閑話「むしった」

ふと、気が付いて目を開けるとそこは白一色の空間だった。



「…………はっ!?」


俺は確か世界樹と一体化して意識を失って……ってことはまさかここって!?


前にうさん臭い神様と出会った場所ではないか、そう考えた直後背後から声が掛かる。



「やあ、久しぶり。本当にたすか――」


「っっだっしゃらあああ゛あ゛ぁ゛っ!!?」


「――あがあああぁぁあっ!!?」



聞き覚えのあるその声に、俺は振り返ると同時に声の主へと距離を詰め、そしてむんずと髪を掴み思いっきり引っこ抜いた。


少し寂しくなっていた頭皮がさらに寂しくなったぞ! やったぜ!




「ひ、ひどいじゃないかっ!いきなり何を」


「だまらっしゃい! 残り全部むしるよっ!? まじでむしるよっ!??」


残しただけ温情だと思うんだっ!


「…………」


「何か言いなさいよっ!」


「理不尽っ!?」






……髪の毛むしったら徐々に落ち着いてきた。


そんな俺の様子を見て、うさんくさい神様は恐る恐るといった感じで話し始める。


「あー……お疲れ様。 本当に助かったよ……ちゃんと強制じゃなかったでしょ?」


「半ば強制みたいなもんじゃんっ! あの状態でやるなって、そんなこと出来るわけねーですし」


強制ではなかったけどさ! 脳内でガンガン声聞こえるわ、みんなピンチだわで強制みたいなもんじゃん!

思い出したらまた腹立ってきたぞっ。




「ははは、確かに」


なに笑ってん。




「さて……それじゃこの後についてなんだけど」


「ぬ?」


残りもむしってやろうと、手を伸ばしたところで急に話題を変えようとする。


その手には乗らんぞっ、もう残りの毛全部むしるの決定してるんだからねっ。



「生き返るってことでいいかな?」




………んん??



「へ? ……え、生き返れる? 俺が? まじでっ!??」


まじかよっ!

もっかい生き返れるんかいっ!?


てか最初から言ってよ!!



「うん、まじまじ……の、つもりなんだけどねえ?」


あ、やべ。


俺の手にはさっきむしったばかりの毛がもさっと付いてる。

うさんくさ……カッコイイ神様は俺の手をじーっと恨めし気に見つめて……や、やばい。



「……っす」


ここは謝るしかない!

早く言えよこの野郎!と思わなくもないけど下手に機嫌そこねて生き返らせないとかなっても困るし!


みよ! 必殺本気土下座ッ!!



「早く言えよこの野郎ッッ!!?」



すみませんでしたああああっ!!




「わあ……本音と建て前が逆になってるの初めてみたよ」




やらかした。




でも生き返らせてくれるらしい。

やったぜ、この神様ちょろいぞ。


「もー……生き返るならそうと最初から言ってくれれば良いのに。 てか過去の人もそうなの?」


いや、ほんと、まじで。


「まあね……教えたら指導者が来ると同時に何の躊躇いもなく一体化しちゃうでしょ?」


そりゃ勿論そーですとも。

神様の問いにうんうんと頷く俺。


「いやあ、それやっちゃうとねーダンジョン側もそれ相応の対応してきちゃうんだよねー……具体的に言うと君がレベル1でダンジョン入ると最下層の敵がお出迎えする感じ? あとは地表に残ってるモンスターが世界樹関係なく君を殺しに来る」


「だめじゃんっ」


無理ゲーにもほどがある。

いくら補正あったっていきなり最下層の敵とか無理だ。


なんか話した神様もため息してるし、なんか色々あるんだろう。

こっちとしては何とかしてよって気持ちではあるが……。



「色々と面倒なんだよー……あ、そうそう。 一体化しても生き返れるってことが後の人に伝わると不味いんで、生き返ったらちょっと記憶とか操作するね、周りの人含めて」


「……おぉぅ」


「生き返るのにちょっと時間掛かるけど……ま、遅くても1年以内には生き返れるよ。 それじゃ、心の準備はいいかな?」


「え、1年!?」


今すぐじゃないのっ!?

てか1年とか俺のこと忘れられちゃんじゃっ!??


「じゃ、暫くここには来ないようにね?」



うぉぉぉおおおいいっ! さらっと流すんじゃ――






やっぱ全部むしっておけば良かったとすごく思います。

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