第453話

「皆様、本日はこれにて失礼させて頂きます。また王都でお会い致しましょうね。」


 優雅に微笑みながらそう告げたミアが王族用のゴツイ馬車に乗ってロイドの実家を去ってから数時間後、エリオさんとカレンさんの厚意で昼飯をご馳走になったりして我が家に帰って来た俺が何をしているのかと言うと……


「あぁ~………あぅあぅあぅ……………うぉうぉうぉ………‥」


「いやはや、これは重症だね。」


「家に戻ってからずっとこのまま。」


「はぁ……ちょっとご主人様、何時までそうしているつもりなんですか?そうやって嘆いていたって何にも変わりませんよ!ほら、シッカリして下さいっ!」


「うぅ……ほっといてくれぇ……ちきしょう……行きたくねぇよぉ……どうして俺が学園なんかで教師の真似事なんか……マジで何の嫌がらせなんだ……!」


「ふふっ、そうは言いつつも皆の為を思っったら断り切れなかったんだろう?私は、そんな九条さんの事を素敵に思うよ。」


「うんうん、ロイドさんの言う通りですよご主人様!それに学園に行けば久しぶりに皆さんとお会い出来るんですよ!そう考えれば良いクエストじゃないですか!」


「いや……そう言われりゃそうかもしれけどさぁ……」


「皆も九条さんに会えるのを楽しみにしてるってお姫様が言ってた。」


「そうですよ!それなのにご主人様がこんなに嫌がっているって知ったら、皆さんがとっても悲しんでしまいますよ!それでも良いんですか!」


「そ、それは……って、ソレが本当かどうかは分らんだろ?お姫様が勝手に言ってる事かもしれないし……」


「まぁ、確かに真実かどうかはまだ分かりません!でも、お姫様の話が嘘かどうかも分からないじゃないですか!それに……もしクエストの件を皆さんが知っていたら、行かない方がマズイ事になる気が……しませんか?」


「……どういう事だ?」


「えっと、つまりですね?ご主人様が学園に来るかもしれないと聞いていたのに……それが叶わなかったとなると……会いたいという気持ちが裏切られたって考えて……ここに突撃してくる可能性のある人物が……」


「よしっ!何時までもクヨクヨしていられないな!クエストを引き受けたからには、体調を万全にしておかねばなるない!そうだなマホ!間違っても風邪なんか引いたり出来ない!そういう訳だなマホ!」


「は、はい!そうですね!」


「ふふっ、私としては強引に攻められる九条さんを見るのも楽しみだけどね。」


「おいロイド!あんまり不吉な事を言うんじゃない!と、とりあえず5日後に王都を訪れて国王陛下に会うぞ!ソフィ、謁見えっけんする為の書類は無くして無いだろうな!」


「うん、そこに置いてある。」


「よぉし!無くさない様、厳重に保管しておくぞ!お前達、分かっているとは思うがこのクエストは絶対に失敗出来ない!いや、諦めざるを得ない状況になっちまうかもしれないがとりあえず学園には行くぞ!そうしないと!そ、そうしないと……!」


 アイツが……アイツがまた赤いレインコートを着て俺の前に現れる可能性ががっ!そ、それだけは絶対に阻止しなければ!お、俺の……俺の純情を護る為にもっ!


「……ここまでご主人様を動揺させる事が出来るって、ある意味流石ですね……」


「あぁ、それだけ心に深く刻み込まれているという事だろうね。少しだけ妬けてきてしまうよ。」


「凄いね、イリス。」


「うぅ……ううぅぅぅ………!」


 頭を抱えてソファーに顔をうずめた俺は……王都に行く日を無事に迎えられる様に体調管理を徹底しようと心の中で固く誓うのだった!

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