第四十七話 決着。


 風門流抜刀術最終奥義――龍牙りょうが


 それはまさしく竜巻であった。

 天をくほどの風の柱がところどころ紫電を発して松浪に襲いかかる。

 だが、松浪はひるまない。

 木刀を高く掲げ大上段に構える。


「破!」


 真っ向唐竹割りの剣速で木刀を一気に振り下ろす。


 斬!!


 なんと、竜巻が真っ二つに割れた。


「勝利しからずんば死!」


 松浪が叫ぶ!

 二つに割れた風の柱のあいだに飛び込んでまっすぐに突きを繰り出す。


「っ!―――」


 光の矢が大地に向かってくる。

 大地の右腕にはもう力が残っていない。

 受けも払いもできず、光の矢は大地の喉からうなじを貫きはしり抜けた。


「一本勝負あり、赤の勝ち!」


 行司が松浪の勝ちを宣した。

 松浪の木刀は大地の喉元一寸前で停止していた。

 光の矢は松浪が放った気魂であった。


 刹那、観衆が沸騰した。

 松浪を称える声はもちろんのこと、敗れた大地にも惜しみない拍手と喝采が送られる。

 だれもが立ちあがっていた。

 人智を超えた秘剣を駆使する大地。それを気迫で打ち破った松浪。

 天下無双武術会はじまって以来の名勝負にみな、感嘆と賛美の声をあげている。


「ま…負けた……おらが……」


 大地の右手から木刀が滑り落ちた。もうその手に感覚は残されていない。

 大地は松浪をみた。


「?!―――」


 松浪は勝ちを告げられても木刀を引かず、人形のようにその場に停止したままだ。


「筆頭どの!」


 異変を察知して剣武台に駆けあがってきたものがいる。

 諏訪大三郎だ。


 ぐらり。

 松浪が棒のように倒れかけた。

 それを諏訪ががしっと受け止める。


「だれか戸板を――」


「無用じゃ!」


 戸板を用意させようとした行司を諏訪が遮った。


「わしがこの手で運ぶ」


 諏訪は気を失った松浪を背負うと立ち尽くす大地にいった。


「次はわしと試合うてもらうぞ」


 捨て台詞のように言い放って諏訪は松浪を背負って剣武台を降りた。一丸も心配そうに付き添う。


 退場する真桜流の一同に惜しみない拍手が再び送られた。

 大地は茫然と見送るのみだ。




「どっちが勝ったのかわからへんな」


 鳴り止まぬ拍手のなか、虎之介がぽつりといった。

 祐馬は微妙な表情でうなづくと、抜け殻のように佇む台上の大地をみた。


「師匠……」



   第四十八話につづく


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