第61話 「60話」

風呂に行く前に必要な物揃えないとね。


と言うことでまずは雑貨屋さんにきておりますよ。

タオルぐらいあるだろーと来てみたけど、ちゃん石鹸やら桶もあった。ありがたいね。


……あとちょっと良さげな櫛も見つけたのでこれも購入しておく。

ちょっとね、タマさんのご機嫌取りってほどじゃないけど……ほら備えあれば憂いなしって言うじゃない?


お風呂の結果によっては爪研ぎにされる未来がありそうなのでね。ハハハ。



「それじゃ石鹸とタオルと着替えと……そんなもんかな」


「ニャー」


大体買ったのでお風呂行きますかね。


「混んでるかなあ、空いてるといいんだけど」


「ニャー」


俺もタマさんも目立つからね。

出来るだけ空いていてくれたほうが有難いのである。


「宿のお姉さんの話だと割と近くってことだけど……」


「ニャ」


地味に距離あるなあ。

歩いて15分かそこら経った気がする。


……というかね。


「……タマさん、さっきからニャーしか言ってないけど……」


「フシャーッ」


めっちゃ威嚇された。



どうどうとタマさんを宥めて少し歩いて行くと、前方に一際大きな建物が見えてきた。


建物から出てくる人は皆、髪がちょっと濡れている。

たぶんあれが目当てのお風呂屋なんだろう。


「ここかー……意外とでかいなあ、ここ」


「……」


タマさんてばすっかり無言になってしまって……。

だがしかし、何時までもあんな埃まみれというのは良くない。

なので心を鬼にしてタマさんへと声を掛けるのであった。



「タマさんタマさん。 行きますよ?」


「ぶにゃ」


可愛いな!もう!

何かいじけたタマさん見られただけでもう満足して……いかんいかん。

タマさんの気が変わらないうちにささっと風呂に行かねば。



タマさんの手を引いて風呂場へと向かう俺。

気分はお子様連れの父親である。


記憶あれだから子供居たとかも分からんのだけどね。



とりあえず、中に入って……入り口が一つしか無い、まさかの混浴であった。

まあ、野郎しか居ないんだろうけどな!



ささっと服を脱いで風呂道具一式をもって扉を潜る。

湯船に人影が見えるが、ありがたいことにごく少人数であった。

ガラガラなのはありがたいね。風呂屋にとってはそうじゃないだろうけど……たぶん夜が混むんじゃないかな? 仕事終えてひとっ風呂とかそんな感じで。


「何かルールとかあるんかねー」


「ニャッニャー」


こう、ルールとか気になるよね? あ、ならない?

何かローカルなルールとかありそうでさ、それを知らずに入ると常連のおっさんに怒られたりとか……まあ、いいか。気にせず入ろう。


んで、タマさんさっきから背後で何をやってらっしゃるので?



「湯気が嫌なのね……」


踊ってるのかなーと思ったら、湯気を払ったり目をゴシゴシしたてたらしい。

湯気が嫌いなのかー……ここまで来ちゃったし、ぱぱっと済ませちゃおうか。 ゆっくりするのは今度一人で来たときにすれば良いし。



「んー……湯船に浸かる前に洗うかな?」


「……ニャ」


タマさん埃まみれだからなあ。

お湯かけただけじゃ取れないだろう。


そんな訳で洗いますよ?


「タマさん、お湯かけるから目をつぶってねー?」


とりあえず洗い場にいって、自分にお湯を……そして動かないタマさんにもお湯をざばぁっとかける。


タマさんてばぶるぶるするでない。

辺りに色々と飛び散ったじゃないかー……しょうがないにゃあ。


「おし……それじゃ洗うけど、どうする自分で洗える?」


「ニャ……」


さすがに洗うのは自分で出来るようだ……。


ものすっごいしょんぼりした顔しながら洗ってるけど。


あんま見つめてるのも失礼だし、自分もさっさと洗ってしまおう。

新品の石鹸を泡立ててーと。


「ぷぅ……んん、髪がギシギシいってるなあ……やっぱ石鹸だけだとね」


泡を洗い流したけど、髪が半端じゃなくギッシギシいってる。

何時ものことだし、石鹸だからしょうがないんだけどねー。


せっかくお風呂入ったんだし、何とかしたいところではある……んんー。


「リンス……なんだっけムクロジだったっけ? 石鹸代わりになるやつ」


なんか石鹸代わりになる木の実あったよね、確か。

たぶん、普通ならあくまで石鹸の代用品なんだろうけど……。


「リンス効果とか諸々ついたムクロジの実……出来るかな? ……誰も見てないな」


俺の能力使えば出来ちゃう気がするんだよね。

失敗したら失敗したで石鹸で洗い直せばいいんだし、やってみようと思う。


……よし、誰も見てないな。

お肌にも毛にもむっちゃ良い感じの実よ、なるのです。

全てはタマさんのためにっ!


「……出来たし」


「ニャ? それ何ニャー」


死んだ目をしていたタマさんだけど、俺が何か実を作ったのを見て興味を示す。


ごめん、タマさんこれ食い物じゃないんだ……いちおう食えはするぽいけど。石鹸代わりなんだよね。


「石鹸代わりになる実だよ……いや、そんな絶望した目で見られても困る……」


なんかすっごい目で見られた。

食い物じゃなかったのがそんなショックだったのかタマさん……。



まあ、洗うんですけどね。

タマさんにもムクロジをこすって作った泡をお裾分けしつつ、自分のも洗う。


ギシギシした感じは消えたし、変なべたつきとかも無い。

割と上手くいったのではなかろうか?


「んっし、あとは湯船に浸かって帰りますかねー」


洗ったので湯船につかりませう。

タマさん、逃げちゃダメですよ?


「タマさん、実は結構ほっそりしてるよね」


「ニャッ」


にゃんこって濡れるとビックリするぐらい細くなるよね。タマさんも例外ではなかったようだ……お腹以外は。


とか考えてたら尻尾で背中叩かれた!

バチュッとか尻尾で出せる音じゃないぞ!?




まあ、色々あったけど無事お風呂から出ることが出来た。


バリバリ。


タマさんもホコリがとれて、艶々した毛艶になったし良かった良かった。


バリバリバリ。


さっきからバリバリとうるさいけど。

今はタマさんと二人、宿に戻って寛いでいるところだ。


バリバリッ。


あとは……。


「……さて作るか」


俺が果物を作るだけである。


ちなみにバリバリと言う音の正体は、タマさんが盾で爪研ぎしている音である。

装備屋から借りた盾……タマさんの爪によってズタボロになっている。



……失敗したら死ぬんじゃなかろうか、俺。

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