第462話

 同じ階にある職員室から始まり1科と2科の生徒が使っている教室といった感じで上の階から順番に何があるのか案内された俺達は、そのついでにロイドが学生だった頃の思い出話やミアの事なんかを聞きながら1階まで降りて来ていた。


「ふぅ……以前ここに来た時はそんなに思わなかったが、こうして見て回ってみると王立学園ってマジで広いなぁ……しかもこの予定表通りに移動するとなるとコレ……1日で俺の足がぶっ壊れちまうんじゃねぇのか?」


「ふふっ、もしそうなったら私がお姫様抱っこで九条さんを運んであげるよ。」


「まぁ、それでしたら私もお手伝い致しますわ。」


「任せて。」


「い、いえ!皆さんにそんな無理をさせる訳にはいきません!こ、ここは私が責任を持って九条さんをお運びしますから!ふんっ!」


「……おじさん。」


「……はい、申し訳ありませんでした……」


 ワル乗りしている3人と真っすぐな瞳を向けてきたルゥナさんに心をへし折られた俺は、さっきのは冗談でしたと頭を下げて謝る事にするのだった……


「さてと、それではルゥナさん。次は何処に行くんだい?ここからだと……保健室が近いからそこに」


「ま、待って下さいロイドさん!ほ、保健室はまた後にして……そうです!生徒達が戦闘訓練をする場所があるのでそこに案内しますね!さぁ、付いて来て下さい!」


「あっ、ちょっとルゥナさん!?……行っちまった……どうしたんだ一体?」


「さぁ……ロイドさん、保健室に何かあるんですか?」


「いや、私が知るかぎりではごく普通の保健室だよ。ミア、何か知っているかい?」


「うーん、どうでしょう……あっ、そう言えば新学期が始まってから保健室の先生が新しくなりましたね。もしかしてソレが関係しているのでは?」


「保健室の先生?どんな人なんですか?」


「えっと、綺麗な女性の方でしたよ。ただ、それ以上の事は分かりませんが……」


「なるほど……って、こんな所で立ち話をしてる場合じゃ無かったな。」


「あぁ、見失う前に急いで後を追いかけないとね。」


 話を切り上げて廊下を少し進んだくらいで慌てて戻って来たルゥナさんと合流した俺達はそのまま戦闘訓練所に向かって行き軽く説明を受けると、来た道も戻ってまた1階のロビーにやって来るのだった。


「そ、それでは……これから保健室にご案内したいと思います……!」


「あのぉ……ルゥナさん、どうしてそんなに覚悟を決めた表情を?もしかして新しく保健室の先生になった方と何かあったんですか?」


「い、いえいえ!そういう訳では無い……とも言い切れないとも………あの、決して悪い人では無いんです。そこだけは覚えていて下さい!」


「は、はぁ……?」


 恥ずかしそうに自分の体を抱きしめながらそんな事を言い出したルゥナさんを見て揃って首を傾げた俺達は、彼女の後に続いて独特の香りが漂ってくる保健室の前までやって来るのだった。


「すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……うぅ……どうか居ません様に……」


「……ルゥナさん、本当にどうしたんでしょうかね?」


「……分からん……ただ、どういう訳か嫌な予感がしてきたな……」


 俺の本能がここから逃げ出した方が良いと告げている中、ルゥナさんは意を決したかの様な表情を浮かべて目の前にある扉にノックをしていった。


「ル、ルゥナです!失礼します!」


 ガラガラガラ……と、音を立てて開かれた扉の向こうに俺達を待っていたのは特におかしな所も無さそうな保健室の風景と……ニコリと……こっちを見て……っ!?


「あらぁ、ルゥナちゃんじゃないの。いらっしゃい、どうしたの?私に何か用事でもあったの………あら?あらあら?そこに居るのはもしかして……うふふふ……」


「さらばだっ!!」


「あっ、おじさん!!」


 白衣!金髪!紅い口紅!そして見覚えのあるねっとりとした笑顔を目にした瞬間、廊下は走らないで下さいの張り紙を横目にしながら俺は猛ダッシュでその場を逃げて行くのだった!ってか……ど、どうしてドクターがここに居るんだああああっ!!!

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