第56話 救出隊メンバー

 返さなくていいならそれに越したことはない。


「その条件をお聞かせください」


 俺はソフィアの母親をじっと見る。

 絶世の美女というわけでは無いが、愛嬌のあるふんわりとしたイメージを抱かせ、ずっと笑みを浮かべているのではないかと錯覚させるその顔がほんのりニヤリとした。

 あ、何か悪いこと考えている。


「簡単な話です。娘と結婚すれば良いだけですよ。このお金は私たち夫婦の個人的な物ですので、結婚祝いとしてお渡しする事も可能ですよ」

「お母様!」


 ソフィアは何か言おうとしたが、母親の一瞥(いちべつ)で黙ってしまった。


「どうです? 引っ込み思案な性格を除けば、器量よしの自慢の娘ですよ」


 母親は熱のこもった言葉を吐いた。


「……ええ、お嬢さんは家事も得意ですし、頭も良く飲み込みも早い。それに美人ですよね」


 両親の顔がパッと明るくなり二人は顔を見合わせた。


「じゃあ!」

「だからこそ、こんな金で買うような人じゃっない!」


 俺は立ち立ち上がり、礼をした。


「お金はきちんと返済します。ありがとうございました。行くぞ! ソフィア」


 そう言って鞄と剣を片手にもう片方はソフィアの手を引いて家を後にした。



「ご主人様、申し訳ありません」


 ムサシマルと合流すべく宿に向かっている道でソフィアは俺に謝る。その頃には俺も冷静になっていた。


「大丈夫だよ。もう落ち着いている。俺の方こそ悪かった。つい頭に血が上ってしまった」

「いえ、あたしはうれしかったです。両親にはあとで話しておきます」


 しかし、変な方向で暴走するのは両親譲りか?

 娘のことを思っての言葉かもしれないが、ズレてるんだよな。



「ほう、こんなにも借りれたんじゃな」


 ムサシマルはすでに起きて準備を済ませていた。


「食料は昨日のうちに酒場の御親父に頼んでおいた。これで馬もマナ石も買えるぞ」

「師匠、ちゃんと交渉して安く買ってきてくれよ。余裕はあるけど無限じゃないんだから」


 俺はムサシマルに一千万マルだけ渡した。この後、警備隊本部に行ったときに追加で金が必要かもしれない。

 全員がそろってから、少し早めの昼飯を食べてから出発することにした。


「じゃあ、後でいつもの酒場に集合で」


 そう言って俺は警備隊本部へ行き、レイティア達を呼び出してもらった。

 レイティアは暗い顔で出てきた。


「どうした?」

「それが……マリーとサラは今回の件には参加しないって言ってきたの」


 え、そうすると三人しかいないとなると警備隊の依頼が却下されるのでは?


「一応、あと二人は決まったのよ。その二人が問題でね」


 口ごもるレイティアの代わりにリタが話してくれた。


「やあ、子猫ちゃんたち、準備はできたかね。こっちの準備は整ったよ」

「「さすがですわ! アレックス様」」


 キザ男の後ろから、金髪の双子が出てきた。


「もしかして……」

「ええ、そのもしかしてよ」


 アレックスの取り巻きのレンとランだ。


「アレックスを隊長としてレン、ラン、レイティアそして私の五人で部隊を組む事になったの」

「よろしくな。依頼主」


 アレックスが参加するのは昨日の時点で分かっていたのであきらめがついていたが、まさか双子と一緒とは。俺よりもレイティアが心配だ。


「ああ、よろしく。隊長殿。ちょっと依頼主として隊長と二人で話があるんだが」


 俺はアレックスを連れてみんなの見えないところへ移動した。


「俺が編成について口出しできないことは承知している。また志願者が五人にないと依頼が却下されるから、それについても文句言うつもりはない。ただ、あの双子のレイティアに対する態度はお前の方でどうにか押さえろ。私怨で動かれるとこの依頼は命に係わるかもしれない」

「何言ってるんだ。あの双子は素直でいい子だよ」


 それは自分の感情に素直なだけじゃないのか?

 俺は初めてあの双子に会った時の双子の態度とレイティアの怯えっぷりを話した。


「わかった、それは僕の方で気を付けておくよ。じゃあ、僕の方からいいかね」

「ああ、なんだ」

「君は依頼主ではあるが、街の外に出た時から隊長である僕の指示に従ってもらうよ。君の私兵である、あの二人も含めて」


 私兵ってムサシマルとソフィアの事か。まあ、指令系統が複数あることは好ましくない。アレックスの言うことは理解できる。


「わかった。基本的にはお前の指示に従おう。ただしその内容に納得できない場合は独自の判断でやらしてもらう」


 俺たちは手を結んだ。

 その手は女性らしい柔らかさと警備隊として剣を握っている硬さが同居していた。


「ではまず、場所を移動してミーティングをしよう」

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