第214話

「はぁ………分かってた事だけど、やっぱ採集クエストってやる事が地味だな。」


「まぁ、同じ作業の繰り返しだから仕方ない部分ではあるね。」


「だよなぁ………うん、そろそろいい頃合いだし休憩にするか。」


「えっ、もうですか?まだ1時間ぐらいしか経ってませんけど。」


「そんだけやってたら充分だろ、それにずっと屈んでたせいでさっきから腰が微妙に痛くなってきたんだよ。無理は禁物ってな。」


 俺は両手に付いた土を落としながら立ち上がると、腰を軽く叩きながらすぐ近くにあった切り株に腰を下ろして一息ついた。


「まったくもう……これぐらいで疲れるなんて、もう歳なんですかね?」


「おい、呆れた感じでこっちを見ながら俺の心を傷つけるんじゃない。ガラスの様に繊細な作りをしていると何度言えば分かるんだ。」


「はいはい、失礼しました。」


「ま、まったく心が感じられないだと……!?」


 軽い感じでサラッと謝罪してきたマホに驚くフリをしながら空中に魔方陣を出して手を洗った俺は、そのまま人差し指を口に入れていつもの様に水を飲み喉を潤した。


「……ふぅ、とりあえずこれで4割ぐらい集まったって感じだよな?」


「はい。残りもこの辺りで採取していればすぐに終わると思いますよ!」


「そうか……にしても、こういう時に魔法が活用出来ないってのは案外厳しいな。」


「ふふっ、確かに魔法を使えばこの辺りの植物を一気に刈り取る事なんて造作も無いだろうね。だけど……」


「そう言う訳にもいかないですよね。しっかり根っ子から採らないと効果が半減するってクエストの説明書きにありましたから。」


「あぁ、まさかそんな理由があるなんて…………マジで面倒だよな。」


「それじゃあどうします?素材屋さんに行って加工に必要な数は買いますか?」


「いや、それは無いなぁ……タダで手に入る物に金を払うつもりは無いし、そもそも素材屋の商品ってかなり高いんだよ。無駄遣いは良くない。」


「まぁ、ご主人様ならそう言うと思ってましたけどね。」


「じゃあ何で聞いたし……」


「一応、確認しておこうかと。」


「そうですか……」


 何故か満足そうにドヤ顔をしているマホを見つめながら苦笑いを浮かべていると、ソフィがスッと立ち上がって森の奥の方をジッと見つめ出した。


「ソフィ、どうかしたのか?」


「……九条さん、ちょっと辺りを散策してきても良い?」


「え、別に構わねぇけど……何でだ?」


「討伐クエストのモンスターを探してくる。この辺りに縄張りがあるから。」


「あぁ、そう言えばそうだったな……分かった、気を付けて行って来いよ。危険だと思ったらすぐに戻るんだぞ。」


「うん、じゃあいってきます。」


 ソフィはこれまでの疲れなど微塵も感じさせない軽い足取りで森の奥の方に歩いて行った……その姿を見送っていると、マホがこっちに近寄って来た。


「ご主人様、ソフィさんを1人で行かせても大丈夫なんですか?」


「まぁ大丈夫だろ。ここら辺に出現するモンスター相手にソフィが後れを取るなんて思えないし、そもそも討伐対象自体が弱い部類の奴だからな。」


「……それ、フラグになりませんか?」


「……そうならない様に祈っておけ。」


「えぇ……そう言われると物凄く不安になるんですけど……」


「……まぁ、フラグが成立しちまったら頑張って何とかするさ。」


「それなら良いんですけど………あっ、ちょっと横にズレて下さい。」


「はいよ。」


 マホは小声でよいしょと言いながら俺の隣に座ると、ふぅっと息を吐き出しながら空を見上げて足をプラプラさせ始めた……その姿を横目で見ていたその時、ちょっとした疑問が思い浮かんだ俺は木に寄りかかりながら休んでいたロイドに目を向けた。


「なぁロイド、ちょっと聞きたい事があるんだけど良いか?」


「ん?……別に構わないが、どうかしたのかい。」


「いやさ、クアウォートの街に行くのって馬車で行くんだよな?」


「あぁそうだよ。徒歩で行くとなると最低でも2日は必要だからね。」


「だよな………その馬車ってさ、いつも予約して乗ってるあの馬車なのか?」


 ロイドは俺の質問を聞いた後にしばらくキョトンとした表情をすると、何かを納得したのか小さく頷いてニコっと微笑みだした。


「そう言えば九条さんにはまだ説明していなかったね。今回の旅行で私達が利用する馬車は、いつも予約して使っているあの馬車ではないんだよ。」


「薄々そんな気はしてたけどやっぱりか……マホはその事を知ってたのか?」


「はい!バカンスの事を教えて貰った時にロイドさんから聞きました!」


「なるほどね……でも何で予約して乗る馬車じゃないんだ?やっぱりアレか、庶民の人と一緒に乗るのは危ない的な感じか。」


「うーん、理由としては近いが少し違うかな。父さんと母さんと一緒の馬車に乗った人達が危険な目に遭わない様にする為に予約制の馬車は避けているんだよ。この街を治めている貴族の1人だから、色々と危険な事も多いからね。」


「………それじゃあ結局の所、俺達が乗る馬車ってどんなのなんだ?」


「ふふっ、簡単に言ってしまえば父が保有している旅行用の大型馬車さ。」


「大型馬車?」


「あぁ、どんな馬車なのかは当日までのお楽しみと言う事で。」


「それはそれは……また1つ、楽しみが増えたな。」


「はい!私なんかずっとワクワクしっぱなしですよご主人様!」


「ははっ、見りゃ分かるっての。」


 目をキラキラさせながら興奮しているマホを横目で見ていたその時、木々の間からソフィが姿を現して俺達の元に戻って来た。


「おっ、おかえり。」


「ただいま。何を話してたの?」


「いやほら、俺達が乗る馬車について色々とな。」


「そう。」


「ソフィさんお帰りなさい!かなり早く戻って来ましたけど、討伐するモンスターは見つからなかったんですか?」


「ううん、もう倒してきた。」


「……‥えっ!?倒して来たって……もう?!」


「うん。ぶい。」


「ふふっ、流石はソフィだね。仕事が早い。」


「いや、早すぎだろ……え、じゃあ討伐クエストは……」


「終わった。納品も済ませておいた。」


「………ご主人様、そろそろ採取を再開しましょうか。」


「………だな。」


 俺とマホはスッと立ち上がって入れ替わる様にソフィを切り株に座らせると、袖をくり気合を入れて採取クエストに取り掛かるのだった!

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