第5章 命懸けのパーティー
第55話
ソフィがギルドに加わってから早数週間、トリアルを囲う森が紅葉に染まり始めてこの世界にも四季があるんだという事を実感しながら日々を過ごしていた俺の生活に大きな変化が起こっていた。
「九条さん、マホ、ロイド、今日からお世話になります。」
「うん、よろしくねソフィ。」
「えへへ、自分の家だと思って好きに過ごしちゃって下さい!」
……いやね、俺だって最初は断ろうと思ったよ。いい歳したおっさんと美少女達が同じ屋根の下で暮らすなんてそんなもんはフィクションの中だけの出来事だってさ。
だけどそう言ったらソフィは何だか悲しそうにしちまったし、それを見てマホには怒られるし、ロイドにはそれでは私の事も迷惑だったのかなとか寂しそうに言われちまったしで……結果、我が家に残っていた客間がまた1つ消える事になりました。
まぁ、近隣住民も居ない事だしメチャクチャ気を付ければ何とかなるだろきっと!最悪の場合はロイドの実家が持っている権力でどうにかしてもらうとして……そんな感じで同居人が増えた俺達の生活には家事分担というローテーション追加された。
一日ごとに炊事、洗濯、掃除、休みを交代していくといった簡単なもんだが、折角4人も居るんなら楽が出来る所はしていかないといけないからな。
「……あぁ~……生き返るぅ……」
そんな感じで慌ただしくもそれなりに充実もした時間を過ごして来たある日の事、皆と一緒にクエストをこなしてきた俺はロイドに断りを入れて彼女の家にある広々とした風呂の中で湯船にまったりと浸かっていた。
「いやぁ、流石は貴族のお嬢様だよなぁ……マジで感謝だわ……」
たまーにこうして疲労が蓄積されまくった日にはロイドの家にやって来てこうして風呂を借りている訳だが、いやはや仲間ってのはやっぱり良いもんだねぇ……
「あ~最っ高~……こっちの世界に来てからのんびりする暇なんてほとんど無かったからなぁ……うーん!こんな穏やかな日々がずっと続いて欲しいもんだぜ……って、ん?明かりが……消えちまった……もしかして停電か?」
おいおい、まさかとは思うが俺の言葉がフラグになったとかそう言うんじゃないだろうな……もしそうならかなり最悪なんだが……っ!?
「うおっ!?な、何なんだ一体……?!」
突如として聞こえてきた爆発音と建物全体を揺らす程の振動に驚きながら風呂の中から飛び出した俺は、急いで脱衣所に向かい何が起きているのか確かめようと……
「おい!アイツを見つけたか!?」
「いや!2階にはいなかった!」
「チッ、早く見つけ出せ!さっさとしないと電力系統を繋ぐ魔力が戻っちまうぞ!」
「分かってるよ!」
「クソッ……!いきなり何者なんだよこいつ等は……!?」
玄関ホールに通じている脱衣所の扉から2歩、3歩と下がって行った俺は着替えを目立たない所に隠してから再び風呂の中に戻って行った……!
あぁもう、誰だか知らねぇが馬鹿じゃねぇのか?!どうしておっさんが入浴してる所にわざわざ侵入して来るんだよ!普通は美少女の入浴している侵入して来て視聴者サービスするシーンだろうが!バカが!ここには全裸のおっさしかいねぇよ!
「……いや、それだとロイドが被害者になる可能性があるからダメか……って、この状況でこんな事を考えてる場合じゃねぇっての……!どうにかしてこの場を脱出する方法を考えねぇと……!」
もしかしたらさっきの爆発音を聞いてロイドやソフィが駆けつけて来てくれるかもしれないが、相手が何者か分からない以上はここでケリを付けちまいたい……!
「おい!あっちの扉の先を確かめに行くぞ!何人かこっちに来い!」
「っ!」
そんな事を考えていたら脱衣所の扉が勢いよく開かれて、侵入者達のドタドタした足音が聞こえてきた……!
真っ暗な湯船の中で風呂桶を被りながら奥の方に隠れていた俺は、動いてる人影をジッと見つめながら必死になって打開策を考えまくっていた!
「……どうだ、居るか?」
「……分からない。とりあえず風呂の中も探してみるぞ!」
マズいマズいマズい!このままじゃ全裸のままあいつ等に掴まって最悪……!あぁもう、イチかバチか上手くいくかも分からない作戦だがコレで何とかするしかねぇ!
そう決意して息を吸い込んで湯船の中に潜って行った俺は、魔力を高めながら床に両手を付くと風呂に入っていたお湯を波の様にして侵入者の方に襲い掛からせた!
「な、なんっ!?」
「ぐわあああああ!!」
「ぶはあああああ!!!」
お湯の高波に飲まれて壁に叩きつけられていった侵入者達の姿を目にしながら頭に被っていた風呂桶を床に置いてその上に乗った俺は、ずぶ濡れになった連中に対してカミナリをイメージした電撃を撃ち放った!!
「「「ぎゃああああああああああっ!!!」」
激しい明滅を繰り返しながら叫び声をあげた侵入者が動かなくなってから数秒後、風呂桶から降りた俺はピクリともしないそいつ等にゆっくり近付いていった……
「ったく、何者なんだよこいつ等は……何の目的があってロイドの家に……?いや、考えるのは後だな。まずは皆と合流しないと。」
急いで風呂場を後にして脱衣所に向かった俺は、隠してあった服が濡れてない事を確認してホッとため息を零した……流石に全裸のままで外に出たくないからな……
「おいっ!いきなりお湯が流れて来たが一体何がっ?!」
ガラッと開かれた扉の向こうから現れた侵入者と最悪にも鉢合わせてしまったその直後、素っ裸の俺を見つけて驚いていた侵入者は一瞬だけ固まっていたがすぐ右手に握り締めていた黒い棒状の何かで俺に襲い掛かって来た!
「ぐっ!」
反射的に持っていたカゴで攻撃を防ぐ事に成功はしたが、そのせいでびしょ濡れになった床の上に俺の服が全部落ちてしまったがそんな事は気にしていられるか!!
「オラァッ!!」
「がはっ!!」
魔力を込めた蹴りを食らわせて侵入者を脱衣所の外に吹き飛ばせはしたが、恐らくシッカリとした防具を付けていたのであろう侵入者はすぐに起き上がり反撃を仕掛けようとしてきたが……!
「テメェも寝てやがれ!!」
「ぎゃああああああ!!!」
他の連中と同じくずぶ濡れになった侵入者に電撃を撃ち込み大人しくさせた俺は、しばらくその場から動かず新手が来ない事を確認してから床に足を付けるのだった。
「……はぁ、マジで何が起こってやがるんだ……」
ため息を零しながら眉をひそめた直後、風呂場と玄関ホールにパッと明かりが戻りそれと同時にバカでかいアラート音みたいな物が鳴り響き始めた!?
「な、何だ?!」
「九条さん!大丈夫かい?!」
「ご主人様!ご無事ですか!?」
「こ、この声は……!おーい!俺は……っ!」
「ご主人様!そちらですね!すぐに行きます!」
「あっ、待って!やめて来ないで!」
「来ないでって……どうしたんだい!何かあったのかい!?」
「いや、有ったって言うか無いって言うか……ちょっ、だから来るなってば!」
俺の頼みを無視してこっちに近付いて来る複数の足音に慌てて足元にあったカゴを手にして大事な所を隠した瞬間、脱衣所に武器を持ったロイドとソフィが現れて……その後ろからマホもやって来たんだが……!
「きゃ、きゃあああああ!!ご主人様!な、なんて恰好をしてるんですか!?」
「いや、だから来るなって言ったでしょうが!風呂に入ってた所をいきなり襲われたから着替える暇が無かったんだよ!!」
「なるほど。それよりも怪我はないかい?」
「それよりもって……!だ、だから……!」
「……うん、何処にも怪我は無さそうだね。良かった。」
「……いやあの、だからですね……?」
「ロイド、他に侵入者が居ないか探してくる。」
「分かった。私はここに残って2人の護衛をするよ。ソフィ、気を付けて。」
「うん、分かった。」
「……えぇ……?」
「ご、ご主人様!は、早く服を着て下さい!もう!もう~!!」
……顔を真っ赤にしてこっちを見ない様にしているマホ、平然としていたロイドとソフィ……そしてぶっ倒れて気絶している謎の侵入者達……色々な意味でカオスだと言える状況の中、俺はカゴで大事な所を隠しながらバカでかいため息を零していた。
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