第563話

「うーん、やっぱりトリアルでも1,2を争う貴族の方が暮らしているお屋敷は色々凄いですねぇ!私、さっきから圧倒されっぱなしですよ!それにロイドさんが幼い頃から過ごして来たお部屋まで拝見させて頂いて……本当にありがとうございます!」


「ふふっ、ポーラに喜んで貰えたのなら何よりだよ。九条さんは何故だか私の部屋に一歩たりとも足を踏み入れてはくれなかったけどね。」


「……当たり前だろうが。普段から暮らしてるあの家でだってお前達の私室に入った事は無いってのに、そこよりも更にヤバそうな所に入れる訳ねぇだろうが。」


「これ九条、その言い方はロイドに失礼であろう。それではまるであの場所がボスが出現する部屋みたいではないか。」


「いや、似た様なもんだろうが……お前の部屋に足を踏み入れたが最後、きっと俺はカームさんの手であの世に送られる事になる。」


「そんな、ロイド様のお部屋に入るだけでそんな事は致しませんよ。まぁ、そこから何かやましいと思われる展開が起きた場合はその限りではありませんけどね。」


「うぅ、笑顔で怖い事をサラッと言わないで下さいよ……寿命が減りますから……」


「ふふっ、失礼致しました。それでは最後に私とロイド様にとって思い出深い場所にご案内させて頂きますね。皆様、こちらへどうぞ。」


 廊下でバッタリ出くわしたレミも交えて大量の本が貯蔵されている書斎や腕利きの料理人達が働いている厨房、その他にもポーラの希望で豪勢なトイレやら広々とした風呂といった少しだけ首を傾げたくなる様な場所を案内されていた。


 そんな中、先頭を歩いていたカームさんにそう告げられた俺達は彼に従って1階にある外廊下までやって来ていたのだが……


「九条さん見て下さいよ!目の前に何だか分からない大きな建物がありますよ!」


「お、おぉそうだな……ロイド、アレって何なんだ?」


「ふふっ、入ってみれば分かるよ。さぁ、行こうか。」


 ニコっと微笑みかけてきたロイドに何とも言えない不安を感じながらも2人の後に続いて建物の中に足を踏み入れると、目の前に見覚えのある空間が広がっていて……


「へぇ……!カームさん、ここってもしかして訓練所というやつですか!?」


「はい、その通りでございます。ここでは日々、護衛部隊の者達が鍛錬を積み重ねているんです。勿論、私も含めてになりますけどね。」


「そして、私が幼い頃にカームから剣術指南を受けていた場所でもあるね。」


「ほほぅ、つまりロイドの剣術の腕はここで出来上がったという訳か。」


「あぁ、ここに来ると当時の事を思い出すよ。カームは幼い私を容赦なく痛めつけてくれたからね。」


「ロイド様、そんな風に言われたら皆さんの私に対する心象が悪くなってしまうではありませんか。私としても本当に心苦しかったのですからね。」


「ふふっ、ごめんごめん。冗談だよ。カームには感謝しかしていないよ。君が剣術を私に叩き込んでくれたから、今こうして皆と一緒に居られるんだからね。」


「……ありがとうございす。そう言って頂けると本当に嬉しく思います。」


「……九条さん、良いんですか?2人、何だか良い感じですよ?大丈夫ですか?」


「……ポーラ、ちょっとだけ静かにな。」


 余計な気を回してきたポーラに釘を刺しつつ楽しそうに思い出話に花を咲かせてる2人の後姿を見つめていると、急にカームさんが数歩前に進んで振り返って来た。


「そうだロイド様、もしよろしかったら久々に稽古を付けてさしあげましょうか?」


「ふむ、稽古をかい?」


「えぇ、このお屋敷を出られてから随分とご成長なさったみたいですので。」


「ちょ、ちょっと待って下さいよカームさん!稽古って……まさかこれからロイドと戦うつもりですか?!」


「はい、ロイド様がよろしければのお話になりますが……いかがですか?」


「……良いね、久々にやろうか。」


「ロ、ロイド!?」


「ふふっ、そんなに心配しなくても大丈夫だよ九条さん。お互いに手加減はきちんとする予定だし、ポーラとしても訓練風景なんて写真を撮りたいんじゃないかい?」


「は、はい!そう仰ってくれるのは嬉しいですが……本当に良いんですか?」


「あぁ、それでは早速だが準備に取り掛かろうか。」


「かしこまりました。」


「お、おいおいおい……マジでやるつもりかよ……?」


 驚きも戸惑いも隠せないまま慣れた感じで訓練を始めようとする2人の様子を困惑しながら見守っていると、ロイドとカームさんは形状が全く同じ訓練用のブレードを手にして部屋の中央に向かい合いやがった……!


「カーム、訓練内容はどうする?」


「制限時間は5分、魔法は無し、お互いがどちらかに一太刀を入れたら終了。それでいかがでしょうか?」


「了解。九条さん、訓練開始の合図を頼めるかな?」


「え、えぇ……本気、なのか?」


「あぁ、本気だよ。私がこの屋敷を後にしてから……いいや、九条さんと知り合ってからどれだけ成長したのかをカームに知って貰いたいからね。」


「……カームさんも良いんですね?」


「はい、お願い致します。」


「……分かりました。それでは訓練……開始っ!!」


 覚悟を決めて大声でそう叫んだ次の瞬間、ロイドとカームさんは同時に走り出して訓練という名のガチの戦いを始めてしまうのだった……!

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