第十二話 告白


 大会二日目。

 芝増上寺、安国殿正面に設けられた特設会場は、今日も詰めかけた観客で満員の大盛況となっていた。


 最前列の記者席には例のごとく瓦版屋の辰蔵がどっかと陣取り、留書メモ帳を取りだして試合前の様子をさらさらと書き記している。

 そして、その横にはなぜか風巻大地の姿があり、大地は辰蔵の取材インタビューを受けていた。


「辰蔵さあに喋ることなんざ、なんもねえべよ」


「そういわず、おっしゃってくださいな。試合前の意気込みとかなんとか」


「それより、虎縞のあんちゃんにネタ流しているのは辰蔵さあだべか?」


 大地がずばりと核心部分を突いた。

 昨夜、虎之介から聞いた葛城暮葉の情報とやらが、どうもうさん臭いものばかりで参考にならなかった。世の無責任な風説を、ただ面白おかしく語ったに過ぎない。


「やっぱり大地さんでも暮葉さまのことが気になるんで?」


 辰蔵が興味津々といったふうにきき返す。

 実のところ、辰蔵にも暮葉の実力はわからない。自分より上位のものには勝とうとしない姿勢や格下相手の適当なあしらいには首をかしげざるを得ない。


「では直接、聞きにいらしたらよろしいのに」


 突然、暮葉の声が頭上から降ってきた。

 いつの間にか辰蔵と大地のいる枡席の前に立っている。昨日と同じ白の小袖に緋袴といった巫女装束だ。


「よろしいかしら」


 そう一言ことわって、暮葉が枡席のなかに入り、大地の傍らに腰を下ろした。

 いい匂いがする。焚きしめた香をほのかに身にまとっている。


「はっきり申しあげまして、わたくしはあなたに関心があります」


 暮葉が大地の目を見て告げた。秘めた想いを打ち明けたかのような唐突な物言いだ。


「ほう、こりゃ特ダネだ。剣士同士の禁断の恋の道行き。行く手に待つは、花か嵐か?!」


 勝手に見出しを決めて辰蔵が筆先を嘗めた。


「同士じゃねえべ。おら、おめさんのこと、(全然)知らねえだ」


「でも、あなたさまもわたくしのことが気になっているのでしょう?」


 濡れたような声で暮葉が大地にいう。

 他人や世間に対して関心の薄い大地であったが、暮葉には正直ひかれるものがある。

 だが、それは色恋の感情ではない。あの日出会った大師匠に通じるなにかを感じるからだ。


「おめさんはなして、おらが気になるだか?」


 大地は疑問をそのまま口にした。


「だって、あなたさまは剣士にしては珍しい……」


 暮葉はそこで間をひとつおくと、両目の底を光らせていった。


「五の目を持つお方ですから」



   第十三話につづく


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