第2話 「1話」

拝啓、神様。

恨みます。


あれから二日たった。

俺は水場と食料を探して森の中をあてもなく彷徨っている。

転生したこの体はかなり体力があるようで夜通し歩き続けても何とかなっていたりする。

右半身が木だとしてもそこはありがたい……てか気のせいじゃなければこの右半身ちょっとスペックが高い気がする。 どうも歩いてて疲労の溜まり具合が左半身と違うんだよね、右半身のほうが疲れがない。 とまあ、その辺りが判明したそのおかげか凹んでいた気持ちのほうは大分持ち直してはいる。



嘘です。

やっぱまだ泣きたい。


てかこの体は本当に木なのだろうか?と疑問が浮かぶ。

触った感じは確かに木である。ごつごつしていて固い感触。


だが腕を曲げたりするとなんの障害になることもなく普通の腕のように曲げる事が出来るのだ。

普通の皮膚との境目が切れて出血したりということもない。本当に不思議な体である。


ちなみに右半身が木といったけど、正確には右腕から右脇腹、右足にかけてと後は右の肩甲骨と首筋がちょっと。そんな感じで右半身が全て木と言うわけでは無かったりする。

息子が無事だったのは本当に不幸中の幸いだ。


あれまで木になったらもう本当に立ち直れないところだった……。



とか何とかあほなことを考えながら歩いてはいたけど、さすがにずっと飲まず食わずだときつくなってくる。


「腹減ったなあ……疲れた」


お腹がさっきから腹ペコだとアピールしているが、あいにくと食べられそうなものは見つかっていない。

ものすごく怪しげなキノコは生えていたけどあれは本当に最終手段だろう。下手すると食った瞬間この世からおさらばするかも知れないのだ。


食べ物もそうだけど、何よりまずいのは飲めそうな水すら見つかってないことだ。

たしか人は二日水を飲まないとあかんといったことをどこかで見た気がする……それでいくと俺はそろそろダメということになる。


今になって思えば緊張で寝られないからと夜通しで歩いたのがまずかったかも知れない。体力あるからと調子に乗ったのもまずかった。

ちゃんと休んでいれば……いや、だとしても二日歩いて水場が見つからなかったんだ、どっちにしろ……。


「……うぅ」


気持ちが落ちこんできたからか、心なしか体に力が入らない。


いや、これ気のせいじゃないわ、手足ぷるぷるしてるし。

糖分が足りてないのか頭がふらふらする、さすがに限界かも知れない。


……ちょっとだけ休めば……きっと……。


そう言い訳するように地面に力なく座り込み、そして俺はあっさりと意識を手放した。





「……生きてる?」


目を覚ますと夜中だった。

幸いなことにまだ力尽きてはいな……あれ?


「お腹すいてないぞ……喉も乾いてない」


意識を手放す前まで確かにあった空腹と渇きがなくなっていた。

ぐっと拳を握ればしっかりと力が入る。


……一体どういうこっちゃ? いや、回復したのはありがたいんだけど。


「むう、さっぱり分かんねー」


考えたところで答えは出ない。

空腹と渇き、それに疲れもとれた。 ならば再び進むのみ。


「とあっ!?」


そう思って立ち上がろうとしたところで俺は何かに引っ掛かり地面に顔面から突っ込んでしまう。

ぺっぺっと草を吐き出して何に引っ掛かったのかと見てみると、そこには信じられない……いや信じたくないような光景があった。


「手足から根っこが……」


俺の手足を引っかけたのは……いや縫い留めていたのは自分の手足から生えた根っこだった。

そりゃ手足が木なんだから根っこぐらい……。


「生えてたまるかってーの!」


右半身が木になった時点で半ば諦めてはいたけど、まさかこうも人間じゃない部分をあからさまに見せられるとは……さすがに凹む。もう泣いちゃうよ? 俺。




「よし、行くか」


本当に人間じゃなくなってしまったんだと凹んではいたが、ここは異世界である。

意外とこんな体も普通にあるのかも知れない。 そう思い込むことにした。


ていうかそうじゃないとやってられない。


なんかこう、ポジティブに考えてないと体よりも先に精神的にまいってしまいそうだ。

飢えと渇きは何とかなる。

それに当初不安に思っていた肉食の獣やモンスターも姿を見せる気配はない。

そうなればあとは気力がどこまで持つかだ。



「ていうかこの森なぜ動物おらんし……」


せめて小型の動物でもいればタンパク質がとれるのだが……あ、だめだよく考えたら火を起こす手段ないじゃん。

さすがに生で食う気にはならないし……てか寄生虫とか食あたり怖くて本当むりむり。


「とりあえず道に出るまで1週間がんばろう」


気力を持たせるためにと目標を立ててみる。

1週間歩けばさすがに何か見つかるはず……見つかるよね?


最悪道じゃなくてもいい、森から抜けられるならそれでもいい。

何も見つからなかったら……それはその時考えよう。今はただ歩くのみだ。


そう思い俺は暗い森の中、月明かりを頼りに歩を進めるのであった。

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