第521話

 シュダールとウォーシューターの扱いに慣れてきた皆とチームを組んでタッグ戦をする事になったり、さっき勝負に敗北したから軽くパシられる事になったり、疲れた体を癒す為にうきわに乗って波にゆらゆら揺られたりしていると……


『海へお越しになっている皆様へ。間もなく12時となりますのでお体を休める為にご昼食と水分補給をされる事をお勧め致します。』


 海岸沿いに並ぶ様に立っているスピーカーからノイズ音と共にそんなアナウンスが聞こえてきたので渋々体を起こして海に入った俺は、皆と合流する為に休憩場所まで戻って行った……しかし……


「あれ、お前達だけか?ルゥナさんとフィオは?」


「さぁ?私達も今さっき戻って来た所だから……クリフ君は見てない?」


「我も心当たりは無いな。」


「そっか……九条さん、どうする?探しに行く?」


「うーん、そうだなぁ……ん?」


 何だろうこの流れ……昼時……居なくなった2人……あれ、2人だって?ちょっと待てよ…いや、でもそんなまさか……でも、可能性としては考慮すべきなのか……?


「九条さん、どうかしたんでしか?何か悩んでいるみたいですけど……」


「……クリフ、悪いんだが俺と一緒に来てくれるか?」


「何だ急に、我の力が必要と言う事か?」


「まぁ、そんな所だ。皆はここで待っていてくれ。俺達とすれ違いになって、2人が戻って来ないとも限らないからな。」


「うふふ、分かりました。」


「九条さん、クリフ君、お腹が空いたのでなるべく早く帰って来て下さいね!」


「了解、それじゃあ行くとするか。」


「うむ、致し方あるまい。それで九条透、我と何処へ行こうと言うのだ。」


「あぁ、それはだな……」


 どうにも嫌な予感がしてきたので少しだけ早足になりながらクリフに行き先を説明した俺は、周囲を警戒しながら人目に付かない内に海の家の前を通り過ぎて行った。


「おい、九条透……先程の看板にここは立ち入り禁止の場所だと書いてあったが……良いのか、勝手に侵入してしまって。」


「良い訳ないだろ……見つかっちまったら確実に怒られるわ……しかも俺は、今回と合わせると2回目の侵入だからなぁ……どう考えてもヤバい……」


「それならばどうしてこんな所に来たのだ?フィオだけならともかく、ルゥナ先生が立ち入り禁止の看板を無視するとはどうしても思えないのだが……」


「それには心の底から同意してやるよ。けど、俺の経験則が間違ってないなら……」


 言葉を途切れさせて歩く速度をゆっくりにして先の方へ進んで行くと……何処からともなく話し声の様なものが俺達の耳まで届いてきた。


「……どうやら、貴様の経験則とやらが当たってしまったみたいだな……」


「あぁ……ったく、またこんな展開になってんのかよ……!」


 舌打ちしたくなる気持ちを押さえながらクリフと目を合わせて大きく湾曲している所までやって来た俺達は、右側に存在している木々に身を隠しながら海岸の奥の方へ視線を送ってみた……そうすると……


「まぁまぁ、そう固い事を言わなくても良いじゃんか!なっ?どうせだったら、その知り合いちゃん達も一緒に俺達と遊ぼうぜ!」


「そうそう、ここで会ったのも何かの縁ってやつなんだからさ!」


「そ、そんな事を言われても困ります!お願いですからそこを退いて下さい……!」


「…………」


 フィオを背にして不安そうにしているルゥナさんと見覚えのあるバカ野郎2人組が性懲りもなくデジャブを感じさせるやり取りをしていやがった!


「チッ、やっぱりかよ……あいつ等、マジで学習能力ってもんがねぇのか!?」


「おい、どういう事だ九条透。あの者達は貴様の知り合いなのか?」


「知り合いって訳じゃねけど顔は知ってる……やべぇぞ、急いであの場を収めないとこの海岸が真っ赤に染まっちまうぞ!」


「は?何故そんな事になる?まさかあの2人が奴らに襲われるとでも言うのか?」


「違う!逆だ逆……よく考えてみろ。お人好しのルゥナさんだけだったらまだしも、あのフィオがあんなバカな連中にノコノコついて行くと思うか?」


「いや、それは……だが、それならばどうしてこんな所まで……ま、まさか……!」


「理解したか?それなら急いであの2人を助けに行くぞ!」


「あ、あぁ!」


 クリフと共に木陰から飛び出して4人の間に勢いよく割って入った俺は、クリフと向き合う様な形になりながら顔だけを後ろに向けてバカ野郎共と視線を交わした!


「きゃあ!……えっ、クリフ君に……九条さん?」


「な、何だってんだいきなり……って、テメェは!?」


「ど、どうしてここに……!まさか、また俺達の邪魔をしに来やがった」


「うるせぇ!命が惜しかったらさっさと逃げやがれ!」


「は、はぁ?いきなり現れたかと思ったら何を訳の分かんねぇ事を」


「貴様達、言葉が通じんのか!よく見てみろ!そして感じるのだ!我の後ろに居る者から溢れ出す敵意と明確な殺意を!」


「は?え、どういう…………」


「お、おい?どうしたん……だ………」


「分かったか……?お前達が相手にしようとしていたのは、暴れ出したら止まらない狂犬みたいな奴なんだよ!」


「その男の言う通りだ!もし、我らの助けが間に合わずに貴様達が変な気を起こして背後に居る者達に手を出そうとしていれば……暴れ龍が目を覚ましてこの夏が終わるまで病院のベッドで過ごす事になっていたのだぞ!」


「「っ!?」」


「そうなりたくなかったら、ここは俺達に任せて早く逃げやがれ!そしてもう二度とこんなバカな真似はしないって誓いやがれ!お前達も……死にたくないだろ……!」


「ぐっ……くっ……!」


「な、なぁおい……どうするよ……」


「ど、どうするも何も………クソっ!覚えてやがれええええええ!!!」


「あっ!お、俺を置いて行くなってえええええええ!!!!!」


 俺達の熱い説得が通じたのか足をもつれさせながら以前と同じ様に森の中へ逃げて行った男達の姿を見送った俺は、ホッと胸を撫で下ろすと正面を向いてええええ!?


「うぎゃああああああああああああああ!??!?!?!!!!」


「ク、クリフううううううううう!!?!?!!?!」


 大空へと舞い上がって沖合いに飛んで行くクリフの姿に驚いて海の方に体を向けた次の瞬間、俺の方に誰かがポンッと優しく手を……置いて来て……


「九条さん……私達を助けに来てくれてありがとうございました……本当に……えぇ本当に……心の底から感謝していますよ……」


「あ……あはは……お、おい……どうしたんだよフィオ……な、何だか口調が……お、おかしく……ないでしょうかねぇ?」


「うふふふふ……ごめんなさい、やっぱり違和感がありますよね……だって九条さんから見た私は…………暴れ出したら止まらない……狂犬……なんだからよぉ……」


「あぁいや……それはあいつ等を騙す嘘と言うか……フィ、フィオさん?何だか……肩が……ミシミシ鳴ってる気がするんですけど……も……!」


「さぁ、覚悟は出来てるよな……?折角の獲物を逃がしやがったその罪……テメェの体で償いやがれえええええええええ!!!!!!!!」


「ギャアアアアアアアアアアアアア!!?!??!!!?!!!」


 ぐるんと視界が一回転したかと思ったその直後……風を切り裂く様な音が聞こえてきて俺の視界には雲一つない青空が広がって……へへ……人助けも楽じゃねぇな……

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