第2話
「当面の不安は解消されたのかな?」
一連の騒動の後、広は一人で物思いにふけっていた。
気がかりはあり過ぎるが、一つ挙げるとすれば圧倒的な知識不足である。
周りに歓迎されないカップルの一例として彼女が挙げた「ロミオとジュリエット」は流石に有名な作品だ大筋では知っている。
「だが嫌いな話だ!」
広は楽観主義だが日本の国民性としては多数派で誰しもバットエンドよりハッピーエンドの方が好きなはずだ。
「しかし、和美は好きなのかもしれない!」
これは確かめるしかないな。
かくして、とある放課後、勉強を教えてもらったお礼と称して近所のファーストフード店で彼女に奢っている(彼氏に奢られている)二人の姿があった。
「ところで!」
「前に話に出たロミオとジュリエットなんだけど?」
「詳しくは知らなくって!」
「どんなんだっけ?」
「はい!」
「この後の予定はありますか?」
「では、閉店時間まで一緒に居られますね?」
テストが終わってからはそれほど予定もない以上、軽く返事をしたが広は改めて彼女の凄さを思い知る事になった。
広の失策は古典中の古典を和美に詳しく聞いてしまった事である。
古典作品を語るには時代背景やお国柄も重要である。
外国の古い作品というのは広にとっては相当敷居の高いものであった。
(広は歴史も外国文化にも明るくない)
「そもそも、ロミオとてジュリエットとは…」
かくして広は閉店間際まで和美のマシンガントークによる銃撃を受け続けた。
結局、広の今の能力では膨大な情報量を処理しきれず広のロミジュリに対する知識は僅かに増えるに留まった。
「でも、本当に不幸な話だよね?」
「二人とも死んじゃうなんてさ!」
「いいえ!!」
「カップルが二人とも死んだからと言って!」
「私は不幸とは思いません!」
「ですが!」
「この作品の二人はとても不幸だと私は思います!」
「それで君はこの作品は好きなの?」
「この作品の二人はとても不幸だと思っているので!」
「当然嫌いです!」
さて、そろそろ店員の閉店時間過ぎてるんですけどオーラが増した気がするので今日はお開きにするか。
かくして広の疑問は一つ解消され、また新たな疑問が浮上するという事態に陥っていた。
「心中か!」
「死んだら駄目だし!」
「そんなドロドロした世界は知らない!」
「でも、和美は知っているんだよな!」
「ロミオとジュリエット」に関してはお芝居だし作り話だ。
でも名家とか金持とかは庶民より多くのドロドロしたものが渦巻いているだろう。
「作り話くらいで躊躇している場合じゃないな!」
広がまた一つレベルアップした瞬間である。
ちなみにゲームでは無いのでファンファーレは鳴らない。
「なるほど!」
心中について調べてみると三種類あることが解った。
まずは心中だが、複数の人が一度に自殺すること。
無理心中は相手を無理に自分と自殺させること。
そして後追い心中は先に死んだ人の後にに自殺すること。
「ロミオとジュリエットは後追い心中に当たるわけだ!」
そして同時に答えも解った。
「和美が死んだからと言って不幸とは限らないと言っているのは同時に死ぬ心中だ!」
そして後追い心中となるロミジュリは好ましくないと思っているということだ。
「正解です名探偵さん!」
「うっ!」
背後から近づく彼女にまったく気づかなかった広は店内だというのに思わず大声を出しそうになった。
「やれやれ!」
「待ち合わせの最中に調べ物などするもんじゃないな!」
「そうです!」
「私の事だけを考えて待っててください!」
和美がそう言って頬を膨らます。
可愛い。
広は思わず抱きつきたくなったがギリギリ堪えた。
「ところで!」
「普通は嫌いな作品名はあまり出さないと思うんだけど?」
「はあ?」
「負けます!」
「知識は手札です!」
「好き嫌いで手札を持つと勝負には勝てません!」
「つまり好きじゃないけど効果を狙ってこの名を出したと?」
「そうです!」
「敵わないな!」
敵わないけど幸せだ。
広は心の中で呟いた。
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