第8話 瓦解
その夜も康彦さんと私はフランス映画「最強の二人」を観ていた。
ワインを飲みながらの至福の時間。私はいつの間にかかなり酔っていて康彦さんの肩に寄りかかってまどろみの中にいた。
康彦さんが私の手を握ってくれた。それはもう指が長く温かな手であった。
私も恋人つなぎで絡めた指を強く握った。
ほわんとした頭を康彦さんがポンポンと撫でてくれた。
(だめ! 私何してるんだろう? あたしは春人のお嫁さんよ・・・)
そうしている間に康彦さんの顔が迫る。
(来ちゃだめ!)そう思いながら私は瞳を閉じていた。
唇と唇が触れあっただけの淡いキッス。
「駄目、お義父さん、これ以上は・・・」私は真っ赤になって呟いた。
「わかっているよ、でも寂しいときはまたこうしていようね」康彦さんは甘い声で私をハグした。
何秒続いただろう。
ピンポーン
(いけない!春人が帰ってきた!)
私たちはソファーから去り、私はキッチンへと向かう。
*
あの日以来、私と康彦さんは恋人のような関係になってしまった。
「よかったら今度の土曜、湘南でもドライブに行きませんか?」
「え、でも・・・」私は高鳴る胸に動揺を隠しきれない。
土曜は春人は仕事。(ばれないかな・・・)
「大丈夫、親子でドライブも悪くないでしょう。海沿いに素敵なレストランがあってね、
ついでに江の島タワーにも登って、素敵な海を眺めましょう」
*
土曜日、康彦さんの愛車アウディで私たちは湘南へと向かった。
天気は最高の晴れ。BGMのボサノバが素敵だった。
「いやー何年ぶりかな、助手席にこんな可愛いお嬢さんを乗せるなんて」
「恥ずかしいです。お義父さんもそう言って今まで何人口説いてきたんですか?」
「ゼロッて言ったらウソになるかな、でも僕の場合、仕事関係だよ」
「本当ですか?」私は怪しんだ声で訊いた。
「もうその話はおしまい。さあもうすぐ134号線、海が見えるよ」
眼下にエメラルドグリーンの海が広がっている。
こんな観光に来たのはいつ以来だろう、春人とは同棲して以来、ほとんどデートらしきデートにも行っていなかった。
私たちは江の島に車を止めてエスカーに乗って江の島タワーに登った。
はるか遠くまで見渡せるオーシャンブルーの太平洋。気分は壮快だ。
帰りの坂道は2人で手をつないで降りた。周りはカップルばっかりなのが気になったけど。
*
海沿いのレストランはフルコースのフランス料理。
オマール海老や柔らかい牛肉のステーキを堪能した。
そのあとは車を置いて江ノ電で大仏へ。
今日はだいぶ歩いたので滅多にはかないハイヒールで靴擦れをおこしていた。
「あれ、靴擦れだね、大丈夫?」
「この靴で歩くのに慣れていなかったもので・・・」
「そっか、よかったらどこかホテルに入ろう、傷の手当てさ。君も疲れたんじゃないかな?」
「そんな、ホテルだなんて、良くないわ、お義父さん」
「いいじゃないか、花音ちゃんも、その気がないわけで来たんじゃないでしょ」
「でも・・・」わたしは顔を赤らめていた。(康彦さんに抱かれる・・・そう思うと胸がドキドキする。私の思いはもう康彦さんに移っていたんだと思う。)
車で国道沿いのホテルに入った。
康彦さんはフロントに電話して絆創膏を貰ってくれた。
「ほうら、ストッキングを脱いで、傷口をだしてごらん」康彦さんの優しい声。
恥ずかしいけど康彦さんの前でストッキングを脱ぐ。康彦さんは傷口に絆創膏を貼ってくれた。
「今日は良く頑張ったね、僕からの感謝のキスだよ」そう言って耳元で囁く。
「花音ちゃん、君が好きだ、たっぷり僕にその体を味あわせておくれ」
私は耳を甘噛みされてとろけそうに感じるのであった。
康彦さんの舌が耳からうなじへと移っていく。
「だめ、お義父さん、康彦さん、私感じちゃう・・・」
それから私は私のすべてを康彦さんの体にゆだねた。
(いけない事をしてる)その罪悪感がまた私を興奮させた。
春人の荒々しいあれとは違って、康彦さんはゆっくり時間をかけて私の体中にキスを浴びせるのであった。
気付いた時にはもう私は大きな叫び声をあげて何度も昇天していたのであった。
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