第568話

「2人だけズルい……そんな楽しそうな事をやるなんて知らなかった……」


「うん、ソフィの性格からして羨ましいって言うのは何となく分かってたけどさ……俺からしたら恐怖しか感じなかったんだよな……」


 普段から暮らしてる家に集まって皆で晩飯を食べながらロイドの実家でやってきた事を軽く説明した俺は、頬を膨らませていじけているソフィの事を見ながらため息を零して苦笑いを浮かべていた。


「ご主人様、カームさんってそんなに言うぐらい強かったんですか?」


「あぁ……力は俺以上、剣の扱いはロイド以上、そんでもって素早さはソフィと同じぐらいかソレ以上だからな……今日はかなり手加減してくれたんだろうけど、本気を出されたら恐らく一瞬で地面に横たわってただろうな……」


「そ、そんなにですか!?ソレは凄いですね……ご主人様、間違ってもカームさんに戦いを挑んだりしてはダメですよ!」


「そんなもん分かってるっての!つーか、俺がカームさんに勝負を挑むってどういう状況になったらそうなんだよ……」


「ふふっ、私の事を貰いたい時はそういう状況になるんじゃないかな?」


「アホ、冗談でもそういう事を言うんじゃねぇっての……ポーラに聞かれでもしたらそういう流れが現実になって俺に襲い掛かって来るだろうが。良いのか?俺が無様にボコボコにされちまっても?泣くぞ?許して下さいって号泣するぞ?」


「九条さん、それなら私が代わりに戦う……!だからロイド、さっきの話をポーラに聞かせて」


「こら、止めなさいっ!アンタって子は本当にどうしてそうなんだろうねぇ!少しは強敵と戦わなくても済む様に思考を働かせたらどうなんだい!」


「ご主人様!口調が変になってます!ちょっと落ち着いて冷静になって下さい!」


「ハッ!……すまん、取り乱した……ソフィ、今度ロイドの実家に行く事があったらカームさんに戦えるかどうか聞いといてやるから今の話は誰にも言うんじゃないぞ!分かったか?分かったら返事!」


「了解、誰にも言わない。」


「うん、よろしい。」


 熱い視線を交わして確固たる約束を交わした俺とソフィは、互いにフォークを持ちながら親指をグッと立て合った!


「おやおや、そこまで嫌がる事も無いと思うんだけどね。九条さんだってカームとの戦った事で少なからず得る物はあったんじゃないのかな?」


「……確かにそれを否定するつもりはねぇけど、ソレとコレとは別問題なんだよっ!俺は基本的に平和主義者だから、戦いとかは好きじゃねぇ……って、どうしてそんなおかしなモノを見る目つきをしてやがるんだ!?」


 俺の言葉を聞いてどういう訳だか首を傾げて納得がいかないという表情を浮かべていやがる全員にそう聞くと、皆は互いに視線を交わしていって……


「いや、だって……」


「九条さんが……平和主義者?」


「ふむ、私達の心配を他所にして危険な場所に出向いて行った事が何度もあった事が何度もあった気がするんだが……私達の記憶違いだろうか?」


「うぐっ!そ、それはぁ……色々な事情が折り重なった結果って言いますか……」


「……まぁ、良いですけどね。ご主人様が平和主義者だと言うのなら、それはそれで構いませんよ……えぇ、何の異論もありませんとも‥…」


「オイ、そうやって悲しそうにしながら俺を心を責めて来るのは止めるんだっ……!いや、マジで勘弁して下さいお願いします!」


 今すぐにでも土下座したい衝動に襲われながらテーブルに両手をついて頭を下げてから数十秒後、クスクスというロイドの笑い声が耳に届いてきた。


「ふふっ、そこまで言われたら仕方ないね。この話はここまでにしておこうか。」


「そうですね!あっ、ご主人様。明日は何かやりたい事はありますか?」


「へっ?あ、明日?いや、そんな急に言われても困るんだけど……ってか、ここまで空気をガラッと変えられると対応しきれないんですが……」


「九条さん、明日はクエストに行きたい。」


「ク、クエスト?いや、クエストは数日前にも行ったからなぁ……あっ、そうだ……明日の予定はポーラに決めてもらうってのはどうだ?」


「えっ、ポーラさんんにですか?どうしてまた?」


「いや、特に理由ってのは無いんだけどな。ただ明日ぐらいはアイツの行きたい所に付き合うのも面白そうだなって思っただけだ。」


「ふむ……確かに面白そうだね。私は九条さんの案に乗らせてもらうとするかな。」


「私もそれで良い。」


「私もです!」


「よしっ、それじゃあ明日はポーラの予定に付き合うって事で決定だな。」


 ちょっとだけ精神的にダメージを負いながらも話し合いが終わった俺達は、明日に備えてそれぞれの家に戻って行くのだった。

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