第13章 親と子と仲間

第349話

 いきなりやって来たソフィのご両親に戸惑いつつも自己紹介を済ませてから2人を家の中に招き入れた後、これから買ってきた食材を使って晩飯を作るんだという事を伝えてみると……


「うふふ、それなら私に作らせてはもらえませんか?突然お邪魔してしまった、そのお詫びも兼ねまして。」


「……それなら私も一緒に作る。」


「あら、あらあらあらあら!ソフィちゃんったらお料理が出来る様になっていたの?それじゃあお手伝いをお願いしちゃおうかしら!」


「うん。」


 ……ってな感じでエプロンを付けてキッチンに並び立って料理を始めた母娘の姿を横目に見ていたガドルさんは、フッと視線を逸らすと俺達の方に視線を送って来た。


「皆さん、改めてになりますがご旅行からお戻りになられたばかりの所に押しかけて来てしまってすみませんでした。」


「あぁいえ、それは別に構いませんよ。それよりもお尋ねしたい事があるんですが、どうしてまた急にこちらの方に?もしかして、ソフィさんに会いに来たんですか?」


「えぇ、実はそうなんです。本当はもっと早くに会いに来たかったんですが、色々と仕事が立て続けに舞い込んで来てしまってそうもいかず……」


「そう言えば、ガドルさんってBランクの闘技場で王者をやりながら国からの仕事も引き受けていらっしゃるんですよね?それは大変ですよね……」


「ふむ、だからと言って娘をほったらかしにするのはどうかと思うぞ。」


「ちょっ、レミ!お前はすぐにそういう事を……すみません。」


「いえいえ、そちらのお嬢さんの言う通りだと思います。会いに来れなかったのは、紛れもない事実ですからね。」


「本当に……ソフィちゃんには寂しい思いをさせちゃってごめんなさいね。」


「……ううん、大丈夫。私には皆が居たから寂しくなかったよ。」


「おやおや、嬉しい事を言ってくれるね。どうもありがとう。」


「ははっ、本当に皆さんとソフィは仲がよろしいんですね。」


「はい!それはもうとっても!」


「あらあら、良かったわねソフィちゃん。」


「……恥ずかしい。」


 ほっこりする2人のやり取りを耳にしながらしばらく雑談をしていたその時、ある疑問が頭の中に浮かび上がって来た俺はそれをガドルさんに尋ねてみる事にした。


「そう言えばガドルさん、さっきお仕事が立て続けにって仰ってましたけどやっぱりそんなに長くは休暇が取れないって感じなんですか?」


「あぁ、それについては大丈夫ですよ。この日の為に幾つかの仕事を前倒しで片付けましたから、しばらくはのんびりと出来るはずです。」


「……えっ、それってもしかして……ぱぱもままも、しばらくトリアルに居るの?」


「うふふ、その通りよソフィちゃん。」


「…………」


「あら、ソフィちゃんどうかしたの?お料理を作る手が………はうっ!?」


「うおっ!?な、何だっ?!」


 静かになったソフィの顔を覗き込んだサラさんがいきなり奇声を上げて崩れ落ちた事に驚いていると……


「うぅ……やっぱりソフィちゃんは私達の自慢の娘ね……可愛すぎるわ……!」


「すみません、どうやら久しぶりに見た娘の笑顔にやられてしまったみたいです。」


「そ、そうみたいですね……」


「まま、大丈夫?」


「え、えぇ……大丈夫よソフィちゃん。心配してくれてありがとうね。」


「うん。無事で良かった。」


「皆さん、お騒がせしてしまってすみませんでした。」


「あぁ……いえ………」


 そんなこんながありながらしばらくして、ソフィとサラさんが作ってくれた料理が目の前に並んだので俺達は手を合わせていただきますを告げてそれらを食べ始めた。


「どうでしょうか?皆さんのお口に合えば良いんですけど……」


「サラさん!とっても美味しいですよ!もう最高です!」


「うん、味付けもバッチリで文句の付けようが無いね。」


「いやぁ、まさかこれ程までとは思わなかったぞ!」


「こら、それはそれで失礼だっての……でも、本当に美味しいですよ。」


「どうもありがとうございます、ソフィちゃんはどうかしら?」


「久しぶりに食べたけど、ままの料理はやっぱり美味しい。」


「あらあら。そんな風に言われると嬉しくなっちゃうわね。」


「ははっ、それは良かったねサラさん……そうだソフィ、君に1つだけ提案しておきたい事があるんだが聞いてもらえるかな。」


「提案?」


「うん。もし良かったらなんだけど、私達がこの街に居る間は同じ宿屋で寝泊まりをしてみないかい?」


「……えっ?」


 ガドルさんから突然そんな提案をされたソフィはポカンとした表情を浮かべたまま固まってしまったが……


「良いじゃないですかソフィさん!これまで会えなかった分、一緒に過ごして素敵な思い出を作って来て下さい!」


「それにお互いに積もる話もあるだろうからね。」


「折角の機会じゃ、わし達には遠慮せずに行ってくるが良い。」


「………分かった、それじゃあ行ってくるね。」


「まぁまぁ、それじゃあ晩御飯を食べ終わったら急いで荷造りをしないと!」


「サラさん、あんまりはしゃぎ過ぎない様にね。」


 それからとんとん拍子に話は進んで行って数時間後、バッグに新しい荷物を詰めたソフィと嬉しそうに微笑んでいるガドルさんとサラさんを見送る為に俺達は玄関までやって来ていた。


「ソフィさん、忘れ物はありませんね!まぁ、あったとしても帰ってくれば良いだけですけどね!」


「ふふっ、それもそうだね。」


「それではなソフィ、楽しんでくるんじゃぞ!」


「うん、行ってきます。」


「はいよ、いってらっしゃい。お2人も、また。」


「えぇ、お邪魔しました。」


「失礼させていただきます。」


 ガドルさんとサラさんが小さく頭を下げながらソフィと共に出て行った後、俺達はそのままリビングまで戻って行くのだった。


「さてと、そんじゃあ後片付けを始めるとしますかね。」


「はい!……でも、何だかちょっと寂しいですね。」


「あぁ、心にぽっかりと穴が開いてしまった気分だよ。」


「いやいや、別にもう会えないって訳じゃ無いんだから……ほら、落ち込んでないでさっさと手を動かせ。」


「もう……ご主人様はソフィさんが居なくなって寂しくないんですか?」


「はぁ……当たり前だろうが……こんな事でいちいち寂しがってられるかっての。」


「ぶぅー……ご主人様は冷たい人ですね!」


「はいはい、そりゃあ悪うござんしたね。」


 たった数日家に居なくなるってだけなのにどんだけ寂しがってんだ……頼むから、ガドルさんとサラさんに迷惑を掛けるのだけは勘弁してくれよな……


 そんな事を考えながらソフィの居ない夜を過ごした俺達は、旅行帰りで疲れている体を休める為に眠りにつくのだった。

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