第186話
「……なぁ、ちょっと聞きたい事があるんだけど……良いか?」
「はい?どうかしたしたんですかおじさん。」
「えっと……そもそもの疑問なんだが、イリスはどういう経緯でここに居るんだ?」
そう尋ねてみた瞬間、部屋の中がシーンとなって皆がポカンとした表情で俺の事をジッと見つめて来た………え、そんなに聞いたらダメな質問をしたのか?
「……あぁ!そう言えばおじさんは雷にビックリして気を失っていたせいで、イリスさんが訪ねて来た理由を聞いてませんでしたね!」
「そ、そうなんだよ………って、気を失ってた?俺が?」
「はい、玄関でバッタリと倒れてましたよ。とっても情けない姿で。」
「情けないって……まぁ、覚えてないから反論は出来ないが……」
「皆さんにちゃんと感謝して下さいよ。おじさんをわざわざベッドまで運んで行ってくれたんですから。」
「そうだったのか……悪かったな、迷惑を掛けて……」
「ふっ、別に気にする事は無いさ。」
「うん、良い運動になった。」
「うふふ、僕も迷惑だなんて思っていませんよ。えぇ、本当に……」
「そ、そうか………」
何故だろう、知られちゃいけない奴に弱みを握られた様な気がするんだが……別にそんな事は無いよな?大丈夫だよな?うん、きっと大丈夫………のはず……?
「それで結局の所、イリスが訪ねて来た理由ってのは何なんだ?」
「ふふーん、それはですねぇ……数ヶ月前、王都の路地裏でおじさんに助けて貰ったそのお礼を伝えに来たからだそうです!ですよね、イリスさん!」
「はい、マホさんの言う通りです。その時の事、覚えていますか?」
「一応、覚えてはいるけど……」
「それなら良かったです。九条さん、王都で僕の事を助けてくれて本当にありがとうございました。本当に感謝していました。」
「あぁいや……ど、どういたしまして。」
「ふふっ、おじさん……もしかして照れてるんですか?」
「ち、違うっての!」
「おやおや、その態度だと説得力が無いんじゃないかい?」
「動揺してるのは目に見えて分かる。」
「黙らっしゃい!」
「うふふ、皆さん仲が良くて本当に………羨ましいですね。」
「えへへ!そう言われるとちょっと恥ずかしいですね!おじさん。」
「………」
「おじさん?」
「……え?」
「もぅ、ボーっとしてどうしたんですか?」
「い、いや……何でもない……」
「そうですか?なら良いんですけど。」
あれ?もしかしてさっきの羨ましいの声に背筋がゾクッとしたの俺だけ?ってか、お礼を言いに来たって……そうなると別の疑問が頭の中に浮かんでくるんですけど。
「な、なぁ……もう1つだけ聞きたい事があるんだが……答えてくれるか?」
「えぇ、僕に答えられる事だったら何でも……それで、聞きたい事と言うのは?」
艶っぽく微笑みながら小首を傾げたイリスを見てゴクッと生唾を飲みこんだ俺は、緊張で動きが早くなり始めた鼓動を感じながら質問を投げかけた。
「………お前、どうやってこの家を突き止めたんだ?」
「はい?どういう事ですか、おじさん。」
「……俺はイリスと路地裏でまともに自己紹介すらせずに別れたんだぞ。それなのにどうやってここを突き止めたんだ?」
「え、それは………え?」
「ふむ……」
「……どういう事?」
それぞれが別々の反応をしながら同じ方向に目を向けた先には、さっきと変わらず微笑んでいるイリスの姿があった。
「うふふ、皆さんにそんなに見つめられると少し恥ずかしいですね。」
「……イリス。」
「九条さん、そんなに怖い顔をしなくてもちゃんとお答えしますよ。」
「それじゃあ教えてくれ。どうして俺が住んでる街と家の場所を知ってたんだ?」
「うふふ、それはですねぇ………エルア先輩に聞いたんですよ。」
「え、それって……あのエルアさんの事ですか?」
「た、多分そうだと思うけど……って待てよ?それってつまり、イリスは王立学園の生徒って事なのか?」
「はい、僕は王立学園の3年生です。ついでに言うと、僕はエルア先輩と同じ家庭部に所属しています。」
微笑みながら告げられた事実に思わず衝撃を受けていたその時、俺の頭の中にある考えが浮かび上がってきた!
