第16章 七不思議とヤンキー少女

第447話

 春が終わり少しずつ梅雨の季節が近づいて来た事を肌で感じられる様になってきたある日の事、特に目的も無く街をブラついていた俺はたまたま顔を合わせたシーナに連れられて加工屋へとやって来ていた。


「いやぁ、ごめんね九条さん!こんな日にわざわざ店の掃除を手伝わせちゃって!」


「あぁ、別に気にしなくても良いよ。どうせ家に居たってやる事も無かったしな。」


「えへへ、そう言って貰えると助かるよ!本当は親父とやる予定だったんだけどさ、九条さん達がくれた素材のおかげでそれなりに忙しくってね!今は仕事で必要になる消耗品を買いに出掛けてるからどうしたもんかと思ってたんだ!」


「ふーん、俺達が渡した素材を役立ててくれている様で何よりだよ。」


「いやいや、役に立ってる所の話じゃないよ!本当に皆には感謝してるんだからね!でもまぁ、これから先はちょっとだけ売れ行きが怪しくなるかもなんだよね。ほら、雨のせいで客足が減ってきちゃうからさ。」


「あーまぁ確かにな……今日も営業中だってのに人が居ねぇし……」


「はぁ~本当に困ったもんだよねぇ……けど、それならそれで他の事に時間を使えるから悪い事ばっかりって訳でも無いんだよね!店の掃除をしてみたり、貰った素材で新しい武器や防具が作れないか考えてみたり、結構大忙しなんだよね!」


「ふーん、そりゃ良かったな。」


「うん!それで九条さんの方はどんな感じなのさ?今日は1人だったみたいだけど、他の皆は何をしているの?お家でお留守番?」


「いや、あいつ等はこれからの季節に備えて買い物してくるだとよ。」


「えっ、そうなんだ。どうして九条さんは一緒に行かなかったの?」


「……色々あるんだよ、男には。」


「?」


 小首を傾げながら不思議がっているシーナには理解出来ないだろうが、あの3人と買い物……特に服なんかを選びに行くとマジで数時間近くその場で拘束される上に、ロイドなんかは俺をからかってくるからメチャクチャ疲れるんだよなぁ……


 そんな事を考えながら手に持っていた箒を杖にしてガックシと肩を落としていると扉が開く音がして、顔を上げてみると濡れた雨具を身にまとった親方の姿があった。


「あっ、お帰りなさい!どうだった、外の様子は?」


「あんまり良いとは言えねぇな。雨が少しだけ強くなってきてやがる……九条さん、掃除を手伝ってくれている所で悪いんですがそろそろ帰った方が良いですよ。」


「そうですか……いやでも、まだ途中ですし……」


「そうだよ親父!九条さんを返しちゃったらこの後が大変じゃんか!それにそれに、もうちょっとしたら雨も弱くなるかもしれないから最後まで手伝って貰おうよ!」


「バカ言ってんじゃねぇ!そもそもお得意様である九条さんに遠慮もしないで掃除を頼むだなんて何を考えてやがるんだ!」


「むぅー!別に良いじゃん!無理やりやらせてる訳じゃないもん!ねぇー?」


「あ、あはは……まぁ、こっちも日頃お世話になっていますから気を遣って頂かなくても大丈夫ですよ。困った時はお互い様ですから。」


「……すいません、ウチのアホがご迷惑をお掛けしてしまって。」


「だーかーら!アホって言う事ないじゃん!」


「やかましい!大体お前はいつもいつもそうやって……」


「なにおぅ!?」


「ま、まぁまぁ2人共落ち着いて!掃除もまだ残っていますし、親方もその格好じゃ風邪を引いてしまいますから早く着替えてきた方が良いんじゃないですか。」


「あっ、それもそうだね!ちょっと待ってて、すぐにタオル持って来るから!」


「お、おい!……ったく、アイツは……九条さん、申し訳ありませんがしばらくの間ここで待っていてもらえますか?」


「はい、分かりました。」


 ……そんなこんながありながら店の掃除を手伝う事になった俺は、そのお礼としてちょっとした小物を渡されて家に帰る事になるのだった。

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