第360話
「………眠れん………」
あれから必要最低限の会話だけをして就寝時間を迎えた俺達は、無言でそれぞれの部屋に戻って行ったんだが……
「……はぁ……やっぱあの対応はマズかったかなぁ……」
ガドルさんが仕掛けてきた事に動揺していたとはいえ、もうちょい気の利いた台詞でも言えれば良かったんだろうけど……
「結局の所、どうしたいのか決めるのはアイツ自身だからな……」
仮にソフィが俺達の説得に応じて残ってくれる事になったとしても、心の何処かに必ず後悔とかそういった
ついこの間まで親子の姿を言うのを見続けてきたソフィに、ガドルさんがどういう思惑で俺達を引き離そうとしているかなんて言えないよな……
「……それに一回り以上も年齢が離れているアイツをこの俺が引き留めるってのは、色々な意味でアウトだし……って、この考えに至るのは何度目だよ……」
部屋に戻って来てからこの自問自答の繰り返しでどんだけの時間が……って、もうこんなに経ってたのか……どんだけウジウジしてたんだよ……
「はぁ……もういい加減に寝るとするか………」
眠気なんてこれっぽっちも無いけど、このままじゃ朝まで悩み続けそうだしな……無理やりでも目をつぶっちまうしかねぇか……
自分にそう言い聞かせながら照明を消す為にベッドから降り立ったその直後、扉がノックされる音が部屋の中に響いてきた……?
「……九条さん……起きてる?」
「その声……ソフィか?こんな時間にどうした。」
「………ちょっとだけ……話がしたい……」
「……分かった、ちょっと待ってろ。」
突然の来訪者に驚き戸惑いながら扉を開いてみると、そこには静かにうつ向ているソフィが佇んでいた。
「………ごめんなさい……起こしちゃった……?」
「いや、それは気にするな。それよりこんな所で立ち話もなんだから……入るか?」
「……うん……」
消え入りそうなぐらい小さな声で返事をして部屋に入って来たソフィをとりあえずベッドに腰掛けさせた俺は、隣に座る訳にもいかないと考えてで腕を組みながら壁にもたれ掛かる事にした。
「………」
「………」
今にも壊れてしまいそうな儚さがあるソフィの姿をしばらく見つめていた俺は……一向に喋ろうとしない彼女の代わりに口火を切る事にした。
「……ソフィ、改めてになるがこんな時間にどうしたんだ?」
「………」
「………もしかして、これからどうしたら良いのかって言う相談に来たのか?」
俺の問いかけにゆっくりと頷いてみせたソフィは、ベッドのシーツをギュッと握り締めるのだった。
「私は……どうするべきなの?………何が……正解なの……分からない……どれだけ考えても……答えが……出てくれない………」
「………」
「皆と一緒に居たい……でも、ぱぱとままとも……一緒に居たい……九条さん………私は……どうしたら……」
……俺達と共に過ごす事を選べばガドルさんとサラさんと会えない日々が……逆に2人と過ごす日々を選べば俺達との別れが……こんな時、物語の主人公だったら気の利いた台詞の1つや2つ吐いてソフィの悩みを解決する事が出来るんだろうが……
「……悪いが、俺の意見はさっきと変わらない。どうするべきかはお前が決めないといけないんだ。」
「……っ……」
本当に……自分が嫌になるな……分かってるんだ、ソフィに行かないでくれと……俺達と共に居てくれと言うべきだって事ぐらい……だけど、それじゃあダメなんだ。
俺の……俺達の言葉でここに留まったら、それが言い訳になっちまう……あの時、両親と共に歩む道を選べなかったのは俺達のせいだと考える様に……
もしかしたらそんな考えには至らないかもしれない……だが、例えそうだとしても自分自身の意志で進むべき道は選ばなくちゃならないんだ……どれだけ辛くてもな。
「………」
「……部屋に……帰るね……」
「……あぁ……」
俺は静かにベッドから立ち上がって扉の方に歩いて行ったソフィをなるべく見ない様にうつ向きながら、左手で二の腕が痛くなるのも構わずに握り続けて彼女が部屋を出て行くのを待っていると……
「……九条さん……最後に……これだけ聞かせて欲しい……」
「……何だ?」
「………私が居なくなったら……寂しいって思ってくれる?」
ガチャッと扉を開けた状態で立ち止まったソフィにそう尋ねられた俺は……無言を貫くべきだと考えてんたんだが………気付いた時には口から言葉が漏れ出していた。
「……あぁ……寂しいよ。」
「………ありがとう………」
その言葉がどういった感情から出てきたのかを俺が理解する前に……ソフィは俺の目の前から居なくなってしまうのだった……
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