第399話

 落ちてしまった体力と戦いの勘を取り戻す為に数時間近くモンスターと戦い続けた俺達は、陽が暮れる前に街に戻って行き斡旋所で報酬を受け取るとヘトヘトになった体を引きずりながら家まで戻って来るのだった。


「ご主人様、ロイドさん、体の具合はどんな感じですか?良い感じですか?」


「ん?まぁそうだな……この調子なら旅行日までには何とかなるんじゃねぇかな。」


「私の方もそんな感じだね。もう何度か戦闘を繰り返せば以前の様に体を動かせると思うよ。」


「えへへ!それなら良かったです!ソフィさんも、今日はお疲れ様でした!」


「うん、頑張った。」


 マホに褒められて得意気……に見える様な表情でピースをしているソフィを横目で見ながら静かにため息を零した俺は、座っていたソファーからよっこしょっと離れて買ってきた本の入った紙袋を手にするとテーブルの上に乗せるのだった。


「さてと、そんじゃあ風呂が沸くまでの間にノルウィンドがどんな街なのかを簡単に調べてみるとしますか。正直、このまま風呂に入って晩飯まで食っちまったら速攻で寝ちまう可能性があるからな。」


「ふふっ、確かにそれは言えてるかもしれないね。そんな訳だから、すまないけれど付き合ってもらっても良いかな。」


「はい!ではでは、買ってきた本を見てみましょか!」


「あぁそうだな……とは言え、どれもこれも似た様なのばっかりなんだけどな。」


 『ノルウィンドのお勧め温泉(男性編)』や『ノルウィンドのお勧め温泉(女性編)』とか、『恋人同士で行く!愛が深まる温泉特集!』『これぞ定番!温泉100選!』みたいな物からモンスターに関連した本まで……って、何時の間に買ってたんだ……


「うーん、こうして改めて見てみると本当に凄いですよねぇ……流石は温泉が有名な街って感じがします。」


「ふふっ、どれもこれも魅力的でまいってしまうね。」


「……全部に入れるかな。」


「いや、この表紙に書いてある事が本当なら絶対に無理だと思うぞ……って言うか、100種類以上も風呂があるって……どんだけ広い街なんだ?」


「えっとですね……王都に続いて2番目に大きな街みたいですよ!昔、大きなお山を切り開いて築き上げられたみたいです!」


「うへぇ……それって高低差が凄まじいって事だろ?…………いや、ここで行かないなんて選択肢は無い……!エリオさんとカレンさんの厚意を無駄にする訳には………でもなぁ……歩き疲れそうだなぁ………」


「もう!それならそれで、体力を付けるのにもってこいじゃないですか!」


「それに疲れて汗を掻いたらすぐ温泉に入れるよ。」


「やったね、九条さん。」


「う、嬉しくねぇ……!」


「はいはい、分かりましたから本を見て下さいね。とりあえずは旅行の目的である、傷に効く温泉を探していきましょう!その後は入ってみたい温泉ですね!私、美肌に効果があるのとか入りたいです!」


「ふふっ、それは私も興味があるね。他にも温泉以外の観光地もあるみたいだから、それも参考にしつつ予定を決めていこうか。」


「……ソフィさーん、当たり前の様にモンスターに関する本を読むんじゃない。」


「……おかまいなく。」


「ほらほら、ご主人様!ソフィさんの邪魔をしてないでコレを見て下さいよ!本当に凄いですから」


「はいはい……ったく、しょうがねぇなぁ……」


 俺はため息を零しながら興奮しているマホと爽やかな笑みを浮かべているロイドに近寄って行くと、様々な温泉が載っている本を一緒に見ながら何処に行きたいか等の予定を立てていくのだった。

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