第64話 「63話」

うんうんと唸ってる俺をみてタマさんが肩をぽんと叩く。

何か名案でもあるのかと振り返れば、タマさんはグッと親指を立てて見せる。 やだ、タマさんてば格好良い。


「気にするニャ。 壊れていいのしか貸し出さないニャー」


「壊した本人が言っちゃだめデショ」


「ニャ」


名案でも何でもないやんけー。

一応悪かったと思ってるのか前足をぺろぺろと舐めるタマさん……悪かったと思ってる?


しまいには毛繕い始めましたヨ。



しゃーない。

謝りに行こう……。


「すいませーん」


「おう、兄ちゃんか盾が出来とるぞい」


装備屋さんにいくと何時もの店員さんが出迎えてくれた。

そしてすぐに布に包まれた盾を奥から引っ張り出してくる。


きっちり仕事してくれたみたいー……余計申し訳なくなりますのう。


「ありがとうございますー! ……あ、借りてた盾なんですけど」


「ぬ?」


なんだ?と首を傾げた店員さんにすっと盾を差し出す。

もう一目見て分かるぐらいずたぼろである……。


「壊れちゃいまして……」


正確には壊しちゃっただけどね!

タマさんがっ。


「こりゃまたずいぶん傷だらけだな……それなりに丈夫な金属だったんだが、それがここまでなるとはなあ」


店員さんだけど、かなり驚いた様子で盾を観察している……何か結構丈夫な盾だったのね。

いや、まじすんません。


「かなり下層まで行ったんだのお」


「は、はい……」


ごめんなさい。本当は宿でずたぼろになったんです……。

犯人すぐそこに居るんです。


「そうなると、その盾も慣らしをしてから使った方がええじゃろな」


慣らしとな?


「ニャ。 そのへんはちゃんとやるから安心するニャー」


胸をはってそう言うタマさん……。

じとーっと見つめてみたけど、目すら逸らさないぞこのにゃんこ。


「お前さんが居るなら大丈夫だな……ま、これで仕事は終わりだの。 また何かあれば来てくれい」


「ありがとうございましたー」


んまあ、こんな感じで盾に関してはお咎め無しだった。

タマさんの言うとおり壊れても問題の無い盾だったと言うことだろう……でも。


「ほんと良かったのかなー……」


やっぱ気になるものは気になるのです。

……でもタマさんまったく気にしてないしなあ。店員さんもそんな気にしてなさそうだったし、それが普通なのだろうか……。


悩んでもしゃーない。そういうことにしておこう、そうしよう。



んし、切り替えた。

さっき気になって聞きそびれたことでも聞いてみよう。


「ところでタマさん、慣らしって何するの?」


「浅い階層からその盾だけで戦うニャ。 鬼鉄製だから、どんどん強くなるニャ。 いきなり八つ目あたりと戦うと壊れちゃうかもなのニャー」


「なるっほど」


そかそか、そうだよね。

レベル低いうちから強敵と戦ったら死んじゃうように、この盾も鍛える前から強敵と戦ったら壊れちゃうかもだ。


とーなると、明日は久しぶりにゴブリン狩りかな? 収入にはならないけど盾を鍛えて、ついでにゴブリンでも吸って果物作れるか試しておこう。


今日? 今日はお腹やばいし無理かな……戦闘中に催したら社会的に死んでしまう。


そんなわけで宿に戻りますよ、タマさん。

明日に備えて休むのです。




んで翌日。

今度はタマさんがお腹壊しました。


なんでや……一日遅れてっておじいちゃんの筋肉痛でもあるまいし……。


しかし……。

かなり体調悪そうだな、タマさん。


「タマさん大丈夫……?」


「大丈夫じゃないニャ」


ですよね……。

何かもう顔色……は分からないけど、毛艶がよくないし、声に張りが無いし……あかん。


「とりあえずこれ、お腹の調子整える効果つけたバナナね」


「ニャー……」


バナナにお薬効果つけてみた。

ちょっとタマさんが体調悪いと聞いて焦って作ったものだけど、効果はあると思う。


……森が一部枯れちゃうぐらい吸ったし。

いや、焦ってたもんで加減がね……?


「ウッドは今日どうするつもりニャー」


「ん? 今日は俺も休むよ。 しっかり看病するから安心するのです」


こんな体調悪そうなタマさん置いてく訳にはいかない。

果物効果あるようなら、症状に合わせて色々用意したいしね


「ニャ。 お腹壊しただけニャ。 看病なんていらないニャ」


「いやいやそういう訳にもいかんでしょ」


「いやニャ。 手つきがやらしいニャ」


「えぇ……」


いやらしいてそんな……ちょっと手をワキワキしただけじゃない。


「盾の慣らしは時間かかるニャ。 タマが休んでいる内に進めておくニャー」


「あー……そか、ゴブリンから始めないとだもんね。……でも」


時間かかるのは分かるけど、それでもタマさんを置いてくつもりは無い……と言おうとしたんだけど。


「適当に臨時パーティー組んでいくニャ。 知り合いぐらい……知り合い居るのかニャ?」


「し、ししし知り合いぐらい居るしっ」


遮るように言ったタマさんの言葉。それに思わず反射的に応えてしまう。


「なら良いニャ。 適当に臨時パーティー組むと良いニャー」


「えー……」


その後も置いてく訳には~いいから行くニャーとやりとりを繰り返し。

バナナをかじったタマさんの体調が一気に回復したこともあって、結局俺が折れる形になった。


体調回復したとはいっても本調子ってわけじゃないので、タマさんは今日はお休みである。




タマさんがちょっとお休みニャーとかいったら、途端にボッチになってまう……か。

まさか速効でフラグ回収することになるとは思わなかった。


臨時パーティー果たして組めるのだろうか……。



等と不安に思うも出かける準備が整ってしまう。

俺はタマさんに声をかけると、とぼとぼと重い足取りで宿を後にし、ギルドへと向かうのであった。

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