそう見えた。」


「そうか……って事は、最低でも25人は武装した連中が居るって事かよ……そんでもって、ポーラが囚われている場所は……」


「屋敷の2階、室内灯の明かりが漏れ出ていたあの窓がある部屋だろうね。」


「……だろうな……警戒心が低すぎるのか、それとも絶対にバレない自信があるのか知らないがこっちとしては探す手間が省けて大助かりだ。」


 まぁ、罠かもしれないって可能性を考えない訳でもないんだが……今回はあんまり時間を掛けられないから目の前にあるチャンスに賭けてみるしかねぇんだよなぁ……


「九条さん、おおよその状況は把握出来た。次はどうするの?」


「……外側と内側、そこを護っている奴らを順番に黙らせていくぞ。」


 俺が小声でそう伝えるとソフィは表情を崩さなかったが、ロイドは少しだけ険しい顔を浮かべてこっちに視線を送って来た。


「いや、ちょっと待って欲しい。九条さん、それはつまり時間を掛けて屋敷の制圧をしていくという事かい?もしそうなら、私は別の案を出させて貰うよ。」


「……何だ?」


「今、敵は私達の存在に気付いていない。それならば、その隙を突いて一気に突入をしてポーラを救い出した方が良いと思うんだ。彼女がどんな酷い目に遭っているのか分からない以上、悠長に事を構えている余裕はないはずだよ。違うかい?」


「……ロイド、焦る気持ちは分からんでもないが落ち着いて考えてみろ。仮にお前の提案を聞いてポーラを助け出せたとしても、後に待ってるのは数多くの武装した連中なんだぞ?俺達だけならまだしも、戦えないアイツを連れて逃げられると思うか?」


「っ!それは……」


「多分、つーかほぼ確実に俺達は捕まっちまうはずだ……そんな最悪な事態を避ける為にも、不安の芽は潰しておいた方が良い。」


「し、しかし……急がないとポーラが……!」


「大丈夫だっての。忘れたのか?アイツはとびっきり優秀な記者様なんだぜ?悪人共からしても利用価値があるって思うだろ?それなら交渉を始めるはずだ。殺されたくなかったら自分達の味方になれってな。」


「……ポーラがその提案に乗るの?」


「いや、アイツはそんな奴じゃないから提案に乗りはしないだろ。でも、時間を稼ぐ為に乗ったフリはするはずだ。自己紹介なんかから始めてな。俺達はその間に屋敷を護っている連中を一人残らずぶっ倒して行く。静かに、素早くな。」


「……その予想が外れてしまったらどうするんだい?」


「その時は……そうだな、命懸けでポーラを救い出す。絶対に。」


 覚悟を持って、ロイドの目を真っすぐ見つめながらそう答えると……さっきまでの真剣な表情は何処へやら、困った様に微笑み始めて……


「やれやれ、そこまで言われたら九条さんの事を信じるしかないね。」


「ははっ、そりゃどうも。そんじゃまぁ……行くとしますか。」


「あぁ……必ず救い出そう。」


「うん。」


 決意を固めて正面の扉前に突っ立ってる2人組を眼前に捉えた俺達は、それぞれの武器を鞘から引き抜くとポーラを助け出す為の行動を始めるのだった……!

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