SCFR
マリーゴールド
3錠
ふ、と鼻を掠める薄い匂いに目が覚める。
隣には変わらず狭い背中が横たわっていた。
身体を起こし部屋を見回すと、床に毛布が落ちていることに気がつく。
寝返りを打った際に落ちたのだろうか。
静かに呼吸する肩にそっと拾った毛布を掛け直してやると、またいつもとは違う匂いが鼻をついた。
よく見れば、椅子にかかっていた服は背もたれから滑り落ち、床には足跡、部屋の扉は半開き。
自分が眠っている間に、彼は一度起きたらしい。
いつもなら身動ぎする音で気がつくのだが、どうも深い眠りに落ちていたようだ。
彼がベッドを抜け出したのに気づかなかった。
再び寝入っているのを見ると、だいぶ時間がたっていると思われる。
そっと彼の背に触れ、そこで服が僅かに湿っていることに気がついた。
気温は高くない。むしろこの時間は空気が冷えており、肌寒さを感じるほどだ。
汗をかくほどの暑さでは無いはずだ。
そこで先程から漂う匂いの正体に気づく。
この冷えた空気が原因か、低体温で血流が滞り、古傷の痛みが彼を襲ったのだ。
痛みに耐えきれなくなった彼は、ベッドを抜け出し、部屋を出て、痛み止めの薬を飲んだのだろう。
この匂いは薬品特有のものだ。
錠剤をいくつか口に放り込み、噛み砕きでもしたのだろうか。時間が経ってもその匂いは消えていなかった。
脱力してベッドに横たわる彼の顔を覗き込むと、少し青ざめており、起きる気配はない。
鎮痛作用は強いが、その分副作用も強く出る。
用法を読んでいないのか、数を数えることすらできない状況だったのかはわからないが、どのみちこれではしばらく起きては来ないだろう。
痛みならいくらでもとってあげれるのに。
そんな薬なんかに頼らなくても。
「…………気づかなかったのは僕か」
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