第252話

「それでは皆さん、今日の内に明日したい事を話し合いましょうか。」


「あぁ、そうだね。」


「うん……」


「……既に限界を迎えていそうなソフィは放っておくとして、お前達はどうして俺の部屋に集まって来るんだ?」


 晩飯を食べて風呂に入りゆっくり休もうと思っていた俺が呆れてる事を隠そうともせずにそう尋ねると、キョトンとした表情のマホが小首を傾げて……


「え?そんなの決まってるじゃないです。ここがおじさんの部屋だからですよ!」


「こ、答えになってないんだが……!?」


「まぁまぁ、それよりもソフィが寝てしまう前に急いで予定を決めようじゃないか。九条さんは何かやりたい事とかはないのかい?」


「やりたい事?うーん……斡旋所でクエストを受けなきゃなとは思ってんだが、海で体力を奪われた翌日にモンスターと戦闘するってのはちょっとしんどいよなぁ。」


「あぁ……おじさん、寝たって疲れが取れない年齢ですもんね。」


「そうそう、この歳になると……って何を言わせんだこの野郎。俺はそこまで回復が遅いって訳じゃねぇよ。今回は海で遊んだのが影響してんだよ。」


「ふふっ、確かに海で体力と魔力を使いすぎてしまった感はあるね。」


「だろ?その証拠に見てみろよ。シュダールとウォーシューターを使って遊んでいたソフィなんてもう寝そうになってんだぞ?」


「……まだ………ねてない………」


「はいはい、そういうのは目が開いてる時に言いなさいね……まぁそんな訳だから、明日はそれぞれが勝手に過ごすって感じで良いんじゃないのか?」


「……じゃあ聞きますけど、おじさんは明日どうやって過ごすつもりなんですか?」


「俺か?そうだな……波の音でも聞きながら、ベッドでゴロゴロしてますよ。」


「えぇ!?そんなの凄く勿体ないじゃないですか!折角クアウォートっていう素敵な街に来ているんですから、別荘でゴロゴロするなんて絶対無しです!」


「いや、でもさぁ…………そんじゃあ、お前達はどう過ごすつもりだったんだ?」


「私は観光です!ほら、昨日の本に載っていた場所を巡ったりして!」


「はっはっは……凄い体力が有り余ってんだな……ロイドは?」


「うーん、そうだね………確認しておきたいんだが、明日はクエストを受ける予定は無いという事で構わないんだね。」


「おう、斡旋所でクエストを受けるのは明後日からにしようと思ってる。」


「ふむ、それならば母さんと一緒に買い物にでも出掛けようかな。」


「カレンさんと?」


「あぁ、父さんは仕事に備えて明日は別荘で過ごす予定らしいからね。」


「なるほど……まぁ、エリオさんも海で疲れてるだろうしな。」


「うん、そんな訳だから明日は母さんと街に行ってみるよ。ソフィは……おやおや、どうやら寝てしまったみたいだね。」


「……すぅ……すぅ………」


 座っていた椅子にもたれる様に眠っているソフィを優しく見守っていたロイドは、肩をすくめながら俺に視線を送って来た。


「……ソフィの予定に関しては、明日の朝に聞けば良いか。」


「ですね……では、今日はもうお開きにしましょうか。」


「あぁ、そうだね。」


 マホと同時に立ち上がったロイドが寝ているソフィをそっと抱え上げたので、俺は足音を立てない様に扉の前に辿り着くと静かに取っ手を捻った。


「ありがとう、九条さん。」


「いや、気にすんな……そんじゃあ、おやすみ。」


「ふふっ、おやすみなさい。九条さん。」


 ソフィをお姫様抱っこしながら去って行ったロイドの後姿を見送っていると、急にわき腹がツンツンと突かれたので顔を下に向けてみると…‥


「……おじさん、もし良かったら明日は私と観光に行きませんか?実は行ってみたいお店があるんですよ。」


「……一応、考えといてやる。」


「えへへ、それじゃあ楽しみにしてますね。おやすみなさい、おじさん。」


 ……嬉しそうに微笑みながら部屋に入って行ったマホを確認して扉を閉めた俺は、大きく伸びをしてからベッドにダイブしてそのまま意識を手放すのだった。

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