第25話 焦り
「わかった。今後、無茶はしないと約束するよ」
レイティアの気持ちが痛いほど伝わった。
俺に力が無いために……。
次の日、ムサシマルが探した安い宿に移った。
これでしばらく、路銀は持つ。
しかし、魔法習得には金が必要だ。
力もコネもない俺が金を稼ぐには情報の収集が最優先だ。
基本的に人が金を払うもの。
まずは生命活動に直結する衣食住である。
必要性が高いため、需要は多いが供給も多く、希少なものでない限り大きな儲けが出にくい。
次に娯楽だ。先日のダンスホールや酒だ。
人間はただ生命活動をするだけでは喜びや楽しみがないと生きていけない。
最後に情報だ。特に情報代以上に儲けが出る情報であれば、金を出す人間は必ずいる。
まず、冒険者ギルドに行く。
警備隊が委託で依頼を出していたり、民間人からの委託などもある。
今の俺が単独でこなせそうな依頼は無かった。
娯楽と言っても元手がかかる。俺が歌でも歌えればいいが、あいにくとそんな芸能は持ち合わせていない。
昨日会った女性なら綺麗な声で歌うんだろう。
とりあえず、ムサシマルの狩りの手伝いをしながら日銭を稼ぎ、空いた時間で稽古をつけてもらいながら、数日間過ごした。
その間に考えた罠をいくつか試してみたが、そんなに甘くはない。
だが、焦りは禁物だ。焦ってハイリスクなものに手を出すとロクな目に遭わない。
何か手があるはずだ。時間の限り街の中を散策し、色々な人に話しを聞いて回った。この国や街、近隣の情勢や近所の噂話、愚痴や悩みなど聞く内容問わず情報を集めた。
この国自体は今、近隣国と戦争状態ではない。
ここは街道の合流点の街で宿場街として栄えている。国境から離れているため、八年前のリザードマン襲撃事件以来大きな事件も起こっていないらしい。
宿場街として、流通の安全を重視して警備隊がかなり大組織として形成されており、街、街道の危険因子を取り除いたり、積荷の警備を行なっていたりする。
ただし、警備隊にも限界があるため民間の冒険者に依頼も多く、この街の人間の多くは宿場関係者、警備隊、冒険者である。
街で働くだけでも食べて行くだけなら可能だろう。
しかし、魔法習得の金を貯めるにはかなりの時間がかかるだろう。それにレイティアから聞いた額にもかなりの開きがあり、実際どれほど金額になるのかわからない。
レイティアに心配されない、彼女と肩を並べた存在になりたい。そのためには、早急に魔法を習得したい。
習得の儀さえ受ければ何らかの魔法を覚えられる。そんな確証が俺にはあった。根拠は無いが。
そんな気持ちだけが焦っていた俺に、思いがけない訪問者が現れた。
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