第14話 花園の願い

 俺は菜保子を抱きしめながら花園とのやり取りを思い出す。


 俺が菜保子の家を背にして自転車に乗ろうとした時、花園に肩をつかまれた。


「大地君、菜保子を大事にするよね?」

「ああ。当たり前だ」


 ばんっと花園は俺の肩を叩いた。


「なにするん……」


 花園は泣いていた。

 それ以上は花園の泣き顔を見ちゃ悪い気がして俺は視線をらす。


「私、菜保子を諦めるから。もう一回告白しなよ」

「どうして急に気が変わったんだよ?」


 花園は俺の腕を掴んで睨んで来た。


「今、菜保子は泣いてる。菜保子の為だよ。大地君の為じゃない。菜保子が大好きだから幸せになって欲しい」

「花園」

「絶対に菜保子には私が好きなことは言わないで。『私には好きな人はいない。仲の良い二人が羨ましかっただけ』って伝えて」


 俺には花園の気持ちが痛いほど伝わって来た。

 菜保子を好きだからこそ花園は身をひくんだ。

 だからと言って。


「悪い、花園にも誰にも菜保子は渡せないから」

「菜保子を不幸にしたら私が許さないから」

「俺が菜保子を不幸になんかするもんか。……今日は帰る」


 俺は花園を置いて家に帰った。

 

 いくら花園が身をひくと言ったからってすぐに菜保子に想いを伝える気もしなかった。


 けど菜保子の方が俺のところに来てくれた。

 今はこうして俺の腕のなかにいる。

 そして菜保子は俺を好きだって言ってくれた。


知歌ちかがそう言ったの? 好きな人はいないって」


 チクリ。

 俺の心は痛んだけど約束したんだ。

 菜保子に言わないって。


「ああ、そうだよ」


 いつか花園が自分で言うかもしれない。

 だけど俺は何があったって菜保子を離さない。


「菜保子、好きだ」

「私も大地が好き、大好き」


 ずっと待ってた。


 こうやって菜保子と想いが繋がることを俺はずっと待ってた。

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