第9章 愛と絡まるクモの糸
第184話
「……はぁ……今日も雨か……」
奉仕義務を無事に……とは言い難いが何とか終わらせて無事に我が家に戻って来てから数週間が経ったのだが、その間に季節は春から梅雨へと変化してきていた。
そんな訳でいつもの様に窓に当たる雨の音で目を覚ました俺は、だらだらとベッドから抜け出すとカーテンを開けてどんよりとした曇り空を眺めてため息を零した……
そして頭を軽く掻きながら自室を出て行くと朝飯を食べる為にリビングに向かったのだが……そこでは寝間着姿のマホとロイドがソファーの上で脱力しきっていた。
「あ、おはようございますご主人様……」
「ふふっ、おはよう九条さん………」
「あぁ、おはようさん……って、お前ら日に日にだらけていくな。」
「ははっ、すまないね……連日の雨のせいでどうにもね……」
「同じくです……やる気が全然出て来ません……」
「ったく……まぁ、俺も気持ちは分かるけどさ……ってソフィはどうしたんだ?姿が見えないけど……」
「やる気が出ないから部屋で本を読んでるそうです………」
「なるほど……要はいつもと同じか……」
「はい……あ、朝食はそこに置いてあるパンです……他に何か食べたくなったら勝手に作って食べちゃってください……」
「はいよ……」
季節が梅雨に変わってからというもの、俺を含めた全員がやる気と言う物を完全に無くしていた……まぁ、湿気が多いと体がだるくなるってネットで読んだ記憶があるからしょうがないとは思うんだけど…………はぁ、とりあえず朝飯にするか。
ため息を零しながら目玉焼きとベーコンを焼いた俺はそれを皿に移し1人で食卓の椅子に座ると、いただきますと呟いて目の前のバスケットのかごからパンを1つ取り朝食を食べ始めた。
……これまでだったら当番になった奴が朝昼晩と飯を作っていたのだが、この状況ではそれも酷だという事で朝飯は各自で勝手に食べる様に変わっていた。
「……そう言えば、冷蔵庫の中の食材がそろそろ無くなりかけてたぞ。」
「あぁ……それじゃあ後で買い出しに……はぁ………」
「マホ……ため息を出すなよ………」
「だって………これだけ雨の降ってる中でお買い物は……」
「そんな事を言ったってしょうがないだろ?俺も一緒に行ってやるから、ちょっとはやる気を出せって。」
「はーい……」
全然やる気が感じられないマホの返事を聞いて何度目か分からないため息を零した俺は、使い終わった食器を洗いながらこの後の過ごし方を考えていたのだが……
「……あれ?」
「ん?……どうかしたのか?」
「あぁいえ……すみませんがご主人様、ちょっと蛇口を閉めてくれますか?」
「わ、分かった……」
マホに言われた通りに蛇口を閉めてタオルで手を拭いていると、雨の音に混じってコンコンと扉がノックされる音が聞こえて来た。
「……やっぱり誰か来てるみたいですね。」
「あぁ、蛇口から出る音で聞こえなかったのか。」
「ふふっ、よく気づけたねマホ。」
「えへへ、ありがとうございますロイドさん。」
笑顔を浮かべた2人が部屋の中に和やかな雰囲気を作り出してから数秒が経過したんだが………誰もこの場を動こうとする奴はいなかった……無論、俺もだけどな。
「……おい、誰が玄関に出迎えに行って来いよ。」
「……嫌です、私はこの場を動きたくありません。」
「……マホと同じく、私もこの場を動く気はない。」
互いに目も合わせない状態の中で何度かノックの音が虚しく響き渡った直後、俺達は無言で顔を見合わせると右手で握り拳を作り少しだけ上の方に上げていくと……!
「「「じゃんけん、ポン!」」」
「………くっ!」
「ほら、早く出迎えて来て下さいご主人様。」
「雨の中でこれだけ待たせたんだ。お詫びもしっかりとね。」
「………はいはい。」
勝った途端にメチャクチャ調子に乗り出したマホとロイドを見て思いっきりため息を吐き出した俺は、リビングを出て玄関に向かって行った……って言うか、部屋の中にはソフィが居るんだから何も言わずに出てくれよな………
「まぁ、どうせ宅配だろうからさっさと荷物を受け取って部屋に戻るか。」
奉仕期間の間に出てたラノベの新刊をようやく買ったんだ、買い物に行くまでの間に少しでも読み進めておかないとな!
そう意気込みながら玄関に辿り着いた俺は、鍵を開けて扉の向こうに居る配達員に挨拶を使用とした……のだが…………
「…………え?」
思わず驚きの声を上げた俺の目の前に現れたのは荷物を持った配達員ではなく……血の様に真っ赤なレインコートのフードを目深に被っている誰かだった…………!?
「…やっと……会えましたね……僕の……運命の人……」
「……っ!?」
ゾクッとする様な声が耳に聞こえて来た瞬間に王都を出発する直前の記憶が蘇ってきたと思ったら、雨の勢いが更に増して激しい轟音と眩いばかりの光がフードの下に隠されていた素顔を見えて!?!!?
……そう思ったそのすぐ後から俺の意識は何故か途切れてしまい、真っ暗な闇の中に落ちていくのだった。
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