第七章:背中合わせのエレメント/03

「ところでお二人さんよ、明日はお暇かい?」

 そうしてデブリーフィングが終わり、要とレーアが退出し。例によって例の如くブリーフィング・ルームに居残ったイーグレット隊の面々が、特に何をするでもなく椅子に座ったままぐでーっとしていると。すると不意に宗悟がそんなことを翔一とアリサ、二人に問うてきた。

「何よ、藪から棒に」

「特にやることもないし、僕は暇といえば暇だが……宗悟、どうしてまた急に?」

「いんや、折角だしこの四人でどっか遊びに行かねえかなあって」

 にしし、と笑う宗悟曰く、二人を遊びに誘いたかったらしい。

 言われてみれば今日は土曜日、だから明日は当然のように日曜日で、休日だ。アリサも翔一と同じく、明日はこれといってやることもないから丸一日空いている。故にアリサは彼の提案、満更でもなく。彼女は「まあ、構わないわよ」と一度承諾した後で、更に続けてこんな疑問を……軽く首を傾げながら宗悟に投げ掛けた。

「かといって、移動手段はどうすんのよ。何処行くつもりなのか知らないけどさ、アシが無けりゃ話にならないでしょうに」

「当たり前だけれど、僕はバイクしか乗れない。車は無理だよ」

「へぇー、翔一お前バイク乗れんの? 良いじゃん良いじゃん、スゲーじゃん! 格好良いじゃん!!」

「……一応訊いておくけれど、宗悟? そういうアンタはどうなの?」

「ん? ああ、俺は無理。免許ねえし、そもそもバイクどころか自転車すら乗れねえ」

 アリサに問われて、ニヤニヤと笑みを浮かべながら宗悟がそう答えたものだから、質問した当人たるアリサは「そんなことだろうと思ったわ……」と特大の溜息をついて呆れ返り、彼女の隣では翔一が「そ、そうか……」と何とも言えない苦笑いを浮かべていた。

「で、ミレーヌはどうなのよ?」

「僕かい? 一応免許は持っているけれど、生憎と僕の車は二シーターなんだ。だから、此処に居る全員は運べない。悪いね、お役に立てないようで」

 残念ながら、ミレーヌも駄目なようだ。折角車を持っていたところで、確かに座席が二つしか無いんじゃあ、此処に居るイーグレット隊の四人全員はどうやったって運べない。

「ところで宗悟、いい加減に君もバイクの免許ぐらい取ったらどうだい? 移動手段はあった方が何かと便利だよ」

「だーかーらー、俺はタイヤ二本の乗り物はマジで駄目なの。自転車ですら無理だから俺」

 ミレーヌに言われた宗悟は、やはり笑顔を見せながらそう答えた後で、隣の彼女に向かってこうも告げた。

「それに、俺はミレーヌに連れて行って貰うからな。だから俺が持ってる必要もねえのさ」

「やれやれ……本当に、君という男はどうしてこう…………」

 そんな宗悟の言い草に、ミレーヌは大きく肩を竦めて呆れ返っていたが。しかし溜息をつくその表情は、何処か嬉しそうに緩んでもいた。

「宗悟は論外、ミレーヌも駄目となると……」

「…………ま、消去法でアタシが乗せていくしかないわよね」

「あー、なんか悪りいなアリサちゃん。言い出しっぺの癖に色々用意出来なくてよ」

「良いわよ別に、これぐらい」

「というか皆、何処に行くのかは知らないが……そもそも、電車とかは使えないのか?」

「翔一、残念ながらそのプランは現実的じゃねえ。一応路線は通っちゃいるが……天ヶ崎からだと乗り換えに乗り換えで、ものすっげえ遠回りになるんだよ。直線距離ならそこそこなのに、片道二時間半も掛けて行くのは馬鹿らしいだろ?」

「…………確かにな」

「っつーことで、お願いアリサちゃんっ!」

「しょうがないわね……でも年代物だから、乗り心地悪いとか文句言わないでよ?」

 そういうことで、何処に行くのかはさておき……とりあえず明日はアリサが自分の車を、あのドデカい一九六九年式のダッジ・チャージャーR/Tを出すことになった。

 実際、あのチャージャーは大柄なボディに見合うだけの後部座席を有している。二枚ドアのクーペで……というか、アレをクーペと呼んで良いのかも正直怪しいレベルのドデカい図体だが。とにかく二ドア四シーター車としては破格の広さを誇る後部座席なことには間違いない。二ドアの宿命で手狭なのは仕方ないにしても、まず間違いなく霧子のセリカ1600GTの後部座席よりは広いはずだ。

 何にせよ、話はそういう方向性で纏まった。後は行き先と……明日の集合時間はざっくり昼前ぐらい。翔一の家に宗悟とミレーヌが集合して、そこで合流するという形で話がついたのだった。

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