第3話 魔法使いの才能

 暗闇に包まれていた。手探りで見つけたドアを開くと光の世界に繋がっていた。


 僕が魔法を覚えたのは、十歳の頃だった。初めに覚えたのは、水を発生させる魔法だ。これは、トイレで使用するから、親も一生懸命教えてくれた。


 次に覚えたのは、火を発生させる魔法だ。食事の時に便利な魔法で、これも親が一生懸命教えてくれた。だが、両親が頑張って教えてくれたのはここまでだった。これ以上の魔法は、魔法使いにでもならない限り必要ない。と、言って教えようとしなかった。


 本当は、教えることが出来なかったことを知っている。普通のきこりである両親は、それ以上の魔法を覚える必要がなかったのだ。


 僕はそのことが不満だった。魔法に興味があった。それに、魔法使いになれば、王宮に雇われて、贅沢な暮らしを出来るかもしれない。憧れの羨望の眼差しで見られることは間違いない。そんな淡い気持ちもあった。


 ただ、名のある魔法使いになるのは大変だ。なりたい人間は沢山いるから、なれない人間のほうが圧倒的に多い。努力は勿論のこと、才能がなければ到達できない。更に、コネとか金とか運とか、諸々のものがないとたどり着けない場所なのだ。


 両親は、そんなものに憧れるより、樵としての技術を磨けと言った。それはそれで正しいと思う。僕も樵に向いていると思う。こちらの方面の才能が多少はあると自分でも解る。


 それでも、魔法使いに憧れていた。だから、近所の友人が魔法使いになったときは羨ましかった。祝福をしたが、同時に彼の才能が妬ましく感じた。


 彼のことが嫌いだったわけではない。ネガティブな感情をぶつけたいわけでもない。彼我の才能の違いを虚しく感じていただけだ。


 だから、彼が立派に王宮内で出世していくことを期待していた。大物魔法使いになった彼と再び仲良く酒でも飲みたかった。


 それなのに、彼は増長した。魔法使いになった彼は一般人を見下した。魔法使いになる心得なるものを語り始めた。


 そのことは、悪くはない。魔法使いになりたい人間は、こぞって彼の話を聞いた。魔法使いになる秘訣を知りたがった。だが、僕は知っている。彼が彼たる所以は、彼の才能にあるものであって、彼の秘訣など大して役に立たないであろうことを。


 それでも、すがることしか出来ない。そんな才能の差に哀愁を感じながら、僕は斧を手にした。樵も悪くはない。大魔法使いにならないのだったら、樵のほうがよっぽど楽な生活を出来る。


 それでも僕は、斧を振り上げながら魔法のことを考えていた。



お題:遠い闇 必須要素:ドア 制限時間:15分

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