第14話

 話を聞きながら息を整えていたロイドは俺と動かなくなったボスを交互に見ると、腕を組んで困惑した表情を浮かべていた。


「……もう一度だけ確認したいんだが、本当に私が戻るまでの数十分でボスを倒してしまったと言うのかい?」


「おう!やる気と根性さえあれば何とかなるもんだな!」


「いや、普通はどうにもならないと思うんだが……まぁ、今は九条さんが無事だった事を喜ぶとしようか。」


 おぉ……こうやって爽やかな笑みを向けられると女の子達がロイドにときめいてた理由が少し分かるな……お、俺は男だからイケメンにドキッとするとかそんな事にはならないけどな!


「さ、さてと!それじゃあ悪いんだが、ボスをネットで覆うのを手伝ってくれるか?俺だけだとちょっと難しいからな!」


「勿論、手伝わせてもらうよ。」


 ニコッと微笑みかけてきたロイドに思わず…………いや!何も感じないままボスに近づいて行った俺達は、まず最初に周囲にある邪魔な瓦礫を撤去する事にした!


「……それにしても九条さんは本当に凄いね。私達を逃がす為に1人でボスの相手をして、更には私が助けに戻るまでの間にこうして倒してしまうんだから。」


「ま、まぁ……アレだ、運が良かっただけだよ。」


「ふふっ、運だけではこのボスは倒せないと思うよ。やはり九条さんには強敵を倒すだけの実力があるって事だね。」


「うーん……そうかねぇ………」


 瓦礫をどかしながらずっと褒めてくるロイドにバレない様にため息を零した俺は、何とも言えない複雑な気持ちを抱いていた。


(どうにもなぁ………居心地が悪くてしょうがねぇや。)


(え、どうしてですか?実際にご主人様はボスを倒したんですから、きちんと実力があるって褒められておけば良いじゃないですか。)


(でもさぁ……これって実力と言うか特典のおかげって感じだからな……)


(もう、あんまり謙遜ばっかりしていたらダメです!ボスを倒したのは間違いないんですから、そこは誇っても良いと思いますよ!)


(……まぁ、マホがそこまで言うなら納得はするけどさ。)


 これまでの人生でこういった経験があまりにも少なかったから、どうにも慣れないって言うかむず痒い気持ちが拭えないんだよな……とりあえず今は頭を切り替えて、瓦礫の撤去に集中するかね。


 コイツを納品出来たらかなりの額になりそうだし……うん、そう考えるとやる気がみなぎって来たな!とっとと納品作業に取り掛かるとしますかね!


 気持ちを切り替えてロイドとしばらく作業を続けて最後の瓦礫を端にどかした後、俺はアイテム屋で購入した大型のネットを使って納品を始めようしていたんだが……


「……ん?何だろうかこの音は?」


「……足音か?」


 まさかモンスターがこっちに向かって来てるのか?いやでも、大半のモンスターは倒したと思うんだけどな……もしかしてもう復活したのか?やっぱりアンデッド系のモンスターは倒した後に燃やし尽くすべきだったか。


 そんな軽い後悔をしながら武器を手にロイドと音が聞こえてきてる巨大な扉に目を向けた俺は、警戒心を抱きながらいつでも動き出せる様に姿勢を低くしたんだが……走って広間にやって来たのは俺達が予想をしていた存在では無かった。


「はぁ……はぁ……ロ、ロイド様!おじさん!ご無事ですか!」


「き、君は!?どうしてここに?ダンジョンの入口で待っていてくれと言っておいたじゃないか!」


 驚きの声を上げているロイドと見つめた先には、宝箱に触れてしまってボスを出現させる事になった女の子が膝に手をつき息を乱れさせて立っていた。


 ……って言うか、おじさんかぁ……若い子から改めてそうやって呼ばれると色々と実感して複雑な思いでいっぱいになっちゃうね……!