「なぁ、もしかしてだけど………学園内で俺の事を見かけた事はあるか?」
「えぇ、何度もありますよ。まぁ僕は2科の生徒だったので、遠くから見ていただけですけどね。」
「なるほど。それで九条さんがエルアと知り合いだという事を知り、事情を説明してこの場所を聞き出したんだね。」
「そう言う事です。これで納得して頂けましたか?」
「あ、あぁ……色々とな……」
まさか家の場所を突き止めた方法以外にも、俺がずっと感じていた視線の正体まで知る事が出来るとは……どうしよう、全然嬉しくないんですけど!?むしろ恐怖心が更に増した様な感じがするんだが?!
「……イリス、私からも良い?」
「はい、どうしたんですかソフィさん。」
「イリスの目的は九条さんにお礼を言う事。それを達成したという事はもう満足したって事で良いの?」
「……それはどう言う意味ですか?」
「別に。ただお礼以外の目的がありそうな気がしただけ。」
「え、え?」
2人の間に何故か不穏な空気が流れ初めてメチャクチャ戸惑っていると、イリスが口元に手を当てて笑い出した?
「うふふ、ソフィさんの言う通りですよ。僕には九条さんにお礼を言う以外に目的があります。だから王都からここまでやって来たんです。」
「も、目的?」
「はい。実はですね……あぁ……僕、九条さんに運命を感じてしまったんですぅ。」
「ひっ!?」
「お、おじさん……!」
両頬に手をやってさっきまでとは違う狂気的な笑みを浮かべたイリスがジットリとした視線を送って来た瞬間、マホが椅子から立ち上がって俺の後ろに隠れて来た!
いやマホのその気持ちも分かるが俺を盾にしないでくれ!こっちも逃げ出したくてたまらないんだからさぁ!ってかマジで怖すぎるぞ!?何がどうなってんだ!!
「運命ね……それでその運命とやらを感じたイリスは、どんな目的があるんだい?」
「うふふ、そんなの決まってるじゃないですかぁ……九条さんを、僕のモノにしたいんですよ。」
「は、はは……じょ、冗談だろ?」
「いえ、僕は本気ですよ……九条さん。」
「……っ!?」
本能がマジでヤバいと感じて思わず息を呑んだ瞬間、椅子に座ってたソフィが一瞬でイリスの背後に回り込んでその首に包丁を当てていた?!??!!
