第533話

 宝箱に入っていた宝石やジーナが欲しがりそうな素材以外を売り払って得た報酬で昼飯を食べ終えた後、浴衣を買いに行くという皆と別れて1人寂しく別荘まで戻って来た俺は留守番をしていたレミとユキに神鳴の洞についての話をするのだった。


「なるほどのう……やはり他と変わらぬ普通のダンジョンであったか。」


「あぁ、出現したボスもそれなりに強かったが神って言える程じゃあなかったな……それはそうと、ジーナの姿が見当たらないけどアイツは何処に行ったんだ?」


「ジーナならジッとしてるのも退屈だって言って、ついさっき買い物に出かけたわ。運が良ければ皆と出会ってるんじゃない?」


「ふーん、そうかそうか……そういう事ならお前達も出掛けるとしますかね。一応、浴衣を買えるであろう分の金は預かってあるからな。」


「おっ、流石じゃな九条!そうと決まれば早速行くとするか!」


「ちょっと、人目もあるんだからあんまりはしゃぎ過ぎないでよね。」


「はっはっは!そういうお主こそ、心の中はウキウキしておるのではないか?」


「は、はぁ?そんな訳ないでしょ!アタシはそんなにお子様じゃないわよ!」


「あぁもう、いちいち喧嘩なんかすうなっつうの。それより2人共、出掛ける準備はもう出来てるのか?」


「おっと、そうであったな!すまんが少しだけ待っていてくれるか?急いで身支度を整えてくるのでな!」


「アタシも少しだけ部屋に戻らせてもらうわね。」


「了解、そんなに慌てる必要も無いから思う存分やってこい。」


「うむ、それではまた後でな!」


「あっ!ちょっと、廊下を走るんじゃないわよ!」


 まるで姉妹の様なやり取りをしながらレミとユキがリビングから出て行った直後、2人と入れ替わる様にしてメイド長さんが姿を現してこっちに歩み寄って来た。


「お帰りなさいませ九条様。ダンジョンの攻略、お疲れ様でございました。」


「あぁいや、別に疲れたって程でも無いんですが……メイド長さんの方こそ、2人の面倒をみていてくれてありがとうございました。」


「いえいえ、レミさんもユキさんも面倒を掛ける様な事は一切していませんよ。」


「ははっ、それなら良かったです。あっ、そう言えばメイド長さん達は花火大会には参加したりしないんですか?」


「はい、私達にはこちらの別荘を護るというお仕事がありますから。」


「そうですか……でも、ちょっとぐらいは行ってみたいとかって思いませんか?」


「うーん、そう問われてしまうと困ってしまいますね。確かに私も綺麗な浴衣を着て花火を見に行きたいと思わなくもないんですけども……やはりメイド長としてここを離れる訳には参りません。他の使用人達にも示しがつきませんから。」


「あー……だったらそこは交代制にして、順番に花火大会に参加してくって言うのはどうですかね?ほら、当日は俺達も外出しているから居ない訳ですし……」


「ふふっ、素敵なご提案ありがとうございます。ですが……」


「はぁ~そんなに悩む必要なんてないでしょ。」


「うむ、その通りじゃな!」


 申し訳なさそうな表情を浮かべたメイド長さんが言葉を濁していたその時、部屋着から着替えた2人がリビングに戻って来て俺達の方に近寄って来た。


「ユキ様……それにレミ様も……もしかして、私達の話を?」


「えぇ、だからあえて言わせてもらうわね。花火大会、行きたいって気持ちがあるんなら行きなさいよ。どうせ仕事自体もそんなにある訳じゃないだし、アタシ達だってアンタ達に自分を犠牲にして欲しい訳じゃないんだから。」


「いえ、別に自分を犠牲にしている訳では……」


「はっはっは、そうであるならば遠慮せず花火大会に参加するが良い。ここからでも見れる事は見れるが、やはり花火と言う物は間近で拝むのが一番綺麗に見えるぞ。」


「あ……えっと………」


 レミとユキの言葉に珍しく戸惑いの表情を浮かべているメイド長さんと目が合った俺は、座っていた椅子から立ち上がって2人と並び立つと……


「メイド長さん、たまには息抜きをするって言うのも大事ですよ。」


「………ふふっ………ありがとうございます。そういう事でしたら皆さんのお言葉に甘えさせて頂きますね。」


「うむ、そうするが良い!」


「ヤレヤレ、これでようやく買い物に出掛けられるわね。」


「そうだな……それじゃあメイド長さん、行ってきますね。」


「はい、いってらっしゃいませ。」


 こうしてメイド長サントのやり取りを終えた俺達は、手に入れた報酬で浴衣を買う為に大通りの方へと向かって行くのだった。

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