第240話

「おぉ!こうやって間近で見るとやっぱ凄い所だな!」


「はい!白い砂浜に青い海!キラキラしていてとっても素敵ですね!」


 別荘を出発してから数十分後、何台もの馬車に続いて海水浴場近くにある停車場に降り立った俺は目の前に広がる光景を見ながらマホと一緒に思わず興奮をしていた!


 だって俺の記憶に残っている海なんて濁っていて足元なんてまともに見れないし、砂浜だって真っ白じゃなくて茶色だぞ!?そりゃテンションも上がるっての!


「おや、九条さんがマホと同じぐらい興奮しているだなんて珍しいね。」


「あぁ、こんなに綺麗な海は初めて見たからな!流石にちょっと感動したぞ!」


「私もです!エリオさん、カレンさん、今回は本当にありがとうございます!」


「いえいえ、九条さんとマホちゃんが喜んでくれているなら何よりですよ。」


「……早く泳ぎたい。」


「ふふっ、どうやらソフィも海を見てうずうずしていたみたいだね。」


「うむ、そうなのであれば………」


 小さく頷いたエリオさんが振り返ったので同じ様に後ろの方を向いてみると、少し離れた所からディオスさん達とファーレスさん達が向かって来る姿が見えた。


「がっはっは!悪いな、ちょっと待たせちまったか!」


「すみません、荷物を降ろすのに少し手間取ってしまいました。」


「いや、それほど待ってはいないよ……それでは早速だが、更衣室に向かい着替えを済ませるとしようか。」


「おぅ!折角ここまで来たってのに、何時までもここでくっちゃべってたら海に入る時間が無くなっちまうぜ!」


「おっほっほっほ!この日の為に用意させた特注の水着を皆様にお披露目する瞬間がいよいよ訪れた様ですわね!さぁ皆さん!更衣室に急ぎますわよ!」


 高らかに笑い声をあげて横長の建物の方に向かって行ったアムルさんに続き、他の女性陣もその後を追いかけて行ったんだが…………アレってマジで何の建物なんだ?さっきから気になってたんだけど、聞きそびれちまったんだよなぁ……


「九条さん、彼女達が向かったのは女性用の更衣所ですよ。僕達男性陣は、反対側に見えているあの建物の中で着替えるんです。」


「あっ、そうなんですか?すみません、わざわざ教えて頂いて……」


「いえいえ、他にも分からない事があったら気軽に聞いて下さいね。」


「はい、ありがとうございます。」


「がっはっはっは!それじゃあ俺達もさっさと着替えちまおうぜ!」


 肩に背負っていたバッグを担ぎ直したディオスさんを先頭に更衣所に歩いて行った俺は、建物の中に入ってすぐに周囲を見回して驚きの声を上げていた………


「うわぁ………なんじゃここは………」


 右側には海水を洗い流す為の専用のスペースがシッカリと区切られていて……左側には同じ様な更衣室がズラッと並んでいて……え、ちょっマジ?他人に裸を見られる心配をしなくても良いとか最高じゃねぇかよ……!


「それではまた後で。」


「は、はい!」


 空いている更衣室を探しに行った3人の姿を見送った俺は、静かにガッツポーズをしてからその後を追って建物の奥に向かって行った。


 そしてカーテンの開いている所を見つけて中に入ると、持っていたバッグの中から水着を取り出して着替えを始めた。


「いやぁ……こうして水着を着るなんて何年ぶりだろうな………………ん、水着?」


 あれ、何かとても大事な事を忘れている様な気が…………………は、はうあっ?!ヤ、ヤバい!!!すっかり忘れてたああああああああああ?!!!?!?!!


「ど、どうすんだよ……!水着って……女子の水着って!……あ、ちょっと待てよ?確かアムルさんも………え、あ、え?」


 ど、どうしよう!これから俺、人妻の水着を見る事になるのか?え、大丈夫なの?しかも1人じゃないよ?3人だよ?しかも、その人達の娘さんも水着でくるんだよ?しかも親父さんが近くにいるよ?え、本当に大丈夫?俺、ここから生きて帰れるの?


 天国と地獄が一気に襲い掛かってくる様な予感がしてしまった俺は、しばらくの間フリーズしたまま思考をグルグルと回転させ続けるのだった……

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