第八章:This moment, we own it./03

 そうして、翔一の家を出てからきっかり一時間と十五分……とはいかず、少し混んでいたから一時間半ぐらい掛かってしまったが。とにかく、アリサのチャージャーは目的地である賑やかな港湾地帯に辿り着いていた。

 バリバリとド派手なOHVサウンドを惜しげもなく響かせながら、適当な駐車場の方へとチャージャーの鼻先を向ける。アリサが選んだのは港湾地帯の片隅にある、屋根も何も無い露天の有料駐車場だ。敷地はそれなりに広くて、見たところ駐車場自体もそこまで混んでいないから、停める場所には困らなさそうだ。

 そんな屋外駐車場のゲートへとチャージャーを突っ込ませると、下がったままのバーの前で車を停めたアリサが駐車券を……取ることは出来ず。右側の助手席に座っていた翔一が窓を開けて、彼女の代わりに手を伸ばして駐車券を取ってやった。

 この辺りは、右ハンドル前提の日本国内で左ハンドルの外車を乗り回す不便さの典型的な例だ。もし翔一みたいな同乗者が居なければ、アリサは一度チャージャーを降りて駐車券を取りに行くか、さもなくば無理矢理に右側へ身を乗り出すしかなかっただろう。

 とにかく、代わりに翔一が駐車券を取ってやれば、車の鼻先で行く手を遮っていたバーが跳ね上がり。アリサは翔一から受け取った駐車券をジャケットの胸ポケットへ雑に突っ込みつつ、チャージャーを駐車場の中に進めていく。

 駐車場の中をドデカいボディで徘徊すること数分、アリサは割と端の方にある適当な場所を見繕い、バック・ギアに入れるとチャージャーをその駐車スペースに尻から突っ込んでやる。

 そうして突っ込んだ駐車スペース、一台分の幅が割に広く取ってあるはずなのだが……それでも、チャージャーは殆どスペース枠内ギリギリにどうにかこうにか収まっているといった風だった。最近の日本車は衝突安全性などの兼ね合いでアメ車並みにデカくなっているから、それに対応する幅の取り方だといえ……流石に七〇年代のアメリカン・マッスルではキッツキツもいいところだ。まあ、だからこそアリサは駐車場でも外れの方の、特にガラガラな一帯を狙って停めたのだが。

 エンジンを切り、キーを引き抜いてドアを開け。停車したチャージャーから四人が続々と降りていく。直上に近づき始めた頭上の太陽からジリジリとした日差しが照り付ける中、宗悟とミレーヌの後部座席組はさあ行こうと張り切っている風だったが……チャージャーの横でうーんと軽く伸びをするアリサの方は、流石に少しばかり疲れ気味な様子でもあった。

「何だか悪いな、君にばかり」

 そんな彼女の様子をふと横目に見て、チャージャーの鼻先に寄りかかる翔一が言う。

「気にする必要なんか無いわよ。久々の遠出ってのもあるし、アタシも何だかんだ楽しいしね」

 すると、軽く肩を揺らすアリサが彼にそう返した。そんな彼女の言葉を耳にして、翔一が「そうか」と薄い笑みを浮かべる。

「おーい、お二人さんよー! 早くしねえと置いてっちまうぞー?」

 アリサと二人でそんな風な言葉を交わし合っている内に、宗悟とミレーヌはいつの間にか先に遠くまで歩いて行ってしまっていて。振り返った宗悟が声を張り上げて呼び立ててくるから、翔一とアリサは一度お互いに顔を見合った後「行こうか」「そうね、此処でグズグズしていてもしょうがないし」と言って、微かな笑みを交わし合うと。傍らの黒いチャージャーを離れ、先に行った彼らの後を追い二人で歩き始めた。

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