「アフター2話」

ドアをばちこーんとふっとばし、ギルドに入ると大勢の視線を集めるが、それに構わずぷるぷる震える人は大きく声を上げる。


「大変なんだってば!!」


「だから何がだよ。 お前さっきから大変だとしか言ってねーぞ」


「あ、あれだよ!あれっ!!」



が、大変だとしか言ってないので、周りから見ればなんだこいつ?としか思われない訳で。

みんなの冷たい視線を受けた彼は焦った様子で入り口のほうを指さし今度は叫ぶように声をあげた。


その指のさす先には……遅れてギルドに入った、俺とタマさんの姿があるわけで。

てかあれとか失敬な。タマさんをあれ呼ばわりとか眉毛全部引っこ抜いちゃうゾ。


「あん?」


「あ、どーも」


今度はみんなの視線が俺へと集まる……やだ、恥ずかしい。

頬そめちゃうよ?


「お、お前……ウッドが……?」


あ、ゴリさんおった。

ぽかんと口をあけて、イケメンゴリラが台無しですわよ?


ま、冗談はおいといて。

1年ぶりに戻ったわけだし……そりゃそうなるよね。


「ウッド、ただいま戻りましたっ」


「お前ぇっやっぱ復活しやがったか! この野郎がっ!!」


俺がびしっと敬礼して挨拶すると、ゴリさんがすっごい笑顔で近寄ってきて、バッシバッキと肩を叩いてきた。

力くっそ強いんですけどっ!?てか、折れる、折れるよゴリさんっ!!



「腕もげても生えるもんねー。 今回は腕から生えたの?」


今まさに腕がもげそうなんですが、それは。

増殖しちゃうよ?


あとは俺は腕から生えたりしねーです。……実にはなったけどな!

てかカールさん変わらないな。相変わらず男か女か……あれ?


この人女性だ!!???

装備外してる姿初めてみたよ……この腰の細さとお尻の大きさは女性に違いない!やったぜ!


あ、タマさん腕が地味に痛いのであまり強く噛むのは勘弁してくだし。


「復活して良かったです……あらあら、あら? 腕が少し違うかしら?」


逆にマリーさんが男だった受け……ん?腕?


……???


あっれ、腕の形状なんか変わってるんですけどっ!?

ちょっと滑らかになってる……ゴツゴツした感じが無くなって、つるってなってる。


……世界樹から生まれなおしたからか?いや、よく分からんね。


まあ、気にしないでおこう!

元からこの体のことなんてよく分かってないんだし?


五体満足でタマさんもふってもふれれば俺は満足なのである。



「よっし……おい、手空いてるやつ酒買い占めてこい!」


そう言うや否や袋から大量に金をとりだすゴリさん。

いや、ちょっと多すぎやしませんかね??街中の酒買い占める気かいな。


手近にいた新人っぽい人に無理やりお金を渡すゴリさんを微笑ましく眺めていると、背後からコツコツと足音が聞こえる。


……この足音は……って、振り返る前に頭の触手の目玉で見えてるんですけどね。リタさんだ。


「ウッドさん……」


「あ、リタさん。 ど、どもです」


リタさんとも1年ぶりの再会となる。

いつも通り無表情でクールに見えるが……うっすら涙目になっているのはきっと俺の気のせいではないだろう。


そんなリタさんも可愛いですね!


「いだだだっ」


「?」


タマさん本気で噛んじゃダメエっ!

噛んだ後舐めたってダメなものはダメっ!


ほら、リタさんが首傾げてるじゃん!



「……いろいろお話したい事がありますが、しばらくは無理そうですね」


「ははは……」


リタさんに言われてギルド内を見渡すと……うむ、すんごい慌ただしい事になっとる。

ひたすら酒の買い出し……さらにはどこから持ってきたのか大量の食糧も持ち込まれている。

こりゃしばらくの間……それこそ丸一日は宴会が続くんじゃなかろうか?


まじで街中の酒を買い占める勢いだなーこれ。



「無事戻られて本当に良かったです……それではまた後程話しましょう」


もちろんですとも!

俺なんぞで良ければいくらでも話しますとも、説教でも喜んで聞く所存!


タマさんに冷たい目で見られたけど、復活した俺はそんなの気にしません。

むしろ冷たい目でみられて喜ぶまである。


あ、でもちょっと本気で噛むのは許してほしいなーなんて……あの、メシメシいってるんですけど、あの。





世界樹の実から生まれた俺ですが、見た目だけじゃなくて能力にもちょっと変化があったらしい。

へし折れた腕も一瞬で治りました。やったねタマさん、折り放題だよ!?勘弁してくだし。


あ、ちなみにだけどもう宴会は始まっていたりする。

まだまだ酒は運び込まれているし、料理も用意している最中なんだけどね。

運ばれた先、できた先からギルドにいる人間のおなかに収まっていってる。

すでに出来上がっているやつがちらほら居るぐらいだ。



「ぶふぅう……しっかし、お前が世界樹を動かせるとはなあ……」


ジョッキの中身を飲み干し、大きく息を吐くゴリさん。ちょう酒くせえ。


てか……そっか、俺が世界樹を動かした事になっているのか。

俺の記憶では……そう、俺の記憶ではそれは違うのだ。誤解は解いておかなきゃいかんね。


「あー……あれなんすけどね、動かせたってのはちょっと違うんす」


「そうなのー?」


俺の言葉に反応するカールさん。

あ、俺の周りにはゴリさんチームが全員揃ってるよ。あとタマさんとリタさんもね。

ほかの人はちょいちょい声を掛けてくるけど、邪魔しないようにしてくれているっぽい。

それより酒だ酒だって声が聞こえて気がするけど、きっと気のせい。ぐすん。


……ええと、なんだっけ。

そうだ、誤解解かなきゃいかんのだった。


「動かそうとしたんですけど、速攻で取り込まれて意識失っちゃって……きっかけぐらいにはなったかも知れないすけど」


「なるほどねぇ」


俺の言葉に納得したように頷くゴリさん。

やっぱさ、あんだけでかいものを動かすなんて無理があったんだよ。

俺が動かしたんじゃなくて、たまたま動いたタイミングで俺が取り込まれただけってのが真相だ。

ま、きっかけぐらいにはなったと思いたいけどな!


「出して貰えたのもたぶん運がよかったと……下手すりゃ一生あの中でしたね」


「あー……もうやらねえ方がいいな、そりゃ」


ほんとほんと。

俺が出れたのは世界樹の気まぐれにすぎない。

もともと世界樹の分体のような俺だ。世界樹にとっては別に取り込んだままだって問題はなかっただろう。


本当、運がよかったと思う。


「痛い痛いっ、タマさんっ!?」


「ニャッ!」


俺の話を聞いたタマさんがげっしげしげしと蹴りを入れてきた。

タマさんちょっと涙目だし、本気で怒ってる……申し訳ないと同時にすごく嬉しい。


……1年ぶりの再会なんだ、今は皆と再会を喜び、そのあとは暫くタマさんと一緒にゆっくり過ごそう。

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