第261話

 巨大な扉部分で途切れてる光の輪を通り抜けて水神龍の宮殿内部に到着した俺は、エアールを外し首からぶら下げると後から来た皆と共に周囲をザッと見渡してみた。


「ふむ、ここが水神龍の宮殿か……興味を惹かれる所が色々あるダンジョンだね。」


「天井から流れ落ちる滝、足首まで溢れている水、そして広々とした階段とその奥にある巨大な扉………何と言うか、随分と演出過剰なダンジョンだな。」


「あら、そうでしょうか?神様が住んでいると言われている場所なのですから、私としてはもっと派手な感じでも良いと思いますわよ。例えばこの大広間の中心に神様の彫像をドンと置いておくとか!」


「い、いやいや……それは流石にやり過ぎだと思いますよ。」


「あぁ、それにそんな物を置いた所で邪魔にしか無いからのう。」


「っ!?こ、この声はまさか!?」


「……皆、階段の上に誰か居る。」


 突如として部屋の中に響き渡ってきた聞き覚えのある声に驚いていると、ソフィがゆっくりと斜め上を指差したのでその方向にバッと目を向けてみた!


「はっはっは!久しぶりじゃなお主、元気にしておったか?」


「チッ、やっぱりお前か……!」


「こらこら、舌打ちをしながらその様な目つきでわしを見るでないわ。」


 苛立ちながらジッと睨みつけた視線の先では、ローブ姿の女の子がフードを目深に被り口元以外を隠した状態で偉そうに腰に手を当てて仁王立ちをしていやがった!!


「……九条さん、もしかして彼女がそうなのかい?」


「あぁそうだ、アイツが俺に占いと称して予言を与えてきた張本人だよ!」


(え、えぇ?!張本人って……それじゃああの子が!?)


「……神様?」


「か、神様って………あんなに小さい女の子がですか?」


「まさか……本当ですの?」


 周囲から聞こえてくる驚きと戸惑いの声を耳にしながら武器の持ち手を静かに握り閉めた俺は、階段の上に居るローブ姿の何者かに対して警戒心を高めていった。


「さて、俺はお前の占い通りにとある場所に辿り着いたぞ。だからさっさと大いなる相手として正体を現して試練を与えたらどうなんだ?」


「はっはっは、確かにお主達は辿り着いたな……とある場所の近くまで。」


「……は?それはどういう意味だよ。」


「なに、言葉通りの意味じゃよ。残念じゃが、ここはとある場所ではない。」


「おや、それならばその場所とは何処にあるんだい。」


「あぁ、それはじゃな……」


 ローブの女の子が右手を急に天高く掲げパチンと指を鳴らした……その次の瞬間、階段を上がった先にあった扉がバンっと開いてそこから何かが飛び出してきた?!


「ヤ、ヤバい!!全員その場から離れろ!!」


 大声を出したのと同時に後ろの方に無様に転がって行ったその直後、上空から鎧を身にまとった何かが降って来て俺達がさっきまで立ってた所にブレードの様な物を突き刺しやがった!?


「うむうむ、この程度の攻撃はしっかりかわしてもらわんとな!」


「おいコラ!いきなり何をしやがんだ!?」


「はっはっは、そんなに怒るでないわ。きちんとお主達が避けられる様に調節をしてからそやつらに攻撃をさせたのじゃからっと!…………ふぅ、いきなり魔法を撃って来るとは驚いたぞ。」


「……先に仕掛けて来たのはそっち。」


「おや、それもそうじゃったな!すまんすまん!」


 ソフィの撃った無数の氷の槍を軽々とかわして元の場所に着地した何者かは、口元に余裕の笑みを浮かべて俺達を見下ろしていやがった!


「謝って済む問題では無いんだが……もしかして、これが試練の始まりなのかい?」


「いや、これはお主達の力量を知る為のちょっとした余興みたいな物じゃよ。」


「よ、余興って……私達、もう少しで大怪我する所だったんですよ!?」


「そこの貴女、コレは流石に悪趣味がすぎるのではありませんか。」


「はっはっは、じゃがこれでお主達に戦意は出てきたであろう?」


(う、うぅ……あの子、どうして戦闘意欲があんなに溢れてるんですか?!)


(そんなもんこっちが聞きたいわ!ったく、マジで何を考えてんだ!?)


 目の前で身動き1つせずに突っ立っている鎧を着た……水の人形?みたいなものを警戒しながら武器を引き抜いて構えた俺は、剣先を階段の上に居る何者かにビシッと向けてやった!


「お前の目的が何なのかは知らないが、ここまで来たら最後まで付き合ってやる……っていうか、いつの間に俺達が入って来た扉を閉めたんだよ!?」


「はっはっは、お主達が攻撃を避けた瞬間にちょちょっとな。ここまで来たお主達をそう簡単に帰らす訳にはいかんからのう。」


「やれやれ、これで完全に退路は断たれてしまったという訳か。」


「……最初から帰るつもりなんてない。」


「わ、私も全力を尽くします!」


「ロイド様、そして皆様のお役に立つ為にここまで来たのです……なので何もせずに立ち去る訳には参りませんわ!」


 ロイド、ソフィ、リリアさん、ライルさんが武器を構えてそう答えた姿を目にして何故か楽しそうに笑みを浮かべた何者かは……またしてもパチンッと指を鳴らした!


「うむ、それではお主達が占い通りの場所に辿り着けるのを期待しておるぞ。」


「あ、えっ?!お、女の子が地面に吸い込まれてしまいましたよ!?」


「ちょ、言いたい事だけ言って消えるとかどんだけ自分勝手なんだよ?!」


 ってかそこまでやるんだったら正体ぐらい明かしてから居なくなれよ!いや、既に分かり切ってる事だけど本人の口からちゃんと教えて欲しいという欲求がだな!?


「九条さん、今は階段の上よりも目の前に視線を向けてくれるかい。」


「は?何で……って、おいおい!?こいつ等、どうして急に武器を構えてんだ!?」


「どうやらこの鎧達、私達の妨害をする為に存在しているみたいですわね。」


「じゃ、じゃあこの鎧と戦いながら奥に進んで行くって事になるんですか?」


「……とりあえず先手必勝。」


「そ、そうだな!」


 ソフィが動き出したのと同時に鎧との距離を一気に詰めた俺は、ぎこちない動きで振り下ろされたブレードをギリギリの所で避けると頭の部分を斬り落として隣に居た別の鎧に攻撃をしかけてそいつも斬り倒した!


「ふふっ、5体もの鎧を瞬時に倒すだなんて流石は九条さんとソフィだね。」


「くっ、ロイド様に褒められるだなんて……次は負けませんわよ!」


「わ、私だって!」


「……リリアさんとライルさんはどうして俺達に勝負を挑んでるんだ?」


「……さぁ?」


 ソフィと顔を見合わせ揃って首を傾げた俺はとりあえず2階にある扉を目指そうと考えて、倒した鎧の残骸を踏み越えて階段を上がろうとした………その時!上空から別の鎧が飛んで来て俺達をブレードで斬り付けようとしてきた!?


「うおっ?!ま、まだ居たのかよ!?」


(ご、ご主人様!か、階段の上を見て下さい!)


「え?…………マ、マジかよ………!?」


「おやおや、この数は中々に骨が折れそうだね。」


「……ざっと数えて10体以上は居る。」


「い、一体何処からこんなに………って、そんなっ!?」


「先ほど倒した鎧達が……少しずつ復活していますわ!」


 倒しても蘇ってしまう鎧を着た水人形が徐々に増えている現状に顔を引きつらせた俺は、大きく息を吸い込むと頭の中に浮かんだ作戦を大声で叫ぶ事にした!


「全員、シュダールに魔力を込めたら2階にある扉の奥に向かって全力で突っ走れ!こんな数を相手にしてたら試練を受ける前に体力も魔力も尽きちまうぞ!」


「了解した!ライル、援護を頼む!リリアは私と追って来る敵の対処だ!」


「わ、分かりました!」


「お任せくださいロイド様!」


「九条さん、一緒に道を切り開こう。」


「おう!そんじゃあ行くぞ!」


(皆さん!怪我をしない様に気を付けながら頑張ってください!) 


 マホの声援を頭の中に響かせながら復活しつつある鎧をもう一度ぶった斬った俺とソフィは、階段を駆け上がりながら向かって来る鎧達に攻撃を仕掛けて行った!!

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