第26話 「25話」

ご飯うめえ!


「うまうま」


「飯食ったら元気になりやがって……」


やっぱご飯はしっかり食べないとね、体が資本ですし。

あ、この玉子焼きっぽいのお代わりお願いしますね、うへへ。


お代わりした玉子焼きっぽいのを口に押し込んでいるとゴリさんがこっちをじーっと見てくる。

……た、たべる?


「食ったらダンジョン行くわけだが……まず1匹か2匹狩って、そのあと3~4匹と同時に戦って見て問題ないと判断したら大量に狩る場所に行く」


あ、ちがった。

単に話があっただけだった。


「あれだけ動けてたんだ、問題は無いだろうが……ま、念の為だな」


「あ、ありがとうございます」


んむんむ。

まずは数匹狩って慣れてからってことだね。

まあ、そうだよね。 最初のゴブリンを思い出せば分かるけど初戦は本当必死だったもん。たぶんコボルトでも似たようなもんだろうね。


そんな状態であの敵が大量に寄ってくるところで戦えば……すぐ倒せればいいけど、もしそうじゃなかったら……うん、たぶん死ぬ。



「そういえばコボルトってどの辺りに出るんですか? この辺だとゴブリンしか見かけないですよね」


もっしゃもっしゃご飯を食べつつ気になっていたことをたずねてみる。

少なくとも1階層ではコボルトの姿は見ていない、あそこであったのはゴブリンのみである。

となるとたぶん居るのは下の階層なのだろうけど。


「2階層下に行けば出てくるぞ」


「2階層……それって結構遠いのでは」


おんや、1つ下かと思ったら二つ下だった……1フロアが結構広いんだよねこのダンジョン。

下に降りる階段?がどこにあるか分からないけど、中央にあるにしても端っこにあるにしてもかなりの距離を歩かないといけないはずだ。


「おう、歩きだと着いたら夕方だな」


「うへえ……」


何ともないように応えたゴリさんであったが、その内容は何ともなくは無かった。

歩くと夕方と聞いてげんなりする俺であったが、ゴリさんは気にせず言葉を続ける。


「つーわけで、走るぞ」


「うへぇ!?」


いやいやいや、歩いて数時間掛かる距離を走るって……あ、いやそれぐらいなら走れるね、てかゴリさんと出会う前に走ってたじゃん、俺。

もー……びっくりして思わず変な声出しちゃったじゃないか。


ともかくそれぐらいの距離なら何てことはない、今の俺なら楽に走れる距離だろう。

そう思い、食事を再開するのであった。



「着いたぞ。 こっからが3階層だ」


「少し萎んでいるな。 コボルトとやる前に吸っておけよ」


「はぁ……ひぃ……は、はい」


誰だよ楽に走れる距離だなんていったのは!? ええ、俺ですとも!


あれだ、ゴリさんにとっての歩いて数時間と俺にとっての歩いて数時間は違うってわけだ。遠いわ!

しかもさ、二人とは走る速度もスタミナも違うわけでさ、1時間も走ってないのにもう汗だくで地面に四つん這いになるぐらい疲れた。二人は涼しい顔してるけどなっ!


……とにかく体を休めないと……そのへんに根っこさして吸ってきますかね。


そう思い、俺は重い体を引き摺るように木陰へと向かうのであった。





補給完了しました。俺は元気です。

何時も思うけど疲労の飛び具合やばいよねこれ。


そんなわけでコボルト探そうとゴリさんらとブラブラ草原を歩き始めた俺なんだけど、徐々にゴリさんらが俺から遅れるようになってきた。

どうしたのかなー?と思い振り返るとゴリさんが何やら話し始める。


「歩いていれば向こうからやってくるが……そうだな、相手が複数でなければ近寄ってきても警告はしない。 敵の接近を探る練習だと思ってがんばれ」


「ま、まじですか……がんばりまつ」


俺だけで斥候みたいなことをしろと? ははは、無茶言いおる。


まあ、でもいずれ必要になる技能だろうし練習だと思ってやろうかね……いざとなったら助けてくれる、よね?


これだけ離れているとちょっと不安なんですが……え? 離れていれば一人だけのお前を狙うだろうって? もーゴリさんてば冗談きついんだからー。



ゴリさんの目はマジだった。


「接近を探るといってもなあ……どう探ったらいいのやら……あれ?」


こりゃ真面目に索敵しないといけない、でも俺そんなんやったことないしなーどうしようかなー。とか考えていたそのとき、ふと俺の耳が何かの音をとらえていた。


「何かとっとっとって音が?」


何かが歩いているような音がするなあ……ゴリさんじゃないよね。こんな可愛らしい音を出せるはずがない。


……まあ、とりあえず武器と盾は構えてと。


「がさっとな」


十中八九コボルトが近寄ってきているんだろう。

近くの茂みがガサリと音を立てた。俺はそちらへと振り返り、武器と盾を向け、そして茂みの奥から何かが飛び出して――


「うぉぉおあああっ!?」


――俺の顔面目がけて牙が迫っていた。

驚きの声を上げて咄嗟に盾で打ち落とすようにはじく。

小さく悲鳴を上げ、俺と距離を取ったのは全身毛むくじゃらの二足歩行する獣であった。



コボルトと聞いてどんな姿を想像するだろうか? 俺はそのまんま二足歩行するわんこを想像していた。実際ギルドの図鑑に描かれていた姿も正にそれだしね。


そんな姿のコボルトを敵とはいえ殺せるだろうか……なんて考えていたのだけど、実物を見てそんな考えはあっさり吹き飛んでいた。


黄色く濁り血走った瞳。牙をむく耳まで裂けた口にダラダラと垂れる涎、手に持つ槍のさび付いた穂先……そこからはただひたすらに俺へと向けられた殺意しか感じ取ることは出来なかった。


「怖いわっ! 思ってた以上に怖いわこいつっ!?」


「牙剥き出しで襲ってくるからな。 ま、落ち着いて対処すればどうとでもなる相手だろう?」


ゴリさんの言うとおり、落ち着けば今の俺であれば問題なく勝てる相手であった。見た目怖すぎるけど。


何度かコボルト攻撃を盾でいなしたり、躱したりしているとその手数の多さや速度に慣れていく。

そして噛みつきに来たタイミングを見計らってカウンター気味に盾で顔面をぶん殴る。

勿論貧弱な俺の左半身ではそれだけでコボルトを殺す事は出来ない、だが体制を崩すには十分なのである。


俺の叩きつけるようにふるった金棒は、咄嗟にガードしようとしたコボルトの槍とその腕を粉砕し、その勢いのまま上半身をミンチに変えていた。



……この金棒威力強すぎない? あ、金棒ってのはこれあれね。装備屋さんで用意してもらった特注の鈍器のことね。

全長は1mぐらいの金属で出来た六角棒で、持ち手は別にして太さは人間の腕ぐらいある。それだけでも凶悪だけどさらにトゲトゲ……というか突起?が所々ついている。まさに金棒と言った見た目の武器である。


「次はなるべく複数相手にするように」


そんな感じで俺とコボルトの初戦は俺の勝利で終わったのであった。

次は1対1ではなく1対複数でやらないとだ。

どうやって複数匹居るところ見つければ良いのか分からないけど……とりあえずがんばりますかね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る