第19話 魔法習得について

「ごめんなさい」


 レイティアはか細く、泣き出しそうな声で言った。


「レイティアが謝ることは何もないよ。全部、あの双子の逆恨みだろう。あの男に相手にされていない自分達の不満を、レイティアにぶつけただけじゃないか。君は被害者だよ。しかし、俺のことをゼロって蔑んでたけど、アレックスは魔法を持ってるのか? ムサシマルは男だと使えても一個だと言ってたけど」


 俺はレイティアを怯えさせないように冷静を装って話した。


「ありがとう、キヨ。落ち着いたわ。ふたりは昔からわたしにキツく当たるから凄く苦手なのよ。でも、キヨがかばってくれて嬉しかった」


 やっと笑顔が戻った。よし、気を取直してデート再開だ。


「そういえば、魔法ってどうやって覚えるんだ?」

「え!? なに言ってるの。十歳になる年に魔法技術院の偉い人から魔法を呼び起こしてもらったでしょう」


 ムサシマル以外には俺は別の国から来て、頭を打ったせいで記憶が混乱しているという事になっている。

 記憶が無いことはムサシマルにもまだ話していない。


「いや~、そうなんだけど、その後で魔法を覚える方法は無いのかなって。やっぱり、一つでも魔法を身につけたいなって今になって思ってね」


 レイティアは少し驚いた顔をして考え込んだ。


「可能性は低いけど、方法はあるわよ」

「本当に!」

「ええ、魔法技術院で魔法習得の儀をしてもらうの。うまくいけば、魔法を習得出来るわよ」


 それだけいいの? ん、でもおかしい。それだけなら、なんでゼロや一つ持ちって魔法を増やさないんだ?


「でもね。口で言うほど簡単じゃ無いわよ。まず、お金がかかるわ。十歳の時は国がお金を出してくれるから全員一度は無料で受けられるけど、それ以外だとお金を取られるわ」


 そりゃそうか。この世界では魔法の習得が重要だ。何の代償も無しにホイホイ魔法は習得できないよな。


「いくらくらい?」

「百万とも千万マルとも言われていてよくわからないわ」


 たっか!


「それに魔法習得の儀を受けたからって、必ず魔法を習得出来るか分からないわよ。魔法持ちが増やそうとして逆にゼロになっちゃったっていう話も聞いたことがあるわ」


 そこは元々、魔法が無いからお金を取られるだけのリスクか。百万なら手持ちとムサシマルから借金すればどうにかなるか?


「まあ、そんな感じだからほとんどの人は追加でお願いする事は無いわね。よっぽどのお金持ちかゼロの人かぐらいじゃないかな」

「レイティアは……」


 聞いて良いものか迷った。


「レイティアは魔法を増やしたくない?」


 レイティアはちょっと上を向いて考えた。


「そうね。増やせられるなら増やしたいけどね。ただ、どんな魔法になるか分からないし、たったひとつだけど今の魔法でチームに貢献できてるから、いいかな」


 おそらく、魔法の数で優劣を言われるこの世界で一つ持ちと馬鹿にされて来た彼女なりの心の着地点なんだろう。


「そうか、ありがとう。じゃあ、次は武器を買いに付き合ってよ」

「ええ。じゃあ、わたしの贔屓の店に行きましょう」


 レイティアももうさっきの双子の件は吹っ切れたようだ。

 そして、レイティアは思い出したように俺に言った。


「そうそう、キヨ。誤解がないように言っとくけど、アレックスは女性だからね」

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