第337話

 暗雲のせいで外からの光があまり差し込まず薄暗くて荒れ放題になっている城内の光景が視界に入って来た直後、俺は身を低くして冷や汗を流しながら武器の持ち手を強く握りしめた。


「おいおい……この城は封印されていたから誰も入れないはずだろ……それなのに、これはどういう状況なんだよ……!?」


「……考えられる可能性はただ1つ、このモンスター達は鐘の音に誘われて集まって来たのよ。だからこれまで襲われる事は無かった。」


 落ち着いた口調でそう告げた仮面のメイドは目の前に無数と居る敵意を剥き出しにしているモンスターに視線を送ると、両腕をビシッと伸ばし何処からともなく小型のナイフを幾つも取り出して戦闘態勢を取るのだった。


「チッ、その仮説が当たってるとしたらマジで最悪だ……ここら一帯のモンスターをまとめて相手にしなきゃいけねぇって事だからな……!」


「九条さん、文句ばっかり言っていても始まらないわよ。それに……向こうは私達を既に敵として認識しているみたいよ!フッ!」


 仮面のメイドは手に持っていたナイフを素早く投げて飛び掛かって来ていた巨大なトカゲみたいなモンスターの腹部にソレをぶっ刺した瞬間、武器を構えて両足に力を込めた俺は同様に襲い掛かって来た数匹のモンスターに向かって突っ込んでいった!


「オラァ!」


 まず最初に首元に噛みつこうとして来たモンスターの攻撃を上半身を左に反らして躱した俺は、逆手に持ったショートブレードをがら空きになっている胴体を目掛けて突き刺すとそのまま風魔法を使って壁際まで吹き飛ばした!


 そのすぐ後に炎を吐き出そうと大きな口を開けてたモンスターを視界に入れた俺は即座に立ち止まり左手をそいつの方に向けると、眼前に魔方陣を出現させてそこから石の矢を幾つも撃ち出して背後に居たモンスターも合わせて穴だらけにしてやった!


 そこで一息つく間もなく両側面から巨大な爪で地面を削りながら人の姿に似ている獣っぽいモンスターが急接近して来ていたが、そいつらは俺が対処する直前に全身を一瞬で氷漬けにされて跡形もなく砕け散っていった。


「うふふ、油断していたらダメよ九条さん。」


「……別に油断してた訳じゃないが……まぁ、助かったよ。ありがとうな。」


「どういたしまして。それじゃあ、先を急ぎましょうか。」


「あぁ……とは言え、こっから先も中々に苦労しそうだけどな……」


 さっきの戦闘音を聞きつけたのか城の奥に通じている巨大な扉の向こうから次々と集まって来たモンスターを見ながらため息を零した俺は、武器を構え直すと鐘の音を止める為に仮面のメイドと同時に走り出して行った!


「おいっ!この鐘がある場所は何処だか分かるか!?」


「えぇ、ここに足を踏み入れるのは初めてだけれど構造は把握しているわ。この鐘は最上階にある玉座の間を抜けた先にある階段を上った所に設置されているはずよ。」


「あぁもう!やっぱりそんな感じかよ!どうしていっつもこう厄介事の種は高い所にあるんだよっ!しんどすぎて泣いちゃうぞこんにゃろう!」


「あら、それじゃあ私の胸で思う存分泣かせてあげましょうか?」


「ハッ、それだけはお断りだね!また睡眠薬を撃ち込まれたらたまらんからな!」


「うふふ、それは残念……っと、危ないわねぇ。」


「うへぇ……モンスターが一瞬でバラバラになったんですけど……怖っ!」


「ふぅ、失礼しちゃうわね。そこは頼りがいがあるって思って欲しいわ。」


「はっはっは……お前を頼ったら痛い目に遭いそうだなっ!」


 ふぅ、まさかクエストを受けてモンスターと戦ってた事がこんな所で役に立つとは思いもしなかったぜ……経験値を稼いでいたおかげで攻撃パターンも読み切れるし、どのタイミングで反撃すれば良いかも分かるからとりあえずは何とかなりそうだな。


 それにダンジョンとは違ってそこまで入り組んでいる訳じゃ無いから、最上階までこのまま突っ走って行けるからな!


 そう意気込んでから数分後、多種多様なモンスターと戦闘を繰り返しながら階段を上がって行った俺達は目の前に伸びている一本道の長い廊下の入口に立つとチラッと背後を見てモンスターが追いかけて来ていない事を確認した。


「……どうやら安全の確保は出来たみたいだな。」


「えぇ、残るは……」


 ピリッと張り詰めた空気を漂わせながら言葉を途切れさせた仮面のメイドと廊下の奥に見えている古ぼけた巨大な扉を睨みつけた俺は、その先から響いて来る鐘の音を耳にしながらショートブレードを鞘に仕舞い代わりに刀を手にするのだった。


「……行くか。」


「……そうね。」


 互いを見ないまま覚悟を決めた俺達は静かに廊下を進んで行くと、半開きになっている扉の間を通り抜けて玉座の間に足を踏み入れ………た……?


「く、九条さん!?ど、どうして、ここに……」


「貴方は……ジョッシュ……さん?」


 呆然と立ち尽くしてしまった俺を部屋の中で待ち受けていたのは………ドクターの助手を務めている……主人公みたいな男性……ジョッシュさん……だった………え?

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