第224話

 夕暮れ時になって戻って来たエリオさん達から晩飯を食べに行かないかとお誘いを受けた俺達は、宿屋の近くにあるファミレスっぽい外観の飲食店に足を運んでいた。


「さぁ、遠慮せずにどれでも好きな物を頼めよ!今日は俺達の奢りだからな!」


「あぁいや、そんな悪いですよ!」


「がっはっは!気にするなっての!これはお詫びの意味もあるんだからよ!」


「わ、詫びですか?え、それってどういう……」


 ディオスさんの発言の意味が分からずエリオさんの方を見てみると、何故だか凄く申し訳なさそうな表情を浮かべながら小さく頭を下げてきた。


「非常に申し訳ないのですが……明日の朝にトリアルに戻る事になりました。」


「………へッ?」


「ちゅ、中止って一体どうしてなんですか?!」


「……突然そんな事を言われても困惑する。」


 俺とマホとソフィは突然の事態に戸惑っていたのだが……どうやら他の人達は何があったのか聞いてたらしい……驚いたりって反応を全くしてないからな。


「……ソフィ、何があったのか知ってるのか?」


「あぁ、母さんと一緒に居る時に聞かせて貰ったんだ。」


「そうなのか……じゃあ教えてくれ、どうして急にそんな事になったんだ?」


「……トリアルに戻る事になった事情は、私達が知った情報に関係しているよ。」


「俺達が知った情報……?」


「……あっ、もしかして!」


「……そう言う事?」


 同時に何か感づいたマホとソフィと目を合わせていたロイドが静かに頷いた直後、俺の頭の中にも恐らくだが同じ事が思い浮かんできた。


「……トリアルに戻るの事になった原因って、畑が荒らされてるってあの一件か?」


「あぁその通り、3人共正解だよ。」


「いや正解って……ちょっと待ってくれよ!さっき俺達は畑の近くで……」


「そうですよ!あの人達の代わりにクアウォートでクエストを出すっていう事で話がまとまったじゃないですか!」


「あぁ、やはりその提案をしたのは皆さんだったんですね。」


「え、やはりって言うのは……」


「実は少し前の事になるんですけど、農家の方達が村長さんに会いに来てクエストを依頼する為の手紙を書いて欲しいと頼みに来たんですよ。親切な旅の方達が自分達の代わりにクアウォートの斡旋所に行ってくれるからと言って。」


「その話を聞いた時に、皆さんがその親切な方達なのではないかと思ったんです。」


「な、なるほど……」


 エリオさんとファーレスさんの話を聞いて小さく頷いてると、隣に座ってたマホが急に目の前のテーブルを両手を置いて身を乗り出し始めた。


「あの!確かに私達はそんな提案をしましたけど、それだけではダメって事になったからトリアルに戻る事になったんですか?」


「……そう言えば、その事については具体的な説明を私も聞いていないな。」


「……そうなのか?」


「確かに、私も詳しくは聞いていませんでしたわね。」


「私もです……あの、畑が荒らされている事を解決したいのなら九条さん達が先ほどから提案している通りクエストを頼むという事でも良いんじゃないでしょうか?」


「がっはっはっ!確かに畑を荒らす奴がモンスターだって言うならクエストを頼めばそれで済む話なんだけどな!」


「……え?」


「まぁ、それってもしかして……」


「畑を荒らしているのは……モンスターではないって事なの?」


「……あくまで可能性の話だけどね。」


 リタさんにそう聞かれて困った様に微笑んだファーレスさんはチラッとエリオさんと目を合わせると、静かにため息を吐き出して右手で口元を隠した。


「宿に戻る前に被害に遭った畑を調べてみたんだが……どうにも奇妙でね。」


「奇妙って……どういう事なの?」


「それがね、畑に残っていた足跡は確かにモンスターの物に見えるんだけど……」


「そこに人の足跡が混じっていたんですよ。」


「ひ、人の足跡?」


「父さん、それは本当なのかい?」


「あぁ、そこまで詳しく調べたという訳じゃ無いから何とも言えないが……」


「エリオとファーレスのさっき調べた所によると、まず間違いないらしいぜ!」


「あらあら、それじゃあモンスターが畑を荒らした後に誰かが侵入したって事になるのかしらね。」


「まだ確証は無いがね……それを明らかにする為にも、一度トリアルに戻って色々と手配をする必要があるという事なんだ。」


「……そう…なんですか……」


 何ともはた迷惑な連中のせいで旅行が中止になってしまったのだと分かり、周囲に重苦しい空気が漂い始めてきた瞬間……


「あーあー!こんな時にどっかの誰かがバッと事件を解決してくれたらわざわざ戻る必要も無いってのにな!」


「ディオス、そんな非現実的な事を言っても仕方がないでしょう。」


「けどよぉ!家族で行く折角のバカンスがどっかのバカのせいで無くなるとか悔しいじゃねぇかよ!なぁ!」


「えぇ、まったくですわ!折角リリアさんに似合う水着を買い揃えたと言うのに!!きぃー!」


「お、お母様落ち着いて下さい!……ですが、確かに悔しいですわね。ロイド様達と一緒にご旅行が出来る機会なんてそうそうありませんもの。」


「はい、本当に……残念で仕方ありません…‥」


「ライルちゃん、張り切って水着を選んでたからね。」


「ふふっ、確かにそうだね。私も皆の素敵な水着姿を拝んでみたかったよ。」


「そ、そんな、素敵だなんて……それにそんな事を言うならロイドさんの……」


「きぃー!そうですわね!私もロイド様の麗しい水着姿を是非とも拝見してこの日の為に買ってきた最新式のカメラでもう撮影しまくりたかったですのに!!」


「おやおや、それは危ない所だったかな。それにしても残念だったね九条さん。」


「は、え?何が?」


「私達の水着姿、九条さんも見たかっただろう?」


「あ、へ?な、ばっ、バカな事を言うんじゃないよ!だ、誰がそんな事を!」


「……おじさん、態度に全部出ちゃってますよ。」


「……見たいなら家の中で見せてあげようか?」


「そんなのダメに決まってるでしょうが!って言うか、水着姿を拝んでみたいなんて俺は一言も!」


「おや、九条さんはロイド達の水着姿には興味が無いと?」


「おいおいそれはねぇだろ!こんなに綺麗で可愛らしいってのによぉ!」


「えぇ、私もライルの可愛さに魅力を感じない等の発言は認められませんね。」


「い、いや!そういう事じゃ無くて!」


 そんなやり取りの後、いい加減に注文して下さいと怒りに来た店員さんのおかげで何とか助かったのだが………晩飯を食べ終わって宿に戻ってからも俺の心の中にあるモヤモヤが消える事は無かった。

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