第222話

 エリオさんと別れてから数分もせずに目的の宿屋の前に辿り着いた俺達は、預けていた荷物を手にして改めて馬車の近くに集まっていたんだが……


「おーっほっほっほ!さぁ皆さん、頑張って荷物を運び込んでくださいな!」


「「「「へい!」」」」


 到着したと思ったらすぐにアムルさんの高笑いが聞こえてきて、その直後の大量の荷物を抱えた男達が宿屋の中にぞろぞろと入って行く姿が視界に入ってきた。


「……何と言うか、ちょっと尊敬するレベルだなあの我が道を行く感じは。」


「ですね……でも大丈夫なんでしょうか?他のお客さんから文句を言われたり……」


「うふふ、安心して下さいマホさん。本日はこちらの宿屋を貸し切っていますから、どれだけ騒いでも問題ありませんよ。」


「あぁ、そうなんですか……って、えっ!?貸し切り!?本当ですか?!」


「はい。今回のバカンスに同行して頂いた方達の泊まる場所を確保する為に、無理を言って貸し切りにして貰ったんです。」


「な、なるほど……じゃあ大丈夫……なんですかね?」


「……さぁ、俺に聞かれても困るっての。」


「ふふっ、リリアさんが一緒だから大丈夫だと思うよ。それより私達も宿屋に入ろうじゃないか。」


「うん、ずっと座ってたから早く村の中を歩き回りたい。」


「はぁ……俺にはそんな元気は無いからさっさと休みたいよ……」


「あらあら、そういう事でしたら急いで行きましょうか。」


 上品に微笑んだカレンさんの後に続く形で宿屋の中に入って行くと、すぐに受付の所に居た優しそうな笑みを浮かべたおじさんがこっちに向かって歩いて来た。


「これはこれは、お久しぶりでございますカレン様。」


「えぇ、お久しぶりです。お元気でしたか?」


「はい、おかげ様で……ところでカレン様、お連れの方々はもしや……」


「うふふ、私の娘とそのお仲間の方々です。」


「おや、やはりそうでしたか。どうも初めまして、本日はトリアルからお越し下さりありがとうございます。」


「あぁ、どうもです。」


「長旅でお疲れでござますよね。すぐにお部屋の鍵をご用意致しますので、お名前を呼ばれた方は受付までお越し下さい。」


 おじさんは俺達に向かって深々と丁寧なお辞儀をしすると、少しだけ早足になって受付まで戻って行った。


「母さん、さっきの方が久しぶりって言ってたけど前にも会った事があるのかい?」


「えぇ。エリオさんのお仕事に付き添ってクアウォートに行く際に、何度かこちらの宿屋に泊まらせて貰っていたの。それとロイドちゃんも幼い頃に1度だけあった事があるのよ。覚えてないと思うけれどね。」


「あぁ、残念ながら私の記憶に無かったね。」


「うふふ、それじゃあ後で改めて自己紹介をしないといけないわね。」


「確かにこれから先、お世話になる機会があるかもしれないからね。」


「……それでは準備が出来ましたので、お名前を呼ばせて頂きます。」


 2人の会話が終わったタイミングを見計らって声をかけてきたおじさんに呼ばれた俺達は、受付で鍵を受け取るとすぐ近くにあった案内板で自分の部屋の場所を確認をしてみた。


「どうやら俺達の部屋は3階にあるみたいだな。」


「そして母さん達の部屋は揃って4階になってるのか。」


「えぇ、そして警備や御者の方達は2階の部屋を使って貰う事になっているの。」


「なるほど!それなら分かりやすいですね!それに同じ階に居るのが知っている方達だけなら、そこまで気を遣う必要も無さそうですからね!」


「あぁそうだな………って、あれ?ちょっと待てよ………」


 2階には警護や御者の人達……4階にはロイド達のご両親……そして3階には俺とその仲間達と………うぇっ!?!?!


「九条さん、どうかしたの?」


「い、いやいやちょっと待って下さい!流石にこれはマズくないですか?!」


「あら、何か問題がありましたか?」


「そりゃありますよ!だって3階って俺以外は女の子しかいないじゃないですか!」


「……あっ、確かにそうですね!」


「だろ!?だからちょっと部屋の場所を変えてもらったりとか……」


「あらあら、残念ですがそれは出来ないんですよ。」


「ど、どうしてですか!?」


「それがですね……2階の部屋は既に満室ですし、4階は空き部屋が残っていないんですよ。」


「いやそんなバカな!?だって外から見た感じ、4階にも結構な数の部屋がありましたよね?!」


「申し訳ございません。カレン様達がご利用しているお部屋以外は大掃除中ですのでお客様にお貸し出来る状態では無いのです。」


「何故っ?!」


「うふふ、そう言う訳ですので九条さんは3階のお部屋をご利用くださいね。」


「で、でも……」


「あらあら、そんなに動揺するという事はどなたかのお部屋に忍び込むおつもりなんですか?」


「は、へ?!そ、そんな事する訳がないじゃないですか!」


「でしたら何も問題ありませんよね?」


「あ、いや……でもほらっ!ディオスさんやファーレスさんが娘さんと同じ階に男が居るのを許せないとかって言うかもしれませんし!」


「おーっほっほっほ!それについては問題ありませんわ!」


「えぇ?!いつの間に背後に!?」


 聞こえてきた声に反応して振り返ってみると、手の甲を口元に当て高笑いをしてるアムルさんとその隣で申し訳なさそうにしているリリアさんの姿が!しかもその横にライルさんとリタさんまで?!


「リリアから九条さんはとても誠実な方なので何も心配はいらないと言われておりますので、どうぞ思う存分ご自分のお部屋でおくつろぎ下さい!」


「ライルからも同じ様に聞いていますので、どうぞお気になさらず。」


「あ……えぇ………」


 2人の言葉に頭が真っ白になっているといつの間にか両隣にやって来ていたマホとロイドが肩と腕をポンポンと優しく叩いてきて……


「九条さん、もう逃げられないんだから諦めようか。」


「おじさん、覚悟を決めて下さい。」


「………マジかよ。」


 美少女が大集結している階に泊まるってだけで心臓がバクバクしてる俺に向かって憐みの目を向けてみたマホはまだ良い!ただ問題なのは……不敵な笑みを浮かべてるロイドの方なんだよ!


 寝る時になったら絶対に部屋の鍵をかけ忘れない様に心に誓いながら手にした鍵を強く握りしめた俺は、物凄い不安を抱えながら皆と3階まで上がっていくのだった。

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