第518話

「ふぅ、とりあえずはこんなもんかな……クリフ、そっちはどんな感じだ?」


「ふーっはっはっは!愚問だな、この程度の事は造作もないわ!」


「そうかい……よしっ、そんじゃあ最後の仕上げに取り掛かるとしますかね。」


「ふんっ、完璧に仕上げてやろうではないか!九条透、ぬかるでないぞ!」


「はいはい、言われなくても分かってますよっと……」


 クリフと協力して砂浜の上にレジャーシートを敷き終えた俺は、ついさっき海の家から借りてきた幾つかの日除けパラソルと簡易的な木製ビーチベットの設置を始めていくのだった。


 ……それからしばらくして、汗だくになりながらも恐らく誰にも文句は言われないだろう休憩場所を何とか確保する事が出来たのでクリフと共にちょっとした達成感に包まれつつホッと一息ついていると背後から砂浜を走る足音が聞こえてきた。


「2人共、お待たせっ!いやぁ、遅れちゃってごめんね!思ったてたよりも着替えに時間が掛かっちゃってさ!」


「あぁいや、別に大丈じょう…ぶ……だ……」


「ん?どうしたの?……ははーん、もしかして私の水着姿に見惚れちゃったのかな?まぁ、その気持ちはよ~く分かるよ!でも、固まってばかりいないで感想の1つでも聞かせてくれたら凄く嬉しいんだけどな~」


「ぁ……あぁ……うん、そうだな……」


 上半身がタンクトップに近い形をしている白色のビキニを着たジーナにニヤニヤと見つめられながら、フリーズしそうになっている頭を必死に働かせてどうにか感想を伝えようとしていると……!


「九条さん、クリフ君、お待たせしてしまって申し訳ありません。それと休憩場所の設営、どうもありがとうございました。」


「おぉ~!わざわざわビーチベッドにパラソルまで用意してくれたんですか!これは感謝しなくてはいけませんね!」


 下地が赤色で綺麗な模様の描かれたパレオタイプの水着姿になったルゥナさんと、フリルの付いたオレンジ色のビキニを着たオレットさんがカメラを片手俺達の前まで歩いて来て……


「ふーん、完璧とやらには程遠いが及第点ぐらいはくれてやれそうだなぁ……まぁ、今回だけはコレで勘弁してやるよ。」


「アタシ的にはもう少し頑張ってほしかった所だけど、急いで作ったにしてはかなり良い出来なんじゃない?少しだけなら褒めてあげても良いわよ。」


 その後ろからはスポーツタイプの黒色の水着を着たフィオと肩出しのワンピースに近いカラフルな花柄の水着を着ているユキの姿が……そして、一番最後にやって来て俺達と合流する事になったのは……


「うぅ……やっぱり僕みたいなのにはこの水着は似合わないんじゃないかな……」


「うふふ、そんな事はありませんよ。僕と同じぐらいには可愛らしいと思いますから自信を持って下さい。」


「うむ、お主は自分が想像しているよりも魅力的な奴じゃ!もっと胸を張って堂々としておれ!きっとあやつお主の水着姿を気に入ってくれるはずじゃぞ!」


「そ、そうでしょうか……?それなら……」


 見た目に合った水色のワンピースを着たレミとホットパンツに見える紺色の水着と淡い紫色をした薄手のパーカを羽織ったイリス……それから昨日、あの店でオレットさんに押し切られる形で買った可愛らしいピンク色のビキニを着ているエルアで……


「「……………」」


 想像を遥かに超えた美少女達の水着姿を間近で見る事になった俺とクリフは、2人揃って思わず言葉を失ってしまうのだった……


 そんな何とも情けない姿を晒しながら固まっていると、意を決した様な表情をしたエルアがゆっくりと俺達の前までやって来た。


「あ、あの!……どう……でしょうか……?似合って……ますか?」


「っ!?……お、おう……なぁ?」


「う、うむ……我はその……良いと……思うよ……」


 俺達の言葉を聞いたエルアは不安そうにしていた顔を一変させるとパァっと明るくそれでいて少し照れくさそうな表情になり始めた……かと思ったその直後!いきなり目の前にイリスの姿が現れて至近距離で妖艶な微笑みを浮かべやがった?!


「うふふ、九条さん。エルア先輩に見惚れてしまう気持ちも分かりますけど……僕の事もしっかり見ていて下さい……ほら……どうですか?」


「ちょ、ちょまっ!見える!上着の隙間から胸元が見えるから、前屈みになりながら近寄って来るなって!つーか何してんだよお前は!?」


「九条さん、僕達は男同士ですよ。だ・か・ら……どれだけ見られたとしても、僕は全然構わないんですよ。さぁ……好きなだけ僕の事を見つめて下さ……エルア先輩、お願いですから離してくれませんか?」


「ダ、ダメに決まってるだろ!イリス、君は一体何をしてるんだ!?」


「うふふ……決まってるじゃないですか。僕の魅力を九条さんに分かってもらう為の努力をしているんですよ。それが何か問題ありますか?」


「あ、あるに決まってるだろ!ここは人の目が多くある海岸なんだぞ!?そんな所でこれ以上は流石に見過ごせないぞ!」


「……仕方ありませんね。それでは九条さん、この続きはまた後でという事で。」


「……チッ、ゲス野郎が。」


「ったく、こんな所で盛ってんじゃないわよ。」


「い、いやいやいや!そこでどうして俺に文句を言うんだ!さっきのはどっからどう見ても俺の方が被害者だっただろうが!注意をするならイリスにしてくれよ!ってかルゥナさん!先生として今のはどうかと思いますよね!」


「そ、そうですね!いけませんよ、イリスさん!貴方はまだ学生の身なんですから、もう少し節度のあるお付き合いをして頂かないとダメなんですからね!」


「うふふ、ルゥナ先生。顔を真っ赤にして可愛らしいですね。」


「こ、こら!先生をからかうんじゃありません!」


「はい、申し訳ありませんでした。さてと……それでは九条さんにクリフ君、僕達の水着姿について改めてご感想をお願いしますね。」


「「……えっ?」」


「あっ、そう言えばちゃんとまだ聞いて無かったよね!折角こうして水着になった訳なんだから、やっぱりここは異性からの意見も貰っておかないとだね!」


「うむ、その通りじゃな。お主達、ここは男の見せ所じゃぞ!わし達が満足する様に声を大にして褒め称えるのじゃ!」


「あぁ、言っとくけど中途半端な褒め言葉は受け取らないからそのつもりでね。」


「オ、オイ…‥どうするのだ、九条透!」


「ど、どうするも何も……!」


「え、えっと……私は恥ずかしいのでお褒めの言葉は頂かなくても別に……」


「なぁにを言ってるんですかルゥナ先生!それだけ爆発的で魅力的なボディを彼らの前に晒しているんですから、きちんと褒めて褒めて褒め称えられるべきです!勿論、私も褒められますけどね!さぁ九条さん、クリフ君、張り切ってぇどうぞ!」


「……テメェらの感想はオレには必要ねぇから、勝手に道具を漁ってるぜ……って、何しやがるオレット!」


「ふふ~ん、フィオちゃんだけ仲間外れなんてそんな事はさせないからね!だって、こんなにも魅力的なんだから2人の感想を聞かないなんて勿体ないよ!」


「う、うるせぇ!別に良いんだよオレは!」


「はいはい、恥ずかしがらないの!それじゃあ二人共、改めてお願いします!」


 大きな声で発せられたオレットさんの一言により皆からの視線を集める事になった俺達は、互いに視線を動かして横目で見つめ合うと……


「どうやら……退路は……無くなったらしいな……」


「そう……みたいだな……」


 心の中にある抵抗と言う名の文字がポキッとへし折られた俺達は……とてつもない羞恥心に襲われながら全員の水着姿について感想を伝える事になるのだった……!

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