第378話

 翌日、俺は自分が作った朝飯を皆と一緒に食べながら今日はどんな風に過ごすのかなんて話し合いをしていた。


「ロイドの事を考えると家で大人しくしていた方が負担は少ないんだろうが……」


「ふふっ、そんなに気を遣ってくれなくても大丈夫だよ。ライルやリリアのおかげで私に関する噂も落ち着きをみせてきているかもしれないからね。」


「うーん、そうだと良いんですが……やっぱり心配ですね……」


「……それなら皆でクエストに行きたい。」


「クエストかぁ……まぁ、様子を見るって意味ではそうした方が良いんだろうけど、俺としては最初の家で大人しくって案を採用して欲しい所だなぁ……」


「もう、だらしないですよご主人様!」


「いや、そうは言うけどさぁ……たまにはのんびりと休みたい……ん、なんだ?」


「……誰か来たみたい。」


「こんな朝早くに?一体誰が……」


「あっ!もしかしたら、エリオさんがロイドさんに噂に関して新しい情報を入手したからソレで使いの人が来てくれたのかもしれませんよ!」


「ふむ……そういう事ならば私が出てこよう。皆は少しだけここで」


「ちょっと待てロイド………俺が対応してくる。お前達は俺が良いって言うまでここから動くんじゃないぞ。」


「えっ?あ、はい……分かりました……?」


 きょとんとしながら首を傾げているマホから目を逸らして椅子から腰を上げた俺は皆を残してリビングを後にすると、ノック音が繰り返し聞こえてきている玄関の方に向かって行った。


「このタイミング……そんで俺の予感が正しければ……」


 出来る事なら間違っていて欲しいと願いながら下に置かれているロイドのブーツを靴棚の中に仕舞い込んだ俺は、一呼吸おいてから鍵を外して扉を開けた。


 ……その先に立っていたのは張り付けた様な笑みを浮かべている銀髪のイケメンと武装した怪しい格好の連中だった。


「朝早くに申し訳ございません。貴方に少々お聞きしたい事があるのですがよろしいでしょうか?」


「……何ですか?」


「こちらのお隣に家を構えているロイドさんという方を探しているのですが、何処にいらっしゃるのかお分かりになりませんか?先ほど確認させていただいたのですが、どうやらお留守のようなんですよ。」


「さぁ、ちょっと分からないですねぇ……」


「そうですか、それは残念です。貴方ならご存知かと思ったのですが。」


「……どうしてそう思ったんですか?って言うか、どなたですか?」


「あぁ、これは失礼致しました。私、リーパー・アレクシスという者でございます。お初にお目にかかりますね………九条透さん。」


 なるほど、こっちの事はもう調べがついてるって事か……でも、それを悟られたら色々と面倒だからテンプレ通りの反応を見せてやるとしますかね。


「……リーパー・アレクシスさんつったか……何で俺の名前を知ってるんだ?」


「ははっ、そう警戒なさらないで下さい。実はロイドさんとお近づきになりてくて、彼女に関する情報を集めていたら貴方の事も偶然知ってしまったんです。確か、同じギルドに所属していてそこのリーダーを務めていらっしゃるとか。」


「……よく調べていますね。」


「はい、やるからには徹底的にやる主義なので……しかし困りましたね。九条さん、本当にロイドさんの居場所はご存じないんですか?」


「えぇ、ご期待に応えられなくてすみません。」


「いえいえ……ですが、それならば彼女に言伝をお願い出来ませんか?」


「……構いませんよ。何て伝えれば良いんですか?」


「ありがとうございます。それではそうですね……私はしばらくこの街に滞在をするつもりなので、もし叶うのならば見合いをする場を設けて欲しいと……それが叶わぬ場合は……それ相応のお覚悟を……そうお伝えください。」


「……それは脅しですか?」


「ははっ、愛しいと思っている相手にそんな事はしませんよ。ですが……痛くもない腹を探ってきた家名の悪評、広げられては困りますよね?……それでは、私はこれで失礼させてもらいますね……行くぞ。」


「ハッ!」


 こっち返事も聞かずきびすを返して道端に停めてあった派手な馬車に乗り込み去って行った奴の姿が見えなくなるまでその場で動かずにいた俺は、小さくため息を零すと頭をガシガシと掻いてリビングに戻って行くのだった。


「ご、ご主人様……あんまり会話は聞こえてこなかったんですけど、さっきの人ってもしかして……」


「あぁ、リーパー・アレクシスだとさ……まさかこんな早く来るとはな……」


「九条さん、彼とはどんな話を?」


「…………」


 真剣な表情を浮かべるロイドにそう尋ねられた俺は玄関先でした奴とのやり取りの内容を、最初から最後まで説明していった……


「そ、そんな!それって明らかに脅しじゃないですか!もし自分と会わなかったら、家族や仲間を傷つけるぞっていう!」


「……許せない。」


「俺も同感だが……奴の事を探っていたのは事実だ。もしそれを被害者面して貴族の連中に訴えたりしたら……マズい事になるだろうな。」


「あぁ、父さん達は貴族達からの信用を一気に失う事になるかもしれないね。」


「チッ、どうしたもんか……」


「あっちもロイドさんの事も勝手に調べられたんですから、それでどうにかなったりしないんですか?」


「難しいだろうね。恐らく先に仕掛けたのは父さん達の方だ。それを公表されたら、どうしたってこっちが厳しい立場になると思うよ。」


「そ、それじゃあ……どうすれば………」


 悲痛な面持ちのマホが消え入りそうな声でそう呟くと、リビングに重苦しい沈黙が流れ出して……それからしばらくしたら、ロイドが短く息を吐き出す音が聞こえた。


「……仕方がない、彼の提案を受け入れる事にしよう。」


「ロ、ロイドさん!?それは……!」


「……危ないと思う。」


「あぁ、確かにそうだろうね……だが、皆に迷惑を掛ける訳にはいかない。」


「め、迷惑だなんてそんな事はっ!」


「マホ、落ち着け。」


「で、でもご主人様!」


「だから……落ち着け。」


「う、うぅ………」


「はぁ………ロイド、本気で奴と会う為の場所を作る気なのか?」


「うん、そのつもりだよ。」


「……分かった、それなら今すぐにお前の実家に行くぞ。これからどうするべきか、エリオさんやカレンさんやカームさんと相談しないといけないからな。」


 椅子から腰を上げて皆の顔を見渡しながらそう告げた直後、さっきまでリビングに流れていた空気が少しずつ変わり出してきて……


「そ、そうですよね!ロイドさんの為に頑張りましょう!」


「うん、やれるだけの事はやる。」


「おう!よしっ、そうと決まれば出掛ける準備だ!」


「はい!」


「分かった。」


「……ふふっ、本当に……ありがとう、皆。」


「はっはっは、礼は全てが終わった後にしてくれ!なっ!」


「……うん、そうさせてもらうね。」


 それから気合を入れなおして身支度を整えて家を出発した俺達は、エリオさん達にリーパー・アレクシスが来た事を伝える為にロイドの実家に向かって行くのだった。

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