「ど、どうしてもお二人の事が心配で!はぁ……はぁ……そ、それに私、おじさんに謝らないといけない事があって!そ、それで……き、来てしまいました!」


「え、謝るって……俺に?何を?」


 うーん、そんな泣きそうになるぐらい謝りたい事か………あ、もしかしておじさん呼びをしている事かしら?


「わ、私達……ダンジョンを脱出した時におじさんの事を見捨てようとしたんです!だ、だからその……それを……直接謝りたくて……うぅ……」


「………あ、そうなの?」


「違うんだ!あの子達がそんな発言をした責任は私にある!だから怒りをぶつけるのならば彼女達ではなく私にしてくれ!どんな罰でも受けるつもりだ!」


「ま、待って下さい!ロイド様は悪くないんです!私達がロイド様に甘え続けていたせいです!だから弱い心が生まれておじさんを見捨てようとしてしまったんです!!だから罰を与えるのなら私達、いえ私にお願いします!」


「いや、そんな必死にならなくても大丈夫だから!別に怒っちゃいないし、死ぬかもしれないって考えた時に自分の身を護りたいって思うのは自然な事だからさ!」


 こんな可愛い女の子に涙目で頭を下げられるとよく分からん罪悪感が生まれてマジ辛いんですけど!?もう、本当に俺なんかが気を遣わせてゴメンね!?


「いや、しかし!」


「で、ですが!」


「本当にもう良いから!それよりも君、どうやってここまで来たんだ?多少なりともモンスターが残っていたとは思うんだが……」


 強引に話題を変えて女の子にそう尋ねると、彼女はしばらくオロオロした後に涙を拭い何度か深呼吸を繰り返して俺の顔をジッと見てきた。


「あ、あのですね……ロイド様からモンスター除けのアイテムを受け取っていたのでそれを使って……あっ、無理やり来させられたとかって事では無いんです!きちんと皆で話し合って、それでレベルが一番高い私が代表して……それにダンジョンの中に居たモンスターのほとんどはロイド様とおじさんが倒していましたから……」


「あぁ、なるほど……それじゃあ少しだけ待っていてくれるか?すぐにボスの納品を始めちまうからさ。ほらロイド、さっさと作業に取り掛かるとしようぜ。」


 手に持っていたネットを掲げてロイドに見せた……その直後、背後からグルルルと唸り声の様な物が聞こえてきて?


「九条さん!ボスが動き出している!」


「はぁ?!」


 女の子の前に立って庇う様に武器を構えたロイドが見つめている先に視線を送ってみると、そこには殺気に満ちた瞳で睨みながら起き上がろうとしているボスが!?


「クソッ!だったら魔法でもう一回ぶっ飛ばしてやる!」


 さっきと同じ様に地面を殴ってボスに石の拳でアッパーを食らわせようとしたが、それよりも一瞬だけ早く起き上がったボスは大きく後ろに飛んでからこっちに物凄い勢いで突っ込んて来やがった!


「くっ、このままでは!」


「ロイド様!」


(ご主人様!)


 マホ、ロイド、女の子の叫ぶ声を聞きながら周囲の景色がゆっくりと動いて見えた俺は、頭の中で自分だけが助かる方法を1つだけ思いついていた。


 ……まぁ、だからってそれを実行するだけの度胸がヘタレで小心者の俺にある訳が無いんですけどね!誰かを犠牲にして呑気に生きて行ける図太い精神を持っていたら俺の人生はもっと華やかだったに決まってんだろうが!!


 ギリっと歯を食いしばりニヤッと笑った俺は、左手をロイド達に向けて魔法を発動させると2人の体を横方向に向けて吹っ飛ばしてやった!


 おぉおぉ、メチャクチャ驚いた顔してるな!でもまぁロイドなら何とかなるだろ!っていうかアイツ、どんな表情になってもイケメンとか嫌になっちゃうねぇ……


 そんな事を考えながら目の前に迫って来ていたボスの左前脚を防ぐ為にブレードを盾にする様に構えた俺は……凄まじい衝撃と共に吹き飛ばされて全身を壁に叩きつけられて呼吸が止まる苦しみと激しい痛みを感じながら意識を失うのだった。

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