第242話

「まったく、これからは気を付けて下さいね!」


「はい……本当にすみませんでした………」


 砂浜の上に正座をさせられた状態で他所の奥さんをいやらし目で見たらいけないと何とも情けない説教を受けていた俺は、腰に手を当て立ってるマホに向かって静かに頭を下げるのだった……


「分かれば良いんです!……皆さん、お待たせしました!」


「ふふっ、もう良いのかい?」


「はい!言いたい事は全て伝えましたし、おじさんもシッカリ反省してるみたいですからね!それに折角の海なのに時間が勿体無いじゃないですか!」


「……そう思ってたなら、別に説教はしなくても良かったのでは?」


「いえ!私がスッキリする為に必要な事でしたからね!」


「あ、そうですか……」


 まさかそんな理由で説教されていたとはな……まぁ、俺に非が無い訳じゃないから文句は言えねぇけどさ……でも、アムルさんが来てた水着に関してはぶっちゃけ俺は悪くないと思うんですけどね!だってアレはマジで……うん、最高でしたね!


「それでは皆様!そろそろ海へ参りましょうか!……あ、あぁ!その前にロイド様?日焼け止めはお塗りになりましたか?もしまだでしたらこの私が!」


「リ、リリアさん!?あ、その、ロイドさん!ご迷惑でなければ私が!」


「おやおや、それは嬉しい申し出だけど………」


 2人の申し出を聞いて困った様に微笑んだロイドは……何故かこっちに視線を?!ぐっ!今度はその手で来るつもりか!良いだろう、そっちがその気なら!


「あ、悪い!ちょ、ちょっと待ってくれ!その前に皆に見せとかなきゃいけない物があるんだよ!」


 大声を出して無理やり会話を中断させた俺はテーブルの下に置いてあったケースを引っ張り出すと、それを皆に見せる様にして近くにあった椅子の上に乗せた。


「おじさん、それは?」


「えっと、さっき聞いた話では海で遊ぶ為の物が色々と入ってるらしいぞ。」


「えっ、そうなんですか!?あの、中を見ても良いですか!」


「お、おう!俺も興味あるしな!」


 目をキラキラさせながらケースの蓋を開けたマホと一緒に中を覗き込んでみると、そこには見覚えのある様な……だけどちょっと違う感じの物が幾つか入っていた。


「うわぁ!どれも初めて見る物ばっかりです!」


「そうかそうか!どうだ、何か気になる物はあったか?」


「えっとですね………あ、コレって何なんでしょうか!」


「あぁ!それは……え、何なんだ?」


 見た目はデカい水鉄砲って感じだけど明らかに作りが凝り過ぎている様な気が……うーん、マジでどういう代物なのか分からねぇんだが。


「……九条さん、コレが説明書みたい。」


「うおっ?!ビ、ビックリした……って、説明書?」


 いつの間にか真横に立ってたソフィに驚きながらも手渡された薄っぺらい紙の表紙にはマホが持ってる何かの絵が描かれていたので、俺は何気なくその中に目を通してみたんだが……


「おじさん!何て書いてあるんですか?」


「えーっと……まずそれの名称だが、ウォーシューターって物らしいぞ。」


「へぇ、それでどうやって使うんですか?」


「それはだな………よしっ、ちょっと貸してみろ。」


「あ、はい!分かりました!」


 マホが持っていたウォーシューターを預かった俺は魔法を使って水を補給すると、トリガーの近くにある小さなレバーと周囲に人が居ない事を確認してから銃口を海の方に向けて魔力を込めながら引き金を引いてみた!


「うわぁ!お水が凄い勢いで出てきましたね!」


「お、おう!そうだな!」


 普通の水鉄砲では考えられないレベルの水が連続して発射されてくのを見て慎重に引き金から指を離した俺は、バクバクと動く心臓を落ち着けながら息を整えていた。


「ふむ、どうやら込められた魔力の量に応じて勢いが変わる仕組みの様だね。」


「あぁ、それにも限度があるみたいだけどな。さっき撃ちながら魔力を増やしてみたんだが、あれ以上の飛距離は出なかったからな。」


「まぁ、威力が強すぎても危ないですからね。あ、ちょっと貸して下さい!」


「はいよ、気を付けて使えよ。」


「はーい!……えい、えい!」


「あ、おい?!いきなり撃って来るなっての!こら!」


「えへへ!さぁ、またまた反省するが良いですよ!」


「ちょ、さっきスッキリしたって言ったのにまたぶり返すのかよ?!」


「ふふっ、どうやらウォーシューターの数はまだまだあるみたいだねぇ……」


「……うん、ここに居る人数分はあるらしい。」


「そ、そうなんですのね!そ、それでは早速!ロ、ロイド様が水に濡れて行く姿を、シッカリとカメラに……!ライルさん!」


「はい!任せて下さい!」


「おや、これはこれは……少々マズイ展開になってしまったのか?」


「ロイド、手を貸す。」


「おっ、ありがとうソフィ。頼りにしているよ。」


「ほらほら!逃げてばっかりじゃ濡れてく一方ですよ!」


「いや、そう言うなら俺にもそれを手にするチャンスをくれませんかねぇ?!」


 背中に日焼け止めを………的なイベントから逃れる為に始めた事だったのに何故か今度は水から逃げる事になってしまった俺は、海辺の方で楽しそうにはしゃいでいる美少女達を遠目に見ながら反撃の隙をうかがっているのだった。

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