「ちょ、何やってんだソフィ!」
「……九条さんに危害を加えるつもりなら、私は容赦しない。」
「うふふ、そんな事はしませんから安心して下さい。」
「えっ?!」
何の
「皆さん、今日は突然お邪魔してしまい本当にすみませんでした。残念ですが、今日はこの辺りで失礼させて頂きますね。」
「お、おい!」
「九条さん、貴方が僕のモノになる日を楽しみにしていますよ。それでは。」
丁寧に頭を下げてリビングを出て行ったイリスの姿を見送った後、残された俺達の間には何とも言えない緊張感が漂っていた………そんな中で最初に動き出したのは、俺の後ろに隠れていたマホだった。
「……って、ソフィさん!あんな事したらダメじゃないですか!もう少しで犯罪者になっていましたよ!」
「……ごめん、脅しのつもりだったけどやり過ぎた。反省してる。」
「本当に反省して下さいよ!次はありませんからね!」
「うん、分かった。」
………そんなマホとソフィのやり取りのおかげで空気が少しずつ和らいできたのを感じた俺は、思いっきり息を吐き出して背もたれに体を預けていた。
「………い、今までに感じた事が無い恐怖心を味わったな。」
「はい……うぅ……怖かったですぅ……」
「ふぅ、九条さんも随分と厄介な相手に好かれたものだね。」
「アレは……好かれてるとはまた違う気がするけどな………ってか、イリスって学生なんだろ?さっきの口ぶりだとこの街にしばらく滞在するって感じに聞こえたけど、流石にそれは問題があるんじゃないのか?」
「ふむ、恐らくだけど王立学園は梅雨休暇に突入しているのかもね。」
「……梅雨休暇?なんだそれ?」
「梅雨休暇と言うのは、名前の通り梅雨の時期になると貰える休みの事だよ。ほら、この時期になってから泥の様な性質を持つモンスターが出現する様になっただろ?」
「あぁ、倒しても数日で復活してくるあの厄介なモンスターの事だろ?確か斡旋所が何回も討伐クエストとして出してたよな。馬車が横転する原因になるからって……」
「その通りだ。実はそのモンスターなんだが通学路の途中にも出現していてね、そのせいで馬車を使っている生徒は危険だという事で梅雨休暇があるんだよ。」
「……だったら馬車を使わずに歩けば良いじゃねぇか。」
「ふふっ、私もその意見には賛成だよ。ただ馬車を使っているのは学園に多額の寄付をしてくれる人の子供だからね。そんな事は口が裂けても言えないのさ。」
「なるほどね……要は金持ち連中の我儘で生まれた休みって事か。」
「あぁ、そういう事だよ。」
「ロイド、梅雨休暇は何日あるの。」
「うーん、モンスターが出現する様になってから考えると恐らく1週間程度かな。」
「へぇー結構短いんですね。梅雨休暇っていうぐらいだから、梅雨が終わるまでの間お休みなのかと思いました。」
「ふふっ、それだと1ヶ月近く休みになってしまうからね。流石にそれは問題あると思ったんじゃないかな。」
「それじゃあモンスターの方はどうするんだ?梅雨が続いてる間は出現するぞ?」
「それについては問題ないよ。学園側が特殊なアイテムを使ってモンスターの出現を抑えるからね。」
「特殊なアイテム?………じゃあそれをあちこちに設置すれば良いんじゃないのか?そうすれば馬車が横転する事故も減らせるだろ。」
「残念だがそれは無理なんだよ。その特殊なアイテムは作成する為の材料が希少で、更に効果範囲もそこまで広くなくて持続性もそんなに無いんだ。だから王都から学園までの通学路でのみ使う事が許されているのさ。」
「ふーん、なるほどねぇ。」
やっぱりそういう特別製のアイテムは量産は出来ないって感じなんだな……って、そんな事はどうでも良くてだな……
「さて、学園に戻る様に説得する手段は潰されたとして……マジでどうすっかな。」
「ご主人様……大丈夫ですよね?」
「……ったく、そんな心配そうな顔をするなっての。」
「いてっ。」
物凄く不安そうな表情で俺を見上げていたマホの頭を軽くチョップしてから優しく撫でてやった俺は、ニヤッと笑って皆の顔を見渡した。
「梅雨休暇が終わるまで逃げ切れば良いだけだし、イリスも俺に危害を加えるつもりは無いって言ってたからな……まぁ、色々と警戒する必要はあると思うけどな。まぁそんな訳だから、お前らもしっかりと俺に協力してくれよ?」
「………わ、分かりました!ご主人様の事は私達が絶対に護り抜きます!」
「あぁ、私も九条さんをイリスに渡す気は無いからね。」
「頑張る。」
「ふっ、頼りにしてるぞ。」
まさか俺がこんな展開に襲われるとは予想外すぎるが、こうなったら覚悟を決めて逃げて逃げて逃げまくってやるぜ!!……そう決意した後、俺達は残すのも勿体ないという事でイリスが作った料理を食べる事にした………非常に美味しかったです。
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