第200話

「ありがとうございました九条さん。おかげで足の痺れも取れたみたいです。」


 そう告げて俺の腕から降りてぬかるんだ地面に立ったイリスは、ニコッと微笑むとそのまま俺達に背を向けて街の方に向かって歩き始めた……俺はその後ろ姿を呆然と見つめると、ガックシと肩を落として苦笑いを浮かべていた。


「………まぁ、そんな事だろうとは思ってたけどさ。」


「ふふっ、そんな顔をしていないでイリスの後を追おうじゃないか。幸いな事に雨も上がっているみたいだからね。」


「来る時とは大違い。」


 そんな事を言いながら軽い足取りでイリスの後に続いて行く2人を見ていた俺は、久しぶりに拝んだ青空を見上げながらため息を零すとぬかるんだ地面を歩いて少し先を歩いている皆と合流するのだった。


(ご主人様、空を見て下さい!虹が架かっていますよ!綺麗ですねぇ………)


(あぁ、そうだな……)


 ……平原に架かった虹を眺めながら無事に街まで戻って来た俺達は、病院でイリスの足の治療をした後に斡旋所に行くとカードを渡して報酬の確認をしてもらいながらダンジョンで何があったのか報告をした。


「なるほど!ダンジョンの奥から聞こえていた鳴き声と言うのは変異種モンスターの物だったんですね!ご報告ありがとうございました!」


「いえいえ、これで依頼は達成って事で良いんですよね?」


「はい、本当にお疲れ様でした!それにしても皆さん凄いですね!ボスだけではなく変異種モンスターまで討伐してしまうなんて!」


「あぁいや、凄いのは変異種モンスターをギリギリまで追い詰めたイリスですから。俺達がやった事なんてのはその手伝いぐらいのもんですよ。」


「うふふ、そんな事ありませんよ。皆さんが何十体ものモンスターを討伐してくれたからこそ、僕は変異種モンスターとの戦いに集中する事が出来たんですから。」


「えっへん。頑張った。」


「あぁ、イリスの助けになっていたなら良かったよ。」


「ふふっ、皆さんとっても仲良しなんですね。そのお姿をもう少し見てたいですが、そろそろ報酬の事についてお話してもよろしいですか?」


「あっ、すみません長々と……それじゃあお願いします。」


「はい、かしこまりました。それでは最初に依頼の報酬について何ですが、こちらはお約束通り10万Gのお支払いになります。それと追加の報酬として5万Gを上乗せしてお渡し致します。」


「え、それって変異種モンスターを討伐した報酬って事ですか?」


「はい。ですが納品された分とは別の報酬となりますのでご安心ください。」


「そうなんですか?じゃあ納品した分ってどれぐらいの報酬になるんですか?」


「えっとですね…‥今回は納品されたモンスターの数が非常に多いですので、報酬の額は合計で30万Gになりますね。」


「うぇ?!そんなに?」


「納品されたクモのモンスターの合計が10万Gで、変異種モンスターが15万Gにですね。それと納品されたボスの骨ですが、そちらは5万Gになります。」


「それじゃあ全部で45万Gになるのか?随分と稼いだな………」


「九条さん、まだ見つけたお宝を鑑定してもらってない。」


「あっ、そう言えばそうだったな……すみませんが、鑑定して貰って良いですか?」


「はい、勿論です。」


 俺達はそれぞれのポーチに入れてあったお宝を取り出すと、満面の笑みを浮かべてこっちを見つめているお姉さんの前に置いて見せた。


「それでは鑑定して参りますので、少々お待ちください。」


 お姉さんは白い手袋をはめて受付の上に置かれたお宝を丁寧に袋に入れていくと、立ち上がると受付の奥の方に向かって歩いて行った。


「……さてと、これでどんだけ稼げるかだな。」


(あれだけの数のお宝ですから凄い額になりますよきっと!)


(だな……そうしたら今日の晩飯は豪勢にパァーっといくか!)


(はい!あ、ご主人様!お買い物に行く前に家に戻ってくださいよ!私はお留守番をしてる事になってるんですから!)


(はいはい、分かってるよ。お、どうやら鑑定が終わったみたいだぞ。)


(うぅ~!ドキドキします!)


 明らかにテンションが上がってるマホの声を聞きながら目の前に座ったお姉さんと目が合った直後、受付の上にドサッと重量感のある袋が置かれた…………!?


「おぉ、もしかしてこれが………」


「はい、今回の報酬となります。」


「かなりの額が入っている様だが、どのぐらいなんだい?」


「合計で57万Gとなります。」


「ごっ!?」


「……お宝が12万Gぐらい?」


「はい。質の良い宝石が幾つかありましたので、そちらの額にて買い取らせて頂きました。」


「うふふ、これを持って帰ったらマホさんも驚きますね。」


「あ、あぁ、そうだな!きっと凄くビックリするんじゃないか?」


(ちょっとご主人様!変にハードルを上げないで下さいよ!)


(しょうがないだろ!まさかここに居るんだとは言えなんだから!)


(マホ、頑張って驚いてね。)


(それとなく私達も手助けをするからさ、家に戻ったら頼んだよ。)


(えぇ…物凄い重圧なんですが……まぁ頑張って驚いてはみますけど……)


 マホの渋々といった感じの返事を聞きながら報酬の入った袋をポーチの中に入れたその直後、お姉さんが受付の下から何かの液体が入った透明な瓶を取り出して目の前に置いて見せてきた。


「皆さん、最後に素材についてのお話をさせて頂きたいと思います。」


「素材……えっと、何か使えそうな物があったんですか?」


「はい。まずはこちらの瓶に入った液体なのですが、こちらは変異種モンスターから取り出した毒を加工した物になっております。」


「は、毒?……それを加工ってどういう事ですか?」


「簡単に説明しますと、こちらは武器に塗布して使うアイテムとなります。傷口から体内に入り、相手の動きを麻痺させる成分が効果があります。」


「ふむ……傷口からと言う事は、普通に触れても害は無いのかい?」


「その通りです。こちらは体内に入った時にのみ効果を発揮する様に加工をしてありますので、モンスターとの戦いに是非ご活用ください。」


「なるほど………」


 つまりこれを武器に塗れば状態異常の効果を起こせるって事か………とりあえず、イリスの手に渡す際には十分に注意するべき代物って事だな!


「うふふ……うふふふ………」


 だって物凄く不敵な笑みが俺のすぐ真後ろから聞こえてきてるからな!絶対に用心しておかなくちゃな!何よりも俺の為にも!


「それと別の素材として頑丈で伸縮性のある糸も素材としてありますので、そちらは加工屋でご利用ください。」


「……あ、はい分かりました!それじゃあえっと、素材は……俺が保管するって事で良いか?」


「勿論、私はそれで構わないよ。」


「大丈夫。」


「はい、どうぞ。」


 ……その後、手に入れた素材に関する事を登録してもらいカードを返してもらった俺は報酬の入った袋をポーチに入れて皆と一緒に家に帰る……はずだったんだが……


「皆さんすみません、ちょっと受付の方にお尋ねしたい事がありますので先に帰っていてもらえますか?」


 そう言ってイリスは出て来たばっかりの斡旋所の中に戻って行ってしまった………俺達は困惑しながら顔を見合わせると、仕方なく言われた通りにするのだった。

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