第202話
……あれ………いつの間に眠ってたんだ………ってか……え……どうなってんだ?さっきまでリビングにいたはずなのに…………それなのに………ここは………
「………俺の……部屋………?」
「うふふふふ………どうやらお目覚めになったみたいですねぇ………」
「…………………え?」
月明かりしか届いてない自室のベッドに横たわっていた俺の右耳に甘ったるい声と生暖かい風を感じ、ぼんやりとしたまま反射的に首を横に傾けて……………っ?!
「イ、イリんぐっ!?」
「ダメですよぉ九条さん……そんなに大きな声を出したら、皆が起きてきちゃうじゃないですかぁ………」
「ん、んぐっ!?」
え、え、え、え、え?な、何が起きてるんだ?!声がする方を見てみたらイリスが俺の腕を枕にして同じ布団に入っていて?驚いて声を出そうとしたら口を塞がれて?え、なにこれ?本当に現実?もしかして夢?ほっぺたを
「うふふ……これは紛れもない現実ですから安心して下さいねぇ……」
「ん、んー!?!?!!」
いや現実だとしたら全くと言って良いほど安心出来ないんですけど!?っていうかマジでどうしてこうなったんだ!?もしかしてあの紅茶に薬でも入ってたのか?!
「あの紅茶に睡眠薬なんて入れてませんよぉ……まぁ、成分としてちょーっと眠気を誘う効果があるんですけどねぇ。」
「んー!んーー!!」
結果は同じ事じゃねぇか!ついでに言うと何で俺の考えてる事が分かるんだよ!?さっきから一言も喋ってはいませんけど?!
「うふふ、そんなの愛の力に決まってるじゃないですかぁ………ねっ。」
「っ?!」
狂気的な笑みを浮かべながら互いの鼻が触れるか触れないかぐらいの距離まで顔を近づけたイリスと目が合ってしまい、俺は思わず息を呑んで体を硬直させていた!
だってメチャクチャ怖いんだもの!モンスターに初めて襲われた時の感覚が蘇ってくるようだぜ!なんて考えてる場合か!急いで何とかしないと………って、どんだけイリスの力強いんだよ!?マジで動く事が出来ないぞ!!
「うふふふ……そんなに暴れないで下さいよ九条さん……すぐに良い気持ちにさせてあげますからぁ……」
「んんっ?!」
何とんでもない事を言い出してんだコイツ?!そう言うのは男側が言う台詞で……って、そもそもイリスは男じゃねぇか!?あぁもう頭が混乱してきたんですけど!?
寝起きの頭ではどう処理して良いのか分からずパニックを起こしてると、イリスは空いている方の手を使って短パンのポケットから何かを取り出し俺に見せてきた?!
「これはですねぇ……変異種モンスターから取り出した毒を改良して作ってもらったリップクリームになります。」
ど、毒?だって!しかもそれを改良ってどういう事だよ!……なんて疑問を抱いていると、イリスはクスクスと笑いながらそのリップクリームを自分の唇をなぞる様に塗り始めた!…………って、見惚れてる場合かよ!?本当にバカなんじゃねぇの!?
「うふふ……実はあの毒には麻痺以外に効果のある成分が含まれていたんですよ……それが何かと言うと………興奮作用なんですよぉ。」
「んっ!?」
「別の個体同士の体液が混ざり合うと効果を発揮するという事らしいんですけど……九条さん、これがどういう意味なのか……分かりますよね?」
え?どういう意味って………………いや………いやいや…………いやいやいや!?まさか冗談だろ?!そんな事を本当にする訳無いよ……な?
「あぁ……これでいよいよ九条さんを僕のモノに出来るんですねぇ………」
ダメだコイツ!?マジでガチでヤバすぎる!マホ!ロイド!ソフィ!早く俺の事を助けに来てくれ!早くしないと色々と失う事になりそうだからぁ!!
「安心して下さい。他の皆さんはぐっすりとお休みでしたから、きちんとベッドまで運んでおきましたよ。」
「んーんーーんーー!!??」
確かに風邪をひく心配はしなくて良かったけどやっぱり俺がピンチだっていう事に変わりは無いじゃねぇか!
「さぁ、九条さん…………」
「んー!んー!んーーーーーっぐがががががが!!!!」
「えっ、きゃ!」
熱っぽく潤んだ瞳でジッと見つめてきたイリスの顔が少しずつ近づいてきた瞬間、俺は自分でも驚く程の力を込めて両腕を引き抜くと直前まで迫って来ていたイリスの肩を掴み入れ替わる様にしてベッドの上に押し倒すと、馬乗りになって手首を押さえつけてやった!
「はぁ……はぁ………い、色んな意味で危なかった………!」
「………く、九条さん…………ちょっと痛いです………」
「あっ、悪い!……って、本当に痛いならそういう表情をしなさいっての。」
「うふふ……残念ですねぇ……」
何故か嬉しそうに笑っているイリスを見て心の奥底からため息を吐き出した俺は、何度か深呼吸を繰り返して心を落ち着けると改めてイリスと目を合わせた。
「………イリス、これはどういう事なのか説明してくれるか。」
「どういう事……ですか?」
「しらばっくれんなよ、これまでこんな強引に迫って来た事は無かっただろうが。」
「………そうでしたかね。」
「そうだよ。お前はなんだかんだ言って相手を思いやれる奴なのに、どういう理由があってこんな事をしたんだ?きちんと訳を聞かせてくれ。」
「………すみません。」
「……そうやって謝るって事は、悪い事をしてるって自覚はあったんだな。」
「……そうですね。」
……イリスは何だか憑き物が落ちたかの様に微笑むと、静かに息を吐き出し全身の力を抜くと俺の顔をジッと見つめてきた。
「こんな事をしたら九条さんに………いえ、皆さんに嫌われるかもしれないと思っていた事は事実です……ですが……つい焦ってしまって……」
「……焦る?」
「はい……明後日の朝に九条さんとお別れをするんだと思ってしまったら……何だか怖くなってしまって……だから……だから………」
「……ったく。」
「本当に……すみませんでした……こんな事をしたら………ダメだって分かってたんですけど……でも……僕………」
……声を震わせて目に大粒の涙を浮かべるイリスを見つめていた俺は、そっと手首から手を離すと頭をガシガシと掻いてバカでかいため息を零した。
「はぁ……お前は………」
「すみません……ご迷惑ですよね……あの、僕は宿屋に戻ります……今日の事は……本当にすみませんでした……」
イリスは目元を拭い微笑みながら起き上がると、そのままベッドから降りて部屋を出て行こうとしたのだが………
「………えっ?」
「……勝手な事ばっか言って立ち去ろうとするんじゃないっての。」
腕を掴まれて戸惑いの表情を浮かべるイリスと目を合わせた俺は、若干の羞恥心を感じながらも思っている事を伝える事にした。
「えっと、何て言うのかな……確かにイリスがやった事は悪い事だからこは反省するべき所なんだが……その起源が俺に対する好意って考えるとそこまで責められないと言うか………」
「………あの……」
「……あぁもう面倒だな!もう簡単に言うからしっかり聞いとけ!」
「は、はい。」
「明日の朝、しっかりマホ達に謝る事!それを約束する事が出来るんなら今回の事はチャラにしてやるよ。」
「……え?」
ハァ……自分でも思うけどマジで甘々すぎるだろ俺は………でもしょうがなくね?俺に好意を抱いた結果としてこうなった訳であって、別に憎いからって理由じゃないんだぜ?だったらちょっとぐらい甘くなっても仕方だろうが!
「まぁそんな訳だから、別に宿屋に戻らなくても大丈夫だ。」
「……………ほ、本当に良いんですか?」
「あぁ、それに朝起きてお前が居なかったら俺がマホ達に怒られるだろうからなぁ。夜も遅いって言うのにイリスさんを出歩かせるなんて何事ですか!っつってな。」
「……うふ……うふふふ………確かにマホさんならそう言うかもしれませんね。」
「だろ?」
……涙を流しながらおかしそうに微笑むイリスとしばらく笑いあった俺は、ふぅと小さく息を吐き出すと温もりを感じるベッドの中に入って行った。
「さてと、明日……って言うか今日だけど、朝から出掛ける事になってるから早めに寝るとしますかね。それじゃあ…………イリス?」
おやすみを告げようと視線を向けてみると、そこには気恥ずかしそうに微笑んでるイリスの姿があった。
「九条さん、厚かましい事と分かっていますが1つだけお願いしても良いですか?」
「お願い?……まぁ、俺に出来る事なら考えてやっても良いけど。」
「うふふ……それでは失礼しますね………」
「は?…‥え、ちょとうわっ?!」
イリスはニコっと微笑みながら近寄って来るとベッドに潜り込んで来た?!そして俺の体を強引に倒すと勝手に腕を枕にしてきやがった?!
「お、おい!何すんだよいきなり!」
「うふふ、これが僕のお願いです。九条さん、今晩はご一緒に寝ても良いですか?」
「い、いやそれは流石に!?って待て!体をピッタリとくっつけて来るな!」
イリスは腕の付け根辺りを枕にしながら俺の胸元に手を乗せてきたんですけど!?なにこれ!?さっきまでのしおらしさは何処に行ってしまったんですか?!
「王都に帰る前にどうしても九条さんと2人だけの思い出を作りたいんです。だから今晩だけで良いんです……僕と一緒に寝てくれませんか?」
「いや、その、えっと………!」
「もしダメだと言うのなら、僕の事を突き飛ばしてくれても構いません。」
「つ、突き飛ばすのってのは無理だろ!?」
「それじゃあ、今晩は九条さんの腕の中で眠らせて貰いますね。」
「え、いや、えっ?」
「それではおやすみなさい、九条さん。」
「イ、イリス?イリスさん?ちょっと…ねぇ………目を開けてくれよぉ………」
……イリスは俺の言葉に反応しないまま目を閉じ続けると、数分後には静かに夢の世界に旅立ってしまっていた………うん、今晩は徹夜確定ですねぇ……‥うふふ……
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