第235話

「「「「「ロイド様、マホ様、ソフィ様、九条様、お帰りなさいませ。」」」」」


「お、おぉ……おぉう………おおぉう………!」


「ちょ、ちょっとおじさん!興奮しながら息を荒げないで下さい!このヘンタイ!」


「こ、こら!大きな声でそんな事を言うんじゃない!誤解されちゃうだろうが!」


「ふんっ!さっきからメイドさん達の事をジロジロ見てるじゃないですか!説得力がありませんよ!」


「い、いやそれは……だってしょうがないだろ!?」


 別荘に入る為に玄関を開けたら夏服仕様のメイド服を着ている美少女達が出迎えてくれたんだぞ?!そんな天国の様な状況を目の当たりにして胸が高鳴らない訳が無いだろうが!この歳になるまで妄想ばかりしていたおっさんを舐めんじゃねぇ!


 ……って、こんなのメイドさん達を前にして言えるか!流石に恥ずかしすぎるわ!ってか俺の思考をある程度は読めるんだからちょっとぐらい察してくれよ!!

 

「ほら2人共、父さんと母さんが待っているから早く中に入ろうじゃないか。」


「それに急いで荷物整理を終わらせないとリリアとライルが迎えに来る。」


「そ、そうだぞマホ!こんな所で良い争いをしている場合では無いのだ!」


「むぅ!確かにそうですけど、そもそもの原因はおじさんがメイドさん達を見ながら興奮してたからじゃないですか!」


「だ、だからそういう言い方は止めなさい!これからしばらくお世話になるってのに変な誤解をされたらどうするんだ!あ、あの!本当に違いますよ!俺は皆さんの事をいやらしいで目で見たつもりは一切ありませんから!」


 そっぽを向いてぷんぷんしているマホをなだめながらメイドさん達の方を見ると、その中でも一番年上……って言ってもまだまだ若いお姉さんがニコっと微笑みながら一歩前に出て来て小さくお辞儀をしてくれた。


「九条様、私達をどの様な目でご覧になっていても問題ありなせんよ。ただ無理やり手を出す様な事はなさらないで下さいね。」


「あ、当たり前じゃないですか!そもそも、どんな目でも見てませんからね!?」


「あら、そうなんですか?何だかとても熱い視線を送れた様な気がしたのですが。」


「そ、それはきっと勘違いですって!それよりもエリオさんとカレンさんにご挨拶をしたいので何処に居るのか教えて貰えますかね!?」


「かしこまりました、ご当主様と奥様はリビングで皆様の事をお待ちしております。ご案内を致しますので私の後について来て下さいね。貴方達は持ち場に戻って仕事に取り掛かって下さい。」


「「「「かしこまりました。」」」」


 綺麗に揃ったお辞儀を見せたメイドさん達が俺達の前からいなくなった直後、その指示を出したお姉さんは俺達に背を向けて静かに別荘の奥に向かって歩き始めた。


「さてと、それじゃあ私達も行くとしようか。」


「お、おう……なぁロイド、あのメイドさんって何者なんだ?」


「あぁ、彼女はこの屋敷の管理を任されているメイド長だよ。」


「な、なるほど………だから他のメイドさんに指示を出していた訳か……」


 ロイドの言葉を聞いて納得しながら苦笑いを浮かべていると、いつの間にか機嫌が直っていたっぽいマホが俺の事を見ながら小さくため息を零した。


「おじさん、これからメイドさんを見る時は気を付けて下さいね。そうしないとあのメイド長さんにまたからかわれますよ。」


「だ、だから変な目で見てねぇっての!まぁ、後半の部分は同意するけどさ……」


 さっきのやり取りを思い出してガクッとうつ向いた俺は、手にしている荷物を持ち直すと皆と一緒にメイドさんの後を追いかけて行くのだった。


「皆様、こちらがリビングとなります。どうぞ中へお入りください。」


「ありがとう、ここまで案内してくれて助かったよ。」


「いえ、それでは私は此方で失礼させて頂きます。」


 丁寧なお辞儀をしてから歩いて来た道を戻って行ったメイド長さんを見送った後、俺達は目の前の扉を開けてリビングの中に入って行ったのだが……うん、思った通りメチャクチャ綺麗で広いですね!やっぱり貴族が使う別荘は格が違うぜ!


「皆さん、お待ちしていましたよ。」


「うふふ、外は暑かったですよね。すぐにお飲み物をご用意致します。」


「あ、いえ!お構いなく!」


 ソファーから立ち上がろうとしたカレンさんを手で制止していると、隣に立ってたロイドが一足先に2人に近寄って行った。


「父さん、すまないが私達が利用する部屋に案内して貰っても良いかな。」


「あぁ、それは構わないがそんなに急いでどうかしたのか?」


「実はさっきリリアとライルからお誘いを受けてね。彼女達がここに向かえ来る前に荷物整理を終わらせておきたいんだ。」


「ふむ、そう言う事だったのか。分かった、すぐに案内させよう。」


 エリオさんはそう言うと目の前のテーブルに置かれてたガラス製のベルの様な物をチリンチリンと鳴らし始めた……その時、俺達が入って来た扉がガチャッと開かれて数人のメイドさんが姿を現した。


「諸君、すまないがロイド達を部屋に案内してもらえるだろうか。」


「「「かしこまりました。」」」


「……あ、ちょっと待ってくれ。部屋に行く前に言っておく事があるんだ。」


「はい?どうかしたんですか。」


「えっとだな、俺はちょっと寄る所があるから皆とは別行動をさせて貰うな。」


「……は?え、ど、どういう事ですか?寄る所?」


「あぁ、だから俺の事は気にせず楽しんできてくれ。」


「い、いやそんな事を急に言われても!そもそも何処に行くつもりなんですか?」


「観光案内所とクエスト斡旋所だよ。ほら、まだマップとか貰ってないだろ?それと頼まれてる素材を集められそうなクエストを探しつつ忘れない内に冒険者登録をしておこうと思ってな。」


「……目当てのクエストがあったら受けるの?」


「いや、まだ日数に余裕があるから受けはしないけど確認はしておきたいんだよ。」


「ふむ……そう言う事ならば了解した。リリア達には私から事情を話しておくよ。」


「あぁ、よろしくな。」


「むぅ……折角ならおじさんとも一緒にクアウォートを見て回りたかったです。」


「それは明日からだな……よしっ、それじゃあパッパと荷物整理をしちまうか。」


  ……それからメイドさん達に案内されて客間のある2階までやって来た俺達は、リゾート地にあるホテルさながらの室内を見て驚きの声を上げながら荷物を整理して暗くなる前に帰って来る事を決めてから別荘を出て行くのだった。

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