第3話 人気者はつらいなぁ
シーシー
昼食を終えたニャン吉は、木陰でゴロゴロしながら、つまようじで歯の掃除中。
今、ご馳走になったブリの照り焼きは、農業を営む藤田さんちの。
少し開いてた台所の窓から忍び込んで失敬したもの。
悪いと思いながらも、腹ペコになったら、理性も常識もへったくれもねぇ。
あ~あ~、満腹、満腹。さて、めしも食ったし、昼寝でもするか……。
スヤスヤ……
グーグー……
ガーガー……
グアーッ! ガアーッ!
なっ! なんだ? ……あああ、ビックリした。
自分のいびきで飛び起きたニャン吉は、よだれを拭きました。
「ね、ね。テレビ観た?」
(ん? 前回登場したおばさん二人じゃん)
「観たわよ。【交番に落とし物を届ける猫!?】でしょ?」
(ん? ……もしかして、俺のことか)
「そう。私の見間違いだったのよ。盗んだんじゃなくて、拾ったお金を交番に届けるために必死に走ってたのよ。あの、白黒のずんぐりむっくりの雑種に申し訳ないわ」
(……白黒のずんぐりむっくりの雑種なんて、長ったらしく言わないで、簡潔に白黒のネコでいいじゃねぇか)
「交番の防犯カメラにバッチリ映ってたのよ、戸を開けて、お金を置くとこ。正義の味方だったのよ、あの白黒のずんぐりむっくりの雑種」
(……また、フルネームだよ。略して、白黒のネコでいいって)
「もう、スゴい人気で、どこにいるんですか? 会いたいので、ネコの住所教えてくださいって、テレビ局や交番に視聴者からの問い合わせが殺到してるみたいよ」
(人気者になるのは悪い気がしないが、この辺が騒がしくなるのは御免だ。……旅でもするか)
つまようじをくわえたニャン吉は、旅に出ることにしました。
(さて、どこにするかな……海にでも行ってみるか)
ニャン吉は、ピューマのようにしなやかに走ると、川を越え、畑を越え、国道134号沿いを湘南のほうに向かいました。
(人は多いが、なかなかの景色じゃん。川沿いの田園風景もいいが、海も悪くないな。あとでひと泳ぎするか、ネコかきで。それまで、“海の家”の裏の日陰で一寝入りっと)
「ね、ね。テレビ観た?」
(ん? 青い水玉のビキニのかわいい子とピンクのビキニのきれいな子が立ち話中)
「【交番に落とし物を届ける猫!?】でしょ? 観たわ。カッコよかったね?」
(キャッホ~。ここでも人気者じゃん)
「めっちゃカッコよかった。会ってみたいね?」
(ここにいるよ~。どうしようかな……どっちもタイプだから声かけようかな)
「お~い! 泳ごうぜ」
「あっ、カレが来た」
(なんだよ、彼氏いんのかよ。トホホ)